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【症例報告】ラブラドールの肘に発生した肥満細胞腫|手術から病理結果まで

これは、推定年齢11歳の避妊手術済みの雌のラブラドールレトリバーの外科症例です。

初日: 飼い主が右前肢の肘関節付近に1〜2センチほどの白いできものを見つけたため、来院しました。犬は痛がる様子はありませんでした。

術前の診断と評価

  • 身体検査: 右肘関節付近に白い腫瘍が確認され、皮下はピンポン玉大で、表面は白いイボ状でした。周囲は腫れていました。
  • 初期診断:
    • 針吸引生検(FNA): 腫瘤の2か所から細胞診を行った結果、皮下および皮膚腫瘤の両方から顆粒を持つ細胞が確認され、肥満細胞腫(MCT)と診断されました。
    • ステージング(進行度分類): がんの転移を調べるために血液検査、胸部のレントゲン検査、肝臓と脾臓の腹部エコー検査が実施されましたが、いずれも異常は見られませんでした。
  • 手術計画: 肥満細胞腫の診断に基づき、外科的切除が計画されました。

外科手術

  • 2日目: 腫瘍を摘出するための手術が行われました。
  • 術前投薬: 手術の1時間前に、抗ヒスタミン薬、ステロイド、鎮痛薬、抗生物質が投与されました。
  • 麻酔: プロポフォールで麻酔を導入し、手術中は点滴を続けました。
  • 腫瘍切除: 腫瘍は周囲の正常な組織を2cm含めて(2cmマージンで)切除されました。切除は筋膜の直上まで行われました。

    Screenshot

  • 創傷再建: 切除後の傷が大きく、単純な縫合が困難だったため、皮弁術という再建技術が用いられました。具体的には「肘ヒダ皮弁」を作成し、皮膚を150度回転させて欠損部を覆い、縫合しました。

術後の合併症と経過

  • 術後は重大な合併症が見られました。
  • 創傷離開: 8日目に、犬がエリザベスカラーと包帯を外し、自分で抜糸してしまいました。これにより手術の傷が開き(離開)、膿が出る感染創となりました。
  • 創傷管理: この合併症のため、約1ヶ月にわたり頻繁な通院による洗浄・消毒などの集中管理が必要となりました。皮弁の端が黒化するなどの所見もありました。感染の原因菌を特定するため、細菌培養感受性検査も実施されました。
  • 病理検査結果:
    • 11日目: 検査の結果、肥満細胞腫であり、腫瘍は完全に取り切れていることが確認されました。また、脈管浸潤(転移の可能性のある細胞)も見られませんでした。
    • 18日目: c-kit遺伝子検査の結果は陰性でした。これは悪性度が高い場合に陽性となる検査で、この結果から抗がん剤は不要と判断されました。

最終的に、重大な創傷合併症はあったものの、外科的に完全切除が達成され、病理検査の結果も良好であったため、がん自体の長期的な予後は良好と判断されました。傷は完治するまで処置が続けられました。