診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-18:00
手術時間12:00-15:00
水曜・日曜午後休診
今回は、未去勢犬の前立腺膿瘍に対して、大網移植(大網被嚢術)を実施した症例をご紹介します。
血液検査や画像検査のデータを基に、術前・術後の経過を追いながら治療のポイントをまとめました。
主な所見
・発熱(39.2~39.4℃前後)
・腹痛(触診で下腹部を嫌がる)
・脱水は軽度またはなし
・CRP高値などの炎症マーカー上昇
・超音波(エコー)検査:前立腺周囲に高エコー、内部に液胞様の変化、大きさは変化少
・腎臓に結石があるが、今回の主訴への直接的影響は不明
・膵炎を示唆する所見もあり(嘔吐は少ないが、CRPや疼痛部位を考慮)
初診時より前立腺膿瘍が疑われ、点滴(LR液+ガベキサート+PP)や抗菌薬(バイトリル、オーグメンチン など)を投与しました。
しかし、高いCRP値が続き、膿瘍が縮小しない可能性があったため、前立腺大網被嚢術(大網移植)の実施を決定。
下腹部正中切開でアプローチし、前立腺内の膿を排出後、前立腺の隔壁をモスキート鉗子などで破砕。
左右に開けた穴に大網を挿入し、PDS4-0で縫合固定しました。腹腔内は生食約1500mlを用いて洗浄し、術中からは低体温やイレウスに注意を払いながら進行。
術後数日の点滴管理と経過観察を経て、膿の排出が進み、体温・食欲が安定してきたため退院。
皮膚炎(パッド部位の出血や趾間膿)など、別の炎症もみられましたが、薬浴や外用処置で改善傾向。
前立腺エコーでは明らかな液胞の縮小が確認され、CRPも正常化。
その後は耐性菌対策を目的に、エンロクリアのみを指示通り投与し続ける形でフォローアップを実施しました。
最終的な状態
・前立腺の膿疱は大きく縮小し、腹水なし
・周囲皮膚炎は継続ケア中だが、歩行や体調は大きく改善
・胆泥症や結石、膵炎の懸念はあるため定期的な検査が必要
この症例では、治療初期に複数の抗生剤を使用していましたが、最終的に培養検査で耐性を確認し、有効なエンロクリアのみに絞ったことで状態が安定しました。
前立腺膿瘍は多角的な管理が必要な疾患ですが、正しい治療と経過観察で回復するケースも少なくありません。