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【症例報告】会陰ヘルニア整復術(ポリプロピレンメッシュ整復・各種臓器固定術)〜中高齢犬のお尻の膨らみへの外科的アプローチ〜

今日お話ししたいこと

本日は、中高齢の未去勢の男の子に多く発生する「会陰(えいいん)ヘルニア」という疾患と、当院での外科的治療についてお話しします。お散歩中などに、飼い主様が愛犬のお尻(肛門の周囲)の不自然な膨らみに気づかれて来院されることが多い病気です。今回は、中高齢のトイプードルの患者さんの症例を通じて、なぜ手術が必要になるのか、そしてどのようなリスクと向き合っていくのかを論理的にお伝えします。

検査の結果と「外科的適応」の判断

ご来院時の各種検査の結果、この患者さんは肛門周囲の筋肉の隙間から「前立腺」と「膀胱」が脱出している「全周性の会陰ヘルニア」であることが判明しました。来院時点では幸いにも排尿や排便はできており、強い痛みは示していませんでしたが、膀胱が本来あるべきお腹の中(腹腔内)からペニスの下部(皮下)にまで逸脱している、非常に危うい状態でした。このように臓器が物理的に本来の位置からずれてしまっている状態は、お薬などの内科治療では治癒しないため、直ちに外科手術の適応であると判断しました。

もしこのまま様子を見たら(放置した場合の残酷なリスク)

「今は元気だし、年齢のこともあるから手術をせずに様子を見たい」とお考えになる飼い主様もいらっしゃるかもしれません。しかし、会陰ヘルニアの放置は、動物に非常に残酷な結果をもたらします。

  • 終わりのない排便困難と苦痛:男性ホルモンの影響で萎縮した筋肉の隙間から直腸が飛び出すと、そこに便がたまり、何度いきんでも便が出ない「しぶり」の症状に苦しみ続けることになります。さらに進行すると直腸の一部が膨らむ直腸憩室となり、事態はより深刻化します。
  • 「膀胱脱出」による致命的なリスク:最も恐ろしいのは、本症例のように膀胱が脱出した場合です。膀胱が反転してヘルニア孔に完全に落ち込んでしまうと、尿道が閉塞して尿が全く出せなくなります。これは数日以内に急性腎不全(尿毒症)を引き起こし、命に関わる緊急事態となります。

外科的介入を避けるということは、愛犬にこれらの「確実な苦痛と命の危機」を抱えたまま生活させることを意味します。

選択した術式とその根拠(周術期の鎮痛管理)

本症例では、再発を強固に防ぎ、脱出した臓器を正しい位置に戻すために、以下の術式を組み合わせて実施しました。

  • ポリプロピレンメッシュによる整復:自身の筋肉だけでは塞ぎきれないほど広がった隙間を、医療用の人工メッシュを用いて物理的に閉鎖します。坐骨の骨膜や周囲の靭帯などへ慎重に縫合・固定し、強固な壁を再構築します。
  • 各種臓器の腹壁固定(結腸・前立腺・膀胱固定):お尻側に脱出していた臓器をお腹の中へ引き戻し、腹壁(お腹の壁)に直接縫い付けて固定します。これにより、臓器が再び後ろへ飛び出すのを強力に防ぎます。
  • 両側同時手術と去勢手術:会陰ヘルニアは片方を手術しても反対側で発症することが多いため、本症例では両側の整復を行いました。また、根本的な原因である男性ホルモンの分泌を抑えるため、去勢手術も同時に行っています。

【麻酔・鎮痛プロトコルについて】
手術に伴う痛みを最小限に抑えることは、私たち外科医の絶対的な責任です。本症例では、麻酔導入にプロポフォールを使用し、術中から術後にかけては、持続性の高い鎮痛剤や制吐剤、抗生剤を適切に使用し、多角的な痛みのコントロールと感染予防を徹底しています。

