下顎腫瘤症例:両側広範囲下顎切除手術を行った猫の記録
今回は、下顎に腫瘤が認められた猫の症例をご紹介します。腫瘍は唾液腺管の圧迫や、腫瘍による舌動脈の損傷を引き起こしており、最終的に両側の顎骨を広範囲に切除する大掛かりな手術を実施しました。以下、診断から手術、術後管理までを順を追ってご説明します。
1. 症例概要と初診時の状況
- 対象動物:猫(体重:約3.0kg)
- 主訴:下顎部の腫瘤、口元の腫れ、食欲不振、よだれの増加
- 所見:
- 下顎部に明らかな腫瘤が認められ、周囲のリンパ節も腫大。
- 血液検査、レントゲン撮影、病理検査により、悪性腫瘍の可能性が高いと判断。
他院で行った病理検査結果

2. 検査と診断
初診時に以下の検査を実施しました。
- 血液検査(CBC等)
- レントゲン撮影
- X検査(追加画像検査)
- 病理検査:腫瘤部の組織を採取し、悪性の可能性を確認
- その他:術前評価として、食道チューブ設置の検討(術後の給餌サポートのため)
検査の結果、腫瘍は唾液腺管を圧迫し、また腫瘍により舌の動脈が損傷している状態であることが明らかになりました。これらの所見を踏まえ、腫瘍の進行度と周囲組織への影響を最小限にするため、両側の顎骨を広範囲に切除する手術を決定しました。
3. 手術内容
手術前の準備
- 鎮痛・抗生剤の投与:感染予防および術前の痛みコントロールのため。
- 食道チューブ設置:術後、口からの摂食が困難な場合に備え、栄養補給の準備を実施。
- 全身状態のチェック:脱水状態、心音、体温などの確認を徹底。
手術中の処置
- 両側広範囲下顎切除:腫瘍の広がりを考慮し、左右両側の顎骨を広範囲に切除。
- 出血コントロール:腫瘍により唾液腺管が圧迫され、舌の動脈が損傷している状態だったため、これらは適宜結紮・離断し、出血を確実に止める対策を実施。
- その他の処置:舌の血管弁の移動は行わず、必要な部分のみの処置で済ませました。
- 麻酔管理・術中モニタリング:全身麻酔下で、血圧や心拍、呼吸状態の綿密なモニタリングを行いながら手術を進行。

4. 術後の管理
- 入院管理:数日間の入院中、点滴による補液や、鎮痛剤、抗生剤、制吐剤(セレニア等)の投与を継続。
- 食道チューブからの給餌:顎部の痛みや腫れにより口からの摂食が困難なため、食道チューブを用いて栄養補給。
- 経過観察:体温、体重、傷口の状態、出血の有無、鼻水やよだれの量などをこまめにチェック。
- 再診・処置:状態の改善に合わせ、再診および必要に応じた追加検査・処置を実施し、最終的に体調が安定した段階で退院。
当院の手術の病理検査

5. 費用の詳細内訳
今回の治療は、初診から手術、術後の入院管理・再診まで複数の工程を経ています。以下は、実際の領収書に基づいた(すべて税込)の費用内訳の一例です。
6. まとめ
- 症例のポイント:この症例では、下顎の腫瘤が唾液腺管の圧迫や舌動脈の損傷を引き起こすほど進行しており、早期の外科的介入が必要でした。
- 手術の特徴:両側広範囲の下顎切除により、腫瘍とその周囲組織を安全に除去。損傷した唾液腺管や舌動脈は結紮・離断することで、出血のコントロールに成功しました。
- 術後管理の重要性:食道チューブによる給餌や、点滴・鎮痛、抗生剤投与による厳重な管理により、無事に体調が安定し退院にこぎつけました。
- 費用について:初診・検査、手術、入院管理・再診といった各工程ごとに費用が発生し、今回の総費用は約32〜33万円台となりました。治療内容や入院日数により金額は変動するため、事前に獣医師と十分な相談が必要です。