診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-19:00
手術時間12:00-15:00
水曜・土日午後休診
今回は、高齢の大型犬(体重約21.4kg)の太ももに発生した、非常に大きな腫瘤(しこり)の摘出手術と、その後の長期的な健康管理についてお伝えします。この患者さんは、以前にも重度な両側会陰ヘルニアなど複数の大きな手術を乗り越えてきた非常に勇敢な子です。大腿部(太もも)の内側に、筋肉を巻き込むような形で巨大な腫瘤が形成されたため、外科的な介入を決定しました。
触診および画像検査の結果、腫瘤は表面の皮膚だけでなく、その下の「縫工筋」という大切な筋肉の下にまで入り込み、主要な血管や神経と極めて近い位置にありました。このまま増大を続ければ、脚の運動機能が失われるだけでなく、血管を圧迫して後肢の壊死を招く恐れがあったため、機能温存を目的とした外科的摘出の適応と判断しました。
様子を見る(放置する)という選択をした場合、腫瘤はさらに巨大化し、皮膚が自壊(破裂)して細菌感染を起こすステージへ進みます。また、筋肉や大腿動脈・神経への浸潤が進むと、激しい痛みから歩行不能に陥ります。最終的には命に関わる敗血症を引き起こすか、激痛を緩和するために緊急的な「断脚(脚の根元からの切断)」を余儀なくされる可能性が高い、極めて危険な状態でした。
シニア期であり、過去の手術歴も考慮すると、長時間の麻酔は血圧低下や心肺機能への負担を増大させます。当院では麻酔の安全域を広げるため、全身麻酔の濃度を限界まで下げる「局所浸潤麻酔」を徹底して併用します。術野の皮膚や筋肉に直接局所麻酔薬を浸潤させ、痛みのシグナルが脳へ届く前に根元で遮断することで、術中の血圧や心拍数の乱れを防ぎます。
今回、最も慎重に判断したのは、巨大な腫瘤を摘出した後の「皮膚の閉じ方」です。四肢(足)の皮膚は、背中やお腹などと違って皮膚のゆとり(遊び)がほとんどなく、腫瘍を切除した後に皮膚を寄せて閉じる(閉創する)ことが非常に困難な部位です。 その上で、以下の戦略を立てました。


当院では、動物がご家族の元でリハビリできるよう、静脈点滴が不要になれば原則1〜3日での早期退院を徹底しています。
また、夜間の体制については包み隠さずお伝えします。夜間はスタッフが不在(無人)となります。全ケージに設置したペットカメラで遠隔監視を行い、痛みで眠れていないなどの異常を検知すれば、院長が深夜でも駆けつけ追加の鎮痛薬を投与します。しかし、自宅からの移動時間(約30分)によるタイムラグは存在し、数分を争う突発的な心停止等の急変には対応しきれない物理的限界があることを事前にご承諾いただいています。
本症例において、恐れていた事態が発生しました。血流の乏しい足の皮膚に過度な張力がかかったことと、患者自身の免疫状態が重なり、術後数日目から重度な創離開(傷が開くこと)と深部感染が起きました。以下がその過酷な治療経過です。




なお、摘出した腫瘤の病理結果は幸いにも「良性の脂肪腫」であり、悪性腫瘍の転移の不安からは完全に解放されました。
死線を乗り越えた現在も、この患者さんは複数の慢性疾患と付き合いながら、ご家族と穏やかな生活を維持しています。
私が今回、あえてご家族の「手術をしなければよかった」という苦悩や、当院で発生した「過酷な合併症」のリアルを一切隠さずに公開したのには、明確な理由があります。
それは、「医療の現実を美談でコーティングすることは、命に対する最大の不誠実である」と確信しているからです。
世の中の多くのホームページには、手術の華々しい成功体験だけが綺麗に並べられ、「当院なら安心です」という幻想が売られています。しかし、現実は違います。外科手術とは決して魔法ではなく、時に今回のような絶望的な合併症(耐性菌感染や創離開)を引き起こし、ご家族を深い暗闇に突き落とす「修羅場」への入り口にもなり得るのです。
「先生にお任せします」という受け身の姿勢や、心が折れかけた時の感情論では、急変する命のシステムエラーは絶対に修正できません。最悪の事態が起きた時、敗血症の淵から命を引きずり戻せるのは、「決して現実から目を背けずに自宅ケアを完遂するご家族の覚悟」と、「限界を認め、次の一手を打ち続ける冷徹な論理」だけです。
これから当院で外科手術を決断されるご家族には、この「嘘偽りのない厳しい現実」を共有し、共に命の責任を背負い、戦い抜く覚悟を持っていただきたい。この記録は、そのための私からの宣誓(マニフェスト)です。
どんな過酷な状況に陥ろうと、私は事実を隠しません。そして、論理的な打開策がある限り、決して諦めません。共に戦う覚悟のある方は、当院のドアを叩いてください。
[English Summary]
Case: Excision of a giant femoral mass in a 21.4kg senior dog.
Surgical Strategy: We performed a V-Y advancement flap (tension-relieving incision) rather than an axial pattern flap. Because the skin on the limbs lacks laxity, closure is extremely difficult. We avoided axial flaps to prevent potential tumor cell seeding to the trunk via the axial artery, reserving amputation as a secondary radical option if the pathology indicated high-grade malignancy.
Complications & Outcome: The patient experienced severe postoperative wound dehiscence and deep infection, leading to a high risk of sepsis. Through the owner’s dedicated daily wound irrigation at home and our logical medical management, the wound successfully healed by secondary intention.
Conclusion: We refuse to sugarcoat medical realities. Surviving critical complications requires both the family’s unwavering commitment and the surgeon’s cold logic. This case exemplifies our dedication to facing the harshest realities to save a life.
[中文摘要]
病例: 一只重21.4kg的高龄犬大腿部巨大肿块切除术。
外科策略: 由于四肢皮肤缺乏张力,闭合创口极其困难。我们采用了V-Y减张切开术,而未应用轴型皮瓣,目的是为了防止肿瘤细胞通过轴向动脉播散至躯干。这一策略也为病理确诊为恶性时实施“截肢”保留了彻底切除的可能。
并发症与转归: 术后发生了严重的伤口裂开与深部感染,患者面临极高的败血症风险。在家属坚持不懈的居家伤口冲洗与医生的冷静逻辑指导下,伤口最终通过二期愈合成功康复。
结语: 我们拒绝用美妙的谎言掩饰医疗的残酷。面对致命的并发症,挽救生命的不仅是医术,更是家属绝不放弃的觉悟与医生应对极限的逻辑。本病例正是我们直面残酷现实、全力挽救生命的真实写照。