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「接客」を手放す動物病院。誠実風の対応をやめ、私たちが「医療の実行部隊」になる理由 命の現実に、ごまかしは通用しない。〜不安に寄り添うだけの獣医療に感じる「気味悪さ」〜

開院して数年。地域の皆様や、これまで当院を信頼して通ってくださった飼い主さんたちのおかげで病院の経営も安定し、私自身の獣医師としての人生も、少し違うフェーズに入ってきたと感じる今日この頃です。

今回は、当院のこれからのスタンスについて、少し静かに考えていることをお話ししようと思います。

過剰な「寄り添い」が奪うもの

思い返せば、開業当初は「病院を早く軌道に乗せたい」という思いもあり、飼い主さんの不安な心に寄り添い、優しい言葉をかける「接客のいい獣医」として振る舞っていた時期がありました。

飼い主さんの不安に寄り添う「接客」は、たしかに大切かもしれません。
ですが、最近ふと立ち止まって考えるようになったのです。

その過剰な寄り添いは、結果として飼い主さんから「命に向き合う強さ」を奪い、かえって辛い思いをさせてしまっているのではないか、と。

振り返ってみれば、根拠もないのにただ慰めたり、励ましたりするようなやり方で人間関係を構築して、本当に上手く行った試しがありません。

そうした「優しいだけの言葉」を与えられ続けると、飼い主さんも、あるいは働く従業員たちでさえも、少しずつ精神的に弱く、脆くなっていく。そして最終的には、耐えきれずに現実からの逃避や、パニックといった状況に陥っていく。私はいつも、そんな危うい気配を肌で感じていました。

最近の飼い主さんは、愛するペットのために一生懸命勉強されています。だからこそ、こちらが表面的な優しい言葉をかけても、本能的に「何かが違う」と気づいているはずです。病状がもう上手くいかないフェーズにきていることを、本当はご自身でも分かっている。だからこそ、獣医師からの「誠実風」な対応では根本的な安心は得られず、不安のループから抜け出せなくなってしまうのではないでしょうか。

医療という名目を借りた搾取

その不安のループを作り出している原因の一つが、「飼い主さんへの配慮を装った、検査の省略」にある気がしています。

費用や感情に配慮して検査を省略するということは、事実(データ)を捨てるということです。データがない以上、私たち獣医師は予測ベースで「考えうる最悪の可能性」を羅列して説明しなければならなくなります。そして最後には、根拠もないまま「まあ、とりあえずお薬で様子を見ましょう」と締めくくるしかない。

これでは、飼い主さんに「よくわからないけれど、すごく怖い可能性がいっぱいある」という純度の高い不安だけを背負わせて家に帰しているのと同じです。

飼い主さんは皆、ご自身の状況の中で「できる範囲で最大限のこと」をしてあげようと必死に病院に来られています。

それなのに、私たち獣医師が「このままでは結局誰のためにもならない」と薄々分かっていながら、適当な言葉で誤魔化し、データもないまま体に毒になりうる薬を盛り続ける。最後にご自宅で看取り、最も深い悲しみを背負うのは飼い主さんなのに、私たちはその時間にお金をいただき続ける。

これって、もしかしたら医療という名目を借りた「搾取」に近いのではないか……そんな風に感じるようになったのです。

「一緒に頑張りましょうね」と、獣医師と飼い主さんとの間に過剰な『絆』を作り出して安心させることも、見方を変えれば、その搾取の構造に依存させているだけなのかもしれません。

もし本当に、その抱えきれない不安な気持ちを解決したいと願うのなら、心底寄り添ってくれるべき相手は、獣医師である私ではなく、ご家族やご友人、恋人といった大切な人たちなのではないでしょうか。

ペットを見送るというどうしようもない悲しみや不安は、ご自身と本当に絆のある相手と共有し、痛み分けをしながら乗り越えていく。そして、無意味な治療に搾取されるはずだったお金や時間は、どうかご自身の心と体のケアのために割いてほしい。その方が、最終的にはるかに大きな「救い」になるのではないかと、私は感じています。

