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「食べているのに痩せる」「吐き続ける」——猫が隠すSOSと、医療が追いつかなくなる日

食欲不振と嘔吐を主訴に来院された患者さんにおいて、開腹手術の結果、想定を遥かに超える腫瘍の浸潤と癒着が確認されました。外科手術において、当初の計画を完遂することだけが正解ではありません。術中の状況から「これ以上の侵襲は命に直結する」と判断し、術式を変更して早期閉創を選択した症例について、そのプロセスと術後の経過を報告します。

検査結果と過酷な現実の共有

初診時、患者さんは呼吸が早く、膀胱が重度に緊満した状態でした。

  • 血液・尿検査:BUN(尿素窒素)92 mg/dl、CRE(クレアチニン)2.4 mg/dlと顕著な腎数値の上昇を認め、尿比重は1.020と腎濃縮能の低下が確認されました。
  • 画像診断:腹部エコーにて腸間膜リンパ節由来と疑われる8cmの巨大腫瘤、および左腎臓の腫瘤、両側腎臓の構造破綻が確認されました。


提示した3つの選択肢

  1. 外科手術 + 化学療法:ハイリスクだが、腫瘤の正体を突き止め治療の活路を見出す選択。
  2. 点滴を中心とした対症療法(緩和ケア):外科介入を避け、苦痛を和らげることに専念する選択。
  3. 安楽死:これ以上の苦痛を長引かせないための最終的な医療手段。

ご家族の決断と「撤退」を前提とした介入

全く食事がとれない状態が続いており、このままでは腫瘍による圧迫だけでなく、絶食による「肝リピドーシス(脂肪肝)」から「肝不全」を併発し、多臓器不全で亡くなるリスクが眼前に迫っていました。安楽死や緩和ケアも含めた重い選択肢を前に、ご家族は深く悩まれましたが、「少しでも苦痛を取り除く可能性にかけたい」という強いご希望を受け、診断を兼ねた試験開腹を実施することとなりました。

麻酔リスクと当院の鎮痛プロトコル

  • 低侵襲な全身麻酔:腎機能障害による麻酔代謝能力の低下を考慮し、全身麻酔の深度を極限まで浅く保ちました。
  • 局所浸潤麻酔の併用:痛みによる血圧変動を物理的に遮断するため手術部位に局所麻酔を併用し、腎血流の維持と術中安定を図りました。

術中判断:術式の変更とその根拠

  • 高度な癒着:腫瘍は大腸を含む消化管を巻き込み、周辺組織と強固に癒着していたため、物理的な剥離・切除が不可能な状態でした。
  • 早期閉創の決断:予定していた食道チューブの設置すら、手術時間の延長が命に直結すると判断し断念しました。
  • 迅速な診断:脾臓と腸間膜リンパ節の2部位のバイオプシー(組織採取)のみを行い、速やかに閉創を完了させました。
👉 術中と腫瘤細胞診(横にスクロール)

術後管理と監視体制の限界

当院では静脈点滴が必要な期間のみを入院期間とする方針をとっており、夜間はペットカメラによる遠隔監視と、異常検知時の院長の駆けつけ管理を行っています。しかし、本症例のような数分単位で進行する術後の急変に対しては、たとえ監視下にあっても、駆けつけにかかる物理的なタイムラグによって蘇生処置が間に合わないという限界があります。

術後死の原因分析と病理結果

迅速な手術により麻酔時間は短縮されましたが、患者さんは術後数時間で呼吸促迫を起こし、院内にて死亡しました。術前の腎不全、巨大腫瘍、および絶食による衰弱が代償限界を超えており、開腹手術の侵襲が恒常性を破綻させる最後の一押しとなったと考えられます。

後日届いた病理検査報告(要旨):
採取された組織においてリンパ節の正常構造が不明瞭となっており、異型性の高いリンパ芽球様細胞(腫瘍細胞が疑われる細胞)の集簇と組織の壊死が確認されました。限られた組織量のため確定診断には至りませんでしたが、形態や増殖パターンから、当初疑っていた「悪性リンパ腫などの腫瘍性変化」を強く支持する所見でした。

飼い主様への注意喚起:命を救う「観察眼」

動物は不調をギリギリまで隠します。特に猫が食事をとれない状態が数日続けば、それだけで肝リピドーシスを引き起こし、命に関わります。

  • 「食べているのに体重が減っていく」
  • 「毛玉ではない嘔吐が続く」

これらは単なる胃腸炎や加齢ではなく、腹腔内の悪性腫瘍や内臓疾患の重要なサインです。症状が目に見えて悪化した時には、すでに外科的にも内科的にも手が付けられない状態に陥っていることが少なくありません。「いつもと違う」という小さなサインを見逃さず、手遅れになる前にご相談ください。

院長からのメッセージ

本音を言えば、もっと早く確定診断をつけて、少しでも穏やかな状態でお家に、ご家族のもとへ返してあげたかったです。それが叶わなかった無念は尽きません。ご家族が最後まで命と向き合い、最善を尽くそうとされたそのお気持ちは、間違いなく届いていたと信じております。

あえてこのような厳しい現実を公開したのは、病気の進行に治療が追いつかなければ、命はあっという間に失われてしまうという事実を知っていただきたいからです。この重い教訓を胸に、これからも一つひとつの命に誠実に向き合い続けます。安らかな眠りを心よりお祈り申し上げます。


English Summary

Title: Intraoperative Decisions in Abdominal Tumors: Choosing “Retreat” to Save Life
This case involves a feline patient with a massive abdominal tumor and renal failure (BUN 92, CRE 2.4). Despite surgical intervention intended to find a path for treatment, severe adhesions to the colon and surrounding tissues made excision impossible. To minimize physiological strain, the surgical team decided on an early closure after performing only a biopsy. The patient passed away post-op due to advanced systemic exhaustion. Pathology later strongly suggested malignant lymphoma. This report emphasizes the critical importance of early detection—specifically monitoring for weight loss and persistent vomiting—before diseases advance beyond the reach of medical intervention.

中文摘要

标题:腹部巨大肿瘤的术中判断:为了救命而选择“撤退”的抉择
本病例涉及一只患有巨大腹部肿瘤及显著肾衰竭(BUN 92, CRE 2.4)的猫。尽管家人希望通过手术寻求治疗希望,但术中发现肿瘤与大肠及周围组织发生严重粘連,无法切除。为了减轻患者负担,团队决定仅进行活检并提早缝合。患者术后因全身代偿极限破裂而去世。病理报告随后强烈提示为恶性淋巴瘤。此案例旨在提醒主人:动物极度善于隐藏痛苦。一旦发现“体重减轻”或“频繁呕吐”等微小信号,应立即就医,避免病情发展至无法挽回的程度。