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【症例紹介】長期食欲不振・嘔吐の末に判明した消化管穿孔と悪性リンパ腫

【症例紹介】長期食欲不振・嘔吐の末に判明した消化管穿孔と悪性リンパ腫

今回は、約2か月にわたる食欲不振・嘔吐が続き、
最終的に開腹手術で消化管が破裂(穿孔)して
便が腹腔内に散らばっていた猫ちゃんの症例をご紹介します。開腹時に漿膜面に
“ボタン状”の潰瘍性病変が多数認められ、病理検査で
悪性リンパ腫(Malignant lymphoma)
が示唆されました。

同じような症状でお悩みの飼い主さまに、少しでもお役に立てるよう、
治療経過や選択肢などをなるべく詳しくまとめました。

1. 受診までの経緯

症状の始まり:

  • 約2か月前から少しずつ食べなくなり、強制給餌をしても嘔吐が続く
  • 体重が著しく減少し、ほとんど動かずぐったりした状態

初診時の所見:

  • 体温がやや低め、脱水が顕著
  • 血液検査で白血球数(WBC)上昇、軽度の肝機能異常
  • 腹部超音波では肝臓の脂肪沈着を示唆する高エコー所見が確認されたものの、明確な原因病変はわからず

飼い主さまの「なんとしても原因を究明して治療したい」という強い希望により、
検査・治療を進めることとなりました。

2. 開腹手術の決断

2-1. 非侵襲的検査の限界

血液検査や画像検査(レントゲン・エコー)では、はっきりした腫瘍や穿孔部位を確定できず、
飼い主さまと相談のうえで
開腹手術(エクスプロラトリーサージェリー)を行うことに決まりました。
実際に消化管や肝臓を視認・触診し、必要に応じて組織を採取(生検)する計画です。

2-2. 手術中の所見

  1. 消化管穿孔
    開腹すると、腸管が破裂して
    便が腹腔内に散乱しており、腹膜炎が進行している状態でした。
    敗血症へ移行するリスクが非常に高いため、腹腔内の洗浄と徹底した排液管理が必要と判断。
  2. 漿膜面の潰瘍性病変
    腸の表面(漿膜)に“ボタン状”の小さな潰瘍性病変が複数認められました。
    一部を生検して病理検査に出すこととなりました。
  3. 肝臓への脂肪沈着
    長期の食欲不振による脂肪肝(肝リピドーシス)が疑われる変性が確認され、
    こちらも組織を採取。

3. 病理検査と最終診断

  • 消化管生検の結果:
    悪性リンパ腫(Malignant lymphoma)
    が強く示唆される所見
    粘膜や漿膜に広く浸潤するタイプで、大きな腫瘤を形成せずに多発性の潰瘍を引き起こすことがある
  • 肝臓組織:
    脂肪沈着を含む変性所見(脂肪肝)
    長期的な拒食や嘔吐が肝機能にも影響を及ぼしている可能性が高い

これらの結果、消化管穿孔+腹膜炎+悪性リンパ腫+脂肪肝
という複合的な病態であることが明らかになりました。

4. 治療方針と経過

4-1. 敗血症管理・サポート療法

  • 腹腔内ドレーン設置:腸穿孔による排泄物や感染源を洗浄・排出するため、ドレーンを留置
  • 点滴・抗生物質投与:脱水と感染を抑え、栄養を補給する目的で集中的に実施
  • 制吐剤・鎮痛剤:吐き気の軽減と痛みの緩和を図る
  • 強制給餌やチューブ給餌の検討:肝リピドーシス対策としてなるべく栄養補給を行う必要がありましたが、
    嘔吐が止まりにくく実施が困難な状況が続きました。

4-2. 抗がん剤治療の選択

病理検査で悪性リンパ腫が判明したため、抗がん剤(多剤併用療法など)も選択肢として提示しました。
しかし消化管穿孔後の敗血症リスクや猫ちゃんの体力低下を考慮すると、
副作用に耐えられるか極めて不透明です。飼い主さまとの話し合いの結果、
積極的な化学療法は断念し、対症療法を中心に苦痛を和らげる方針となりました。

5. 安楽死の決断

集中治療を続けても状態が好転する兆しはみられず、体力のさらなる低下が著しくなりました。
それ以上の治療は猫ちゃんへの負担が非常に大きく、改善の見込みがわずかなこと、長引く入院や処置に伴うストレスなどを考慮し、
飼い主さまは安楽死を選択されました。

当院では、鎮静・鎮痛を十分に施した上で、できる限りのケアを行い、
最期を穏やかに迎えられるように努めました。

6. 同じような症状でお悩みの飼い主さまへ

  1. 早期受診の大切さ
    食欲不振・嘔吐が3日以上続いたり、急激にやせ細ってきた場合、迷わず早めに動物病院へご相談ください。
    猫は脂肪肝になりやすく、さらに重篤な症状を併発しがちです。
  2. 消化管穿孔・腹膜炎は一刻を争う
    腸が破れて腹腔内に便や細菌が広がると、敗血症を引き起こして急激に命の危険が高まります。
    緊急手術や徹底的な感染管理が必要です。
  3. 悪性リンパ腫は見つかりにくい場合も
    大きな腫瘤として現れないタイプは、粘膜や漿膜に散在して微細に広がり、診断が遅れることがあります。
    開腹手術や病理検査が確定診断のカギを握ります。
  4. 治療方針はケースバイケース
    抗がん剤、外科的処置、緩和ケアなど、さまざまな選択肢がありますが、
    猫ちゃんの体力・年齢、病態、飼い主さまのご希望を踏まえて検討する必要があります。
    安楽死は、苦痛が大きく予後が厳しいと判断された場合に、
    避けては通れない選択肢となることもあります。

7. まとめ

今回ご紹介した猫ちゃんは、長期の食欲不振と嘔吐の裏に、
消化管穿孔悪性リンパ腫が潜んでいたという大変厳しい症例でした。
発見時にはすでに腹膜炎・敗血症のリスクが高く、治療による大きな改善が期待できない状況でした。
飼い主さまは苦渋の末、安楽死という選択をされましたが、
最期まで愛情をもって接し、苦痛を最小限に抑えるための努力を惜しみませんでした。

同じような症状で愛猫が苦しんでいる場合は、できるだけ早期に診察を受け、
必要な検査を行って原因を見極めることが重要です。
少しでも「いつもと違う」と感じたら、どうぞお気軽にご相談ください。