術後管理と夜間監視について

当院の術後入院期間は、原則として「1〜3日」と短く設定しています。本症例でも術後早期に退院し、ご自宅でのケアへ移行していただきました。

これは、静脈点滴や尿カテーテルの管理が必須な急性期を過ぎれば、住み慣れた家庭環境での早期リハビリが、動物の精神的・肉体的な回復に最も寄与すると考えているためです。

嘘のない夜間管理体制

当院の夜間は「スタッフ不在(無人)」となります。これは飼い主様に包み隠さずお伝えすべき事実です。しかし、入院中の患者さんを放置するわけではありません。入院室にはペットカメラを完備し、院長自らが自宅から遠隔で徹夜の監視を行っています。画面越しに「痛みでハアハアしている」「眠れずに鳴いている」などの異常なサインを少しでも検知した場合は、深夜何時であろうと院長が直ちに病院へ赴き、追加の鎮痛処置を行います。「夜間無人だから痛みを我慢させる」という妥協は一切いたしません。

起こり得る合併症と、術後の見通し

会陰ヘルニアの手術部位の周辺には坐骨神経や重要な動脈が走っており、高度な技術と慎重な操作が要求されます。また、人工物(メッシュ)を使用するため、術後に体が反応して「漿液(体液)」が貯留したり、局所の腫れや赤みが出たりする合併症のリスクがあります。本症例でも、術後にメッシュによる圧迫等で皮下への滲出液の貯留が見られたため、適切なケアと内服薬の処方を実施しました。

今後は、縫合部に過度な腹圧をかけないよう、便の軟化剤を継続して服用し、スムーズな排便をコントロールしていくことが生涯の管理として重要になります。

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当院の外科体制と高度連携について(限界と紹介ポリシー)

当院では、今回のような軟部外科(後腹膜より腹側の一般臓器の外科)や、体表腫瘍の切除などは広く対応可能です。しかし、動物の「命」を最優先に考えた時、自院の設備での限界を正しく見極めることも獣医師の重要な責任です。

以下の症例については、当院での手術適応外とし、速やかに二次施設(専門医)へご紹介しております。

  • 副腎摘出などの最深部へのアプローチを要する手術
  • 微細なマイクロサージェリーを要する尿管結石摘出
  • 輸血準備がないため、術前に重度の貧血が想定される症例の外科手術

院長からのメッセージ

会陰ヘルニアは、初期にはただの「お尻の膨らみ」に見えるため、どうしても見過ごされがちです。しかし、その内部では臓器が本来の位置を失い、いつ致命的な閉塞を起こしてもおかしくない時限爆弾のような状態になっています。もし、愛犬のお尻の不自然な膨らみや、便を出す時の苦しそうな様子(しぶり)に気づいたら、決して「高齢だから」と様子を見ず、すぐにご相談ください。私たちは、論理的な診断と徹底した痛みの管理をもって、ご家族の命に真摯に向き合います。


Summary in English

Case Report: Perineal Hernia Repair (Polypropylene Mesh & Organ Pexy)

This report discusses the surgical management of perineal hernia, a condition common in middle-aged to older intact male dogs. We detail a case requiring immediate surgical intervention due to the prolapse of the prostate and bladder. Left untreated, this condition poses fatal risks, including urethral obstruction and uremia. The surgery involved a robust repair using polypropylene mesh combined with colopexy, prostatepexy, cystopexy, and castration. We also outline our strict postoperative pain management protocols and realistic remote overnight monitoring system to ensure patient safety and comfort.

中文摘要

病例报告:会阴疝修补术(聚丙烯网片修补及器官固定术)

本报告探讨了中老年未绝育雄性犬常见的会阴疝的外科治疗方法。我们详细介绍了一个因前列腺和膀胱脱垂而需要立即手术干预的病例。如果延误治疗,该疾病会带来致命风险,包括尿道阻塞和尿毒症。手术采用了聚丙烯网片进行坚固修补,并结合了结肠固定、前列腺固定、膀胱固定以及去势手术。此外,我们还概述了严格的术后疼痛管理方案和夜间远程监控系统,以确保患者的安全与舒适。