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【症例報告】猫の乳腺癌の切除🐈両側の尾側乳腺の腫瘍

診察内容と手術計画について

猫が乳腺の尾側にしこり(腫瘤)があるとの主訴で来院されました。左側第3乳腺に直径1cmほどの腫瘤を確認しましたが、触診時に猫が抵抗を示したため、全身麻酔をかけて細胞診を行い、切除する範囲(マージン)を慎重に決めることにしました。

細胞診の結果

細胞診の結果、しこりが悪性の上皮性腫瘍である可能性が高いことが示唆されました。これにより、猫において最も懸念される「悪性乳腺腺管癌(Tubular adenocarcinoma)」であることが疑われました。このため、乳腺の病変部位を全体的に切除する計画を立てました。

手術に関する検討

猫の乳腺腫瘍の手術では、一度に両側の乳腺を全て切除すると、皮膚が引きつれてしまい、術後に呼吸不全を引き起こす可能性などの重篤な術後合併症が増えるリスクがあります。これを避けるため、片側ずつ二度に分けて切除を行うことで、手術後のリスクを低減することが推奨されています。

手術計画

  • 右側乳腺の全摘出:右側乳腺のうち、片側の乳腺全体を最初に摘出しました。これにより、腫瘍が広がる可能性がある右側部分を早期に除去し、病変の進行を防ぎます。
  • 左側乳腺の部分摘出:左側は、尾側の乳腺部分を摘出し、残りの乳腺は次回の手術で対応する予定です。これにより、縫合時に胸部に過度な張力がかからず、呼吸や皮膚の引きつれを最小限に抑え、合併症のリスクを減らすことができます。
  • 縫合時には、胸部に張力がかかりすぎないよう特に注意し、最大限の安全性を確保しました。

乳腺組織の特徴

乳腺部の切除を行う前には、毛刈りを行い、さらにアルコールをかけることで乳腺の凹凸がわかりやすくなり、腫瘍の位置や切除範囲を明確に確認しました。

両側の乳腺で、第3乳腺から第4乳腺にかけて多数の小さなしこりが発生しており、右側は第2乳腺にも腫瘤が確認されました。右側の乳腺を先に全摘し、左側の乳腺については尾側乳腺を摘出する手術計画を立て、残りの部分も追加の切除を行う予定としました。

手術の進行と術後の管理

手術には局所麻酔剤を併用し、術後の痛みを抑える工夫を施しました。手術は無事に終了し、術後の回復も良好で、特に合併症も見られませんでした。

病理検査の結果

摘出した腫瘍の病理検査の結果、乳腺腺管癌(Tubular adenocarcinoma)という悪性腫瘍であることが判明しました。この腫瘍は乳管上皮由来で、左側の乳腺組織に多結節状に広がっており、周囲の正常組織にも浸潤していることが確認されています。

腫瘍内には、核小体が明瞭で、やや大小のばらつきがある円形の異型核を持つ癌細胞が多く見られました。これらの細胞は不規則に腺腔や充実状、または乳頭状の配列を形成し、活発に増殖していることが示唆されています。また、核分裂像が随所に見られるため、腫瘍が急速に増殖していることを意味し、その進行性の高さが懸念されます。

リンパ管侵襲と転移

特に重要な点として、腫瘍がリンパ管に侵入しており、左側の鼠径部リンパ節にも転移が確認されました。この転移により、腫瘍細胞が全身へ拡がるリスクが高まるため、遠隔臓器、特に肺などへの転移が懸念されます。現時点では右側の鼠径部リンパ節には腫瘍が認められませんが、今後の転移の可能性もあるため、さらに慎重な経過観察が必要です。

今後の治療と経過観察

手術により腫瘍は切除できているものの、リンパ管侵襲および左鼠径部リンパ節への転移が確認されています。そのため、残存する左側乳腺についても追加の切除を検討しています。また、遠隔臓器への転移を防ぐため、化学療法や追加の治療を行うかについても飼い主様と相談し、必要に応じて実施することを考えています。

引き続き、術後の経過を定期的に観察し、肺やその他の臓器への転移がないか慎重にモニタリングしていく予定です。