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【獣医師向け完全版】犬猫の眼瞼内反症整復術マニュアル 〜タッキングからHotz-Celsus変法まで〜

眼瞼内反症の整復術における実践的なオペレーションノートです。術式選択の判断基準から、繊細な眼科手技における器具の選択、具体的な切開・縫合の数値、そして予後を左右する合併症対策までを網羅しました。

執刀前の最終確認としてご活用ください。

術式選択の基本指針


1. タッキングスーチャー (Tacking Suture)
対象:若齢期(成長期)
成長に伴う改善が期待できる時期の一時的な矯正法です。角膜刺激を取り除き、疼痛による眼瞼痙攣の悪循環を断つことを目的とします。

2. Hotz-Celsus変法 (Modified Hotz-Celsus)
対象:骨格形成完了後の成犬・成猫、または永続的な内反
眼瞼皮膚を切除・縫合し、解剖学的に恒久的な矯正を行う根治術です。

術前準備と使用器具

眼科手術はマイクロサージェリーの領域です。肉眼では睫毛の向きや正確な切開ラインの判断が困難なため、適切な拡大視野と繊細な器具が成功の鍵となります。

  • 拡大鏡(サージカルルーペ)
    2.0~2.5倍程度を推奨。
  • 眼科用剪刀
    スティーブン氏テノトミー剪刀(組織剥離用)、ボン大学式剪刀(微細切開用)など。
  • 持針器
    カストロヴィエホ氏マイクロ持針器(6-0以下の細い糸を扱うため必須)。
  • 鑷子(ピンセット)
    アドソン鑷子、または組織侵襲を最小限にする眼科用有鈎鑷子。
  • 計測器具
    カストロヴィエホ氏カリーパー(コンパス)。切除幅を感覚で行うと過矯正・低矯正の原因となるため、ミリ単位の計測に使用します。
  • 眼球保護
    イェーガー氏角板(Lid Plate)。切開時の眼球保護と安定性の確保に不可欠です。
  • メス
    No.15ブレード(小動物の眼瞼操作に適しています)。

術式詳細:タッキングスーチャー(若齢期)

全身麻酔では眼輪筋の緊張が消失し内反を過小評価するリスクがあるため、可能であれば覚醒時にマーキングを行うか、鎮静・局所麻酔下での実施も考慮します。

  • 1針目の刺入
    眼瞼縁から2~3mm離れた皮膚へ刺入します。
  • 2針目の刺入
    最初の刺入点から10~20mm(個体差あり)離れた腹側へ刺入し、垂直マットレス縫合の要領で戻ります。
  • 縫合のポイント
    眼瞼縁に対して「垂直」に糸を通し、結紮することで皮膚に溝を作り眼瞼縁を外反させます。結び目は角膜を傷つけないよう、眼球から遠い位置に配置します。
  • 使用縫合糸
    3-0 ~ 5-0 ナイロン糸(非吸収糸推奨)。

術式詳細:Hotz-Celsus変法(根治術)

最も一般的かつ実践的な術式です。「眼瞼縁からの距離」と「切除幅」の決定が最大のポイントとなります。

Step 1: 切除範囲の決定(デザイン)

麻酔導入前に「つねりテスト(Pinch test)」を行い、内反が改善し、かつ外反しすぎない幅を計測します(小型~中型犬で最大幅5mm程度が基準ですが、必ず個体を計測してください)。

  • 上ライン(眼瞼縁側):眼瞼縁から2mmの距離を厳守します。これより近いと構造破壊、遠いと矯正不足の原因となります。
  • 下ライン(基部側):内反が最も強い部分で切除幅が最大になるような「三日月型(舟底形)」とします。

Step 2: 切開・切除

イェーガー氏角板を眼瞼下に挿入し、カリーパーで計測したラインに沿って切開します。皮下組織を含めて皮膚を切除しますが、眼輪筋の過剰な損傷は避けます。

Step 3: 縫合

  • 位置ズレを防ぐため、中央(切除幅が最も広い部分)から単純結節縫合を開始します。
  • 結び目が眼瞼縁側(角膜に近い側)に来ないよう、下側(基部側)に寄せて結紮します。
  • 使用縫合糸
    • 6-0 または 7-0 ポリグラクチン910(吸収糸)
    • または 6-0 ナイロン(非吸収糸)

術後管理と合併症対策

合併症対策の最重要ポイント
最も避けるべきは「過矯正による外反症」です。外反の修正(V-Y形成術など)は難易度が高くなります。「迷ったら少なめに切る」が原則ですが、再発を防ぐため術前の厳密な評価が全てとなります。

  • 術後管理:抜糸または癒合までエリザベスカラーは必須です。眼軟膏および全身性のNSAIDs投与を行い、術後の腫れと疼痛を管理します(痛みは眼瞼痙攣を誘発し再発要因となります)。
  • 矯正不足(再発):切除幅不足や筋弛緩による過小評価が原因です。再手術時には外眼角形成術等の併用を検討します。
  • 縫合糸による刺激:結び目は眼から遠い位置に残し、糸端は角膜を突かないよう短く切りすぎない(少し残して寝かせる)ように配慮します。

Clinical Pearls & Updates

痙攣性内反(Spastic Entropion)の鑑別
角膜潰瘍やブドウ膜炎などの痛みにより眼球が陥入し、二次的に内反しているケースがあります。麻酔前に点眼麻酔を行い、痛みが取れた状態で内反が消失するか確認してください。消失する場合は基礎疾患の疼痛管理、あるいはタッキングが優先となります。

外眼角靭帯の弛緩
大型犬などで外眼角の支持性が弱い場合、単純なHotz-Celsusだけでは改善しないことがあります。瞼全体を外側に引いてテンションが弱いと感じる場合は、外眼角固定術(Lateral Canthoplasty)の併用を検討してください。

※本記事は獣医師向けの術式解説です。薬剤の用量等は各施設のプロトコルに従って最終確認を行ってください。