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【症例報告】腎不全を抱える猫ちゃんの乳腺腫瘍手術の記録

腎不全を抱える猫ちゃんの乳腺腫瘍手術の記録

猫の乳腺腫瘍は再発・転移リスクが高いことがあります。さらに、腎不全などの持病を抱えていると麻酔や術後管理によりいっそう注意が必要です。本記事では、慢性腎不全を持つ猫ちゃんが乳腺腫瘍の手術を受けたケースをご紹介します。同じような症状に悩まれる飼い主さまのお役に立てば幸いです。

症例概要

  • 年齢/性別:推定○歳・メス
  • 体重:2.6~3.0kg前後
  • 主訴:おなかにしこりがある、食欲の低下
  • 既往症:慢性腎不全(BUN・クレアチニン値の上昇)

右乳腺には固着のある腫瘤が確認されました。細胞診や血液検査、レントゲン検査を実施したところ、外科的切除が必要と判断されました。

検査結果のポイント

  • 血液検査: BUNやクレアチニンが基準値を上回り、腎機能の低下が持続。
  • レントゲン検査: 胸部に大きな転移所見はなし。
  • エコー検査: 腎臓の形状や血流状態を確認し、心臓エコーも合わせて実施。

手術の内容

  • 切除範囲: 右乳腺の腫瘍をマージン3~5cm、筋膜1枚を含めて広範囲に切除。

    術中写真1術中写真2術中写真3術中写真4術中写真5

  • 麻酔管理: 腎機能への負担を減らすため、点滴(LRS)や制吐剤を併用し、血圧・心拍・呼吸を綿密にモニタリング。
  • 手術時間: 約1時間弱を目安に短時間で完了できるように調整。
  • 術中に右脚ブロックが見られたので、術後に心臓のエコー検査を行い正常形態を確認しました。

    エコー検査写真

術後管理

  • 傷口のケア: エリザベスカラーや包帯で保護し、塗布薬を使用して感染予防。
  • 投薬・点滴: 鎮痛剤や抗生物質を内服し、腎不全ケアのための点滴を継続。
  • 入院・退院: 術後は数日間の入院で状態を観察し、落ち着いたら退院。

乳腺腫瘍は再発や転移のリスクがあるため、定期的に検診を受けることが大切です。
また、腎不全の進行を抑えるためにも、定期的な血液検査や食事管理を続けましょう。

病理組織学的診断:腺管癌(Tubular adenocarcinoma)

乳管上皮由来の悪性腫瘍(乳がん)と診断されました。腫瘍はやや不規則に増殖し、内部に壊死を伴うのが特徴です。細胞は核が大きく、核分裂が多いため、増殖の勢いが強いことがうかがえます。また、腫瘍周囲ではリンパ球などの炎症細胞の浸潤や線維組織の増生が認められました。

切除範囲(手術で取り除いた部分の端)まで腫瘍がおよんでいない点は大切な所見です。しかし、乳腺腫瘍は
リンパ節への転移が起こりやすいため、今後も定期的な経過観察や再発チェックが必要となります。
また、今回の検査では血管侵襲(血管内へがん細胞が入り込む所見)は認められませんでしたが、
引き続き注意が必要です。

まとめ

  • 乳管の上皮細胞ががん化した腺管癌
  • 核分裂が多く、増殖力が強い
  • 切除縁に達していないが、リンパ節転移に注意
  • 血管侵襲なし:全身転移リスクは低めだが経過観察が必要

今後はリンパ節の状態や再発に気を配りながら、定期検診や必要に応じた追加治療を検討していくことが大切です。

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手術費用の具体的な内訳

以下は、腎不全を併発している猫ちゃんが乳腺腫瘍を摘出した際にかかった費用の例です。術前検査や麻酔管理、入院などを含め、最終的には約21万円程度の合計となりました。

主な処置・検査費

  • 再診料:¥550
  • 入院費(猫・小型犬):¥4,400 × 2回 = ¥8,800
  • 静脈点滴:¥3,850
  • 皮下注射(入院時):¥330 × 2回 = ¥660
  • ソルラクト(100ml/250ml/500ml):合計 ¥2,574
  • コンベニア注(抗生物質):¥770 × 3回 = ¥2,310
  • セレニア注(制吐剤):¥110 × 3回 = ¥330
  • プリンペラン(胃腸運動促進):¥220
  • ドパミン(麻酔管理):¥770 × 4回 = ¥3,080
  • 生化学検査1項目:¥165,000
  • 電解質(Na, K, Cl):料金不明(合計に含まれる)
  • 心臓エコー検査:¥4,400
  • ヘパリン類似物質ローション:¥900
  • クリンゲン液(1ml:¥11 × 60ml):¥660
  • 術後服貸し出し:¥1,100