047-700-5118
logo logo

診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-18:00
手術時間12:00-15:00
水曜・日曜午後休診

banner
NEWS&BLOG
【症例報告】「ネズミ取り罠で壊死した後肢を救う! 三本脚からはじまる、新しい一歩」

ネズミ取り罠で後肢が壊死した猫の断脚手術

― 早期処置の大切さと術後ケア、そして地域での取り組み ―

野良猫がネズミ取りの罠にかかっているところを保護した飼い主様が来院されました。
発見時には膝から下が黒く壊死しており、さらに放置すれば
敗血症や臓器障害などの重篤なリスクが高まる状態でした。
このような状況を少しでも改善するため、やむを得ず断脚手術を行うことにしました。
この記事では、その手術の流れと、術後に気をつけたいポイントについてご紹介いたします。

放置による主なリスク

  • 感染症・敗血症:壊死した組織に細菌が繁殖し、全身に及ぶ可能性があります。
  • 臓器障害:毒素の影響により、肝臓や腎臓をはじめとする臓器が損傷を受けやすくなります。
  • 激しい痛みや食欲不振:周囲組織の炎症により痛みが強まり、猫の生活の質が大きく低下します。

このように、壊死部位を残してしまうと猫自身が大変つらい思いをするため、
できるだけ早い外科的な処置が望ましいと考えられます。

断脚手術の手順

以下では、断脚手術の大まかな流れを簡単にまとめました。主に感染防止と出血のコントロールを念頭に置きながら進めます。

  • 皮膚切開:壊死部分を含め、膝下を円周状に切開し、感染や炎症が及ぶ範囲を確認します。


  • 血管のシーリング:膝周辺には太い血管が複数あり、シーリングデバイス(Ligasure等)を用いてしっかり止血します。

  • 靭帯の切断:膝蓋靭帯、前十字・後十字靭帯、側副靭帯などを切離し、必要に応じて膝蓋骨(patella)も切除します。


  • 骨の離断:ダイアモンドカッターで大腿骨の遠位(下側)1/3程度を切断し、切断面をなるべく平滑に整えます。





  • 筋肉の被覆:骨端を三方向から筋肉で覆い、水平マットレス縫合などでしっかり固定し、デッドスペースを減らします。

  • 皮下組織・皮膚の縫合:皮下を丁寧に閉じて血腫や感染を防ぎ、皮膚を縫合して終了です。

術後管理と廃用性萎縮への対策

断脚後は残った脚に負担がかかりやすくなるため、廃用性萎縮に注意が必要です。
痛みやバランスの問題から動きが少なくなると、筋肉が落ちて回復が遅れる恐れがあります。

早期のリハビリを意識すると、術後の回復をサポートできます。
例えば、術後1週間ほど経って痛みが落ち着いたら、短い距離の歩行や段差の少ない場所での練習を少しずつ始めると良いでしょう。


  • 🩺 疼痛と感染の管理:獣医師の指示のもと、鎮痛薬や抗生物質を適切に使います。
  • 🍽️ 栄養・体重管理:筋力を維持するために高タンパク食が有効です。一方で、肥満は残っている脚に大きな負担をかけるため注意が必要です。

術後の猫の回復と適応力

断脚手術を受けた猫でも、痛みが治まり環境に慣れてくると、3本脚での歩行に適応していく場合が多く見られます。
もちろん個体差はありますが、適切なケアとサポートがあれば、これまでと同じように元気に動き回れる子も少なくありません。

まとめ:断脚はあくまでも一つの選択肢

  • 壊死を放置すると猫の身体に大きな負担がかかり、命に関わる危険性があります。
  • 断脚手術はリスクもありますが、痛みや感染の拡大を防ぐ上で有効な選択肢となり得ます。
  • 術後のリハビリや適切なケアによって、3本脚でも快適に生活できるケースが多くあります。

「断脚」という言葉だけ聞くと、抵抗を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、重度の壊死から猫を守るための医療的判断であり、決して希望を失う必要はありません。
もし同じような状況に遭遇された際には、できるだけ早く獣医師へご相談ください。


地域全体で考えたいこと

ネズミ取りの罠は猫以外の動物や子どもが怪我をする恐れもあり、大変危険です。
地域で協力し合い、罠の撤去野良猫の保護活動などを進めることで、こうした不幸な事故は減らせると考えられます。
皆さまのご理解とご協力が、少しでも多くの命を救う一助となれば幸いです。