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【症例報告】膵炎併発・耐性菌に要注意!犬の前立腺膿瘍を大網移植で治療した一例

今回は、未去勢犬の前立腺膿瘍に対して、大網移植(大網被嚢術)を実施した症例をご紹介します。
血液検査や画像検査のデータを基に、術前・術後の経過を追いながら治療のポイントをまとめました。


患者情報

  • 犬種・性別:未去勢雄
  • 体重:6.1kg前後(来院時期によって6.0~6.48kgを推移)
  • 年齢:詳細不明(中~高齢)
  • 主訴:元気・食欲の低下、排尿回数の増加、排便困難、震え など

診断までの流れ

主な所見
発熱(39.2~39.4℃前後)
腹痛(触診で下腹部を嫌がる)
・脱水は軽度またはなし
・CRP高値などの炎症マーカー上昇
・超音波(エコー)検査:前立腺周囲に高エコー、内部に液胞様の変化、大きさは変化少
・腎臓に結石があるが、今回の主訴への直接的影響は不明
膵炎を示唆する所見もあり(嘔吐は少ないが、CRPや疼痛部位を考慮)

初診時より前立腺膿瘍が疑われ、点滴(LR液+ガベキサート+PP)や抗菌薬(バイトリル、オーグメンチン など)を投与しました。
しかし、高いCRP値が続き、膿瘍が縮小しない可能性があったため、前立腺大網被嚢術(大網移植)の実施を決定。

治療経過

術前管理

  • CRPの推移を観察しながらブレンダ(鎮痛鎮静薬)バイトリル(フルオロキノロン系抗生剤)を中心に点滴・注射投与
  • 強制給餌として低脂肪リキッドを少量ずつ複数回に分けて与え、栄養確保
  • 前立腺炎に伴う腹痛を緩和するための持続点滴(ガベキサート、PPなど)
  • 術当日は絶食絶水で麻酔リスクを下げる

手術:前立腺大網被嚢術・腹腔内洗浄

下腹部正中切開でアプローチし、前立腺内の膿を排出後、前立腺の隔壁をモスキート鉗子などで破砕。
左右に開けた穴に大網を挿入し、PDS4-0で縫合固定しました。腹腔内は生食約1500mlを用いて洗浄し、術中からは低体温やイレウスに注意を払いながら進行。





術後管理と耐性菌の問題

    • 術後も点滴(LR+ガベキサート+PP)継続。必要に応じてドパミンを追加投与
    • 複数の抗菌薬(オーグメンチン、アモキクリア など)を使用していたが、培養検査の結果、耐性が確認され、エンロクリア(エンロフロキサシン)のみ有効と判明
    • 耐性菌対策として、効果がない抗生剤は中止し、有効なものだけを継続


  • 前立腺自体は縮小傾向へ。CRP値も術後に徐々に改善


退院とフォローアップ

術後数日の点滴管理と経過観察を経て、膿の排出が進み、体温・食欲が安定してきたため退院。
皮膚炎(パッド部位の出血や趾間膿)など、別の炎症もみられましたが、薬浴や外用処置で改善傾向。
前立腺エコーでは明らかな液胞の縮小が確認され、CRPも正常化
その後は耐性菌対策を目的に、エンロクリアのみを指示通り投与し続ける形でフォローアップを実施しました。

最終的な状態
・前立腺の膿疱は大きく縮小し、腹水なし
・周囲皮膚炎は継続ケア中だが、歩行や体調は大きく改善
・胆泥症や結石、膵炎の懸念はあるため定期的な検査が必要

まとめ

  • 前立腺膿瘍は重症化すると命の危険があるが、大網移植(大網被嚢術)で排膿と血流改善を図ることで良好な経過を得られる場合がある。
  • 耐性菌が疑われる場合、培養検査で効果のある抗生剤を見極めることが重要。
  • 去勢手術や継続的なエコー検査など、再発や別疾患(膵炎・胆泥症・結石など)の管理も大切。

この症例では、治療初期に複数の抗生剤を使用していましたが、最終的に培養検査で耐性を確認し、有効なエンロクリアのみに絞ったことで状態が安定しました。
前立腺膿瘍は多角的な管理が必要な疾患ですが、正しい治療と経過観察で回復するケースも少なくありません。

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