ごまかしの効かない物理的な現実

例えば、進行の早い悪性腫瘍(がん)を患い、すでに腎臓病などの持病も併発している猫のケース。

もし、「エコー検査は省いて、血液検査だけでいいから強い抗癌剤を出してくれ」とオーダーされたら、どうすべきでしょうか。
現在の腫瘍の姿(敵の現在地)を見ないまま、あるいは、悪性腫瘍は放置すれば1ヶ月で余命に関わることもあるのに、それすら確認せずに投薬を行う。

本当に動物のことを想うなら、「効かない薬で体を苦しめるのはやめて、お家で『大丈夫だよ、よく頑張ったね』と声をかけてあげてください」と伝えるべきではないでしょうか。それが、飼い主さんにしかできない本当の役割だと思うのです。

心不全の治療でも同じです。
「エコー検査はやらない」ということは、心臓の収縮率や左心房の拡張具合を見ないということです。それでは強心薬の適切な用量を判断することもできません。その結果、肺水腫になって死にかけ、大量の利尿剤をかけられてただ苦しむことになります。

「とりあえずお薬で様子を見ている」という安心感のために物理的な現実から目を背け、膿(うみ)にそっと蓋をすることは、決して「動物のための医療」ではありません。

そもそも、動物の体の臓器はすべて密接に繋がっています。
目の前の数値を一つだけ薬で下げようとしても、根本の「炎症」を正しく治めなければ、やがて全身の臓器が炎症の波に飲み込まれ、線維化を起こして次々と機能不全に陥っていくフェーズが必ずやってきます。がんの遺伝子変異にしても、それは常に体の中で起きている体質的なものであり、今ある薬の多くはそれを根本から魔法のように治せるものではありません。

そのようなごまかしの効かない物理的な現実がある中で、ただ飼い主さんを安心させるためだけに出される薬は、一体なんのための薬なのでしょうか。
根本的な解決から目を背け、ただ不安を和らげ、絆を感じさせるためだけのその場しのぎのカウンセリング。その実体のないパフォーマンスのようなやり取りに、私はだんだんと、ある種の「気味悪さ」すら覚えるようになりました。

「お話し」から「実行部隊」へ

極論を言えば、これからの時代、ただ飼い主さんの話を聞いて慰めたり、鑑別診断のリストを出したりするだけの「お話しだけの獣医」は、もうAIの方がよほど優秀なフェーズに入ってくると思っています。

人生相談や最悪の事態の想定は、あらかじめ飼い主さん側がAIなどを活用して済ませておく。そして動物病院は、その決断を正確に遂行するための「実行部隊」という位置付けになっていくはずです。

だからこそ、当院のスタッフの評価軸も明確です。
一番尊いのは、フロントの愛想の良さではなく、バックヤードでの「物理的で確実な処置」です。テンポ良く1分で採血を完了させ、極度に怯える猫をタオルで優しく包んでサクサクとエコーを終わらせてくれる。そんな裏方業務が得意で、淡々と命に向き合ってくれる実行部隊のスタッフを、私はとても誇りに思っています。

Googleなどの匿名の口コミに対する違和感も、実はここに繋がっています。
直す気も、きちんと事実を検証する気もないのに、「貴重なご意見ありがとうございます」と定型文を返すこと。
もし相手が理不尽なモンスタークレーマーなら、裏方で必死に動物を守っているスタッフに対して失礼です。逆に、もし本当にスタッフの対応がおかしかったのだとしたら、そんな中途半端な謝罪で済ませることは顧客に対して失礼です。本当にトラブルを解決したいのなら、こんなどっちつかずな手段は取らないはずです。

また、業者から星を買って低評価を希釈するような行為も同じです。
見栄えを良くして自分と合わない飼い主さんを呼び寄せたところで、結局は信頼関係に到達しません。その時、一番可哀想なのは振り回される犬猫たちです。

俯瞰して戦うためのインフラ論

特に免疫疾患やがん、心臓病といった病気は、その場しのぎの「点」の治療ではなく、長期的な「線」の治療が重要になります。だからこそ、合わない病院で無駄なトライアルの時間を過ごすより、その時間を「ご自身と本当に合う獣医師を見つけること」に使っていただくべきだと思うのです。

最近、私がネットの領域で少し顔を出して、病気の説明を発信し始めたのも、この「実行部隊としての役割」に特化するためです。

人間は、大事なものほど感情的になってしまい、怖い現実から目を背けて逃げ出したくなる生き物です。その気持ちは私自身も痛いほどよく分かります。
だからこそ、病気という「怖いもの」を一旦脇に置いて冷静に考えられるよう、私は動物の体を物理的なシステムやインフラに見立てて説明するようにしています。

  • 肝リピドーシス は、「パンクする物流センター」
  • 悪性腫瘍 は、「バリケードを溶かして新幹線に乗るゾンビ」
  • 心臓病 は、「劣化したパッキンと、逆流する水道管ポンプ」

このように俯瞰して、少しでも冷静に「どう戦うか」を飼い主さん自身に決めてほしいのです。獣医療は決して安くありません。だからこそ、賢い買い物をしてほしい。どうしても助からない病気も多いですが、それでも「自分できちんと状況を把握し、この道を選択した」という事実は、必ず最後を乗り越える自信に繋がるはずです。そして、もし無駄な治療なのであれば、そのお金はご自身の人生のために使ってほしいと心から思っています。


これからの当院のスタンス

どう戦うか、あるいは戦わないか。すべてを決めるのは、あなた自身です。
ですが、あなたが覚悟を決めたなら、私たちは「確かな技術を持つ実行部隊」として、いつでもここであなたと動物たちを支えます。

当院はこれから、飼い主さんのご機嫌をとるための「接客」を手放します。
その分のすべての時間と思考を、「目の前の動物の悪いところを一切の妥協なく見つけ出し、綺麗に治す」という純粋な医療行為だけに全振りします。

私の発信を見て、「声が嫌い」「説明が嫌い」「雰囲気が合わない」と思う方は、最初からそれが分かる良い検証材料になるはずです。合わない病院で無駄な時間とお金を使うくらいなら、最初からご自身と本当に合う獣医師を探していただくのが、動物たちにとっても一番幸せなことではないでしょうか。

今まで通ってくださった地域の飼い主さんたちへの感謝を胸に。
そして、「今までの診察とは違う切り口で、本気で命と向き合いたい」と思ってくださる方へ。

これからは「誠実風の接客」ではなく、「物理的な結果と事実」だけでお返ししていきたいと考えています。

English Summary

We are shifting our clinic’s stance from providing emotional “customer service” to functioning strictly as an “execution unit” focused on concrete medical outcomes. Excessive reassurance without factual basis can strip pet owners of the strength needed to face reality. True compassion means confronting physical realities—not skipping essential diagnostics to spare feelings, which only leads to prolonged suffering for the animals. By explaining diseases as physical infrastructure issues, we aim to help owners make calm, informed decisions. Moving forward, we will dedicate all our time and resources purely to precise diagnostics and uncompromising treatment, rather than superficial comfort.

中文摘要

我们将把诊所的立场从提供情感上的“客户服务”转变为专注于具体医疗结果的“执行部队”。缺乏事实依据的过度安慰会剥夺宠物主人面对现实所需的力量。真正的同情意味着直面客观的物理现实,而不是为了顾及情绪而省略必要的诊断,因为这只会导致宠物经历长期的痛苦。通过将疾病解释为物理基础设施问题,我们旨在帮助主人做出冷静、明智的决定。未来,我们将把所有的时间和资源纯粹投入到精确的诊断和毫不妥协的治疗中,而不是表面的安慰。