気管内扁平上皮癌と診断された猫の最期―第一病日から旅立ちまでの経過と考察―
【結論】
13歳の猫(アビシニアン、オス)は、咽頭部(気管内)の扁平上皮癌(SCC)により急速に呼吸困難が進行しました。
第一病日に検査開始、第三病日までに確定診断を得ましたが、既に腫瘍が広がり、
外科的切除は困難と判断。
第四病日以降は気管切開や経管栄養の緩和ケアを行いましたが、第五病日に残念ながら息を引き取りました。
根治が難しい場合、苦痛を軽減しQOLを確保することが最重要となる症例です。
◆ 患者プロフィール
- 種類:アビシニアン(猫)
- 年齢・性別:13歳前後/オス
- 主訴・症状:声が出なくなった、呼吸が苦しそう、食欲不振
半年ほど前から声が出なくなり、他院でネブライザー治療や抗生物質・ステロイド投与が行われたものの改善が限定的でした。大学病院での更なる精査を勧められましたが、飼い主様の事情と猫自身の極度の恐がりがあり、結局受診は見送られていたという経緯があります。その後、呼吸状態が急速に悪化して当院を受診しました。
◆ 他院での治療歴・大学病院紹介歴
- 約6ヶ月前:声が出なくなる症状が始まり、かかりつけ病院で受診
- ネブライザー治療・抗生物質・ステロイド投与を約1ヶ月試すも大きな改善なし
- 大学病院での精査を提案されたが、猫が強い恐怖心を示すことや飼い主様の事情で実現せず
- 呼吸困難が徐々に増悪し、ほとんど食事を取れない状態になったため、当院への受診を決断
当院での経過・治療
● 第一病日(初診日)
- 身体検査・問診:呼吸困難(ゼーゼー音)、体重約3kg、衰弱気味
- 血液検査:白血球数(WBC)がやや高め、その他大きな異常はなし
- 画像検査:レントゲンで頸部気管内に腫瘤影、咽頭部にも腫瘤が疑われる所見
- エコーで確認された腫瘤

-
気道内に存在する白い腫瘤

- 初期方針:上気道の腫瘍可能性が高いと判断。翌日以降の詳細検査に同意を得て、酸素ケージで呼吸管理を開始
● 第二病日
- 精査:気管付近の腫瘤から細胞を採取し、外部検査機関に細胞診を依頼
- 呼吸管理:強い呼吸困難のため、気管切開を実施し気道を確保
- 暫定的治療:点滴(補液)や抗生物質の静脈投与。食欲不振が著しいため経管栄養を検討
● 第三病日
- 細胞診結果:扁平上皮癌(SCC)の確定診断。リンパ節転移の疑いも示唆

- 飼い主様への説明:咽頭部・気管内SCCは外科的切除困難で再発リスクが高い。
放射線治療や化学療法も選択肢はあるが、リスク・負担を踏まえ、緩和ケア中心の方針を提案

● 第四病日
- 緩和ケア:気管切開チューブの管理、食道チューブ設置による流動食投与、制吐剤・抗菌薬の併用
- 全身状態:呼吸は一時的に安定するも、腫瘍進行・感染リスクは高いまま
● 第五病日
- 急変:早朝、呼吸が乱れ酸素飽和度が急激に低下。全力での蘇生も奏功せず
- 最期:第五病日の夕刻に息を引き取り、飼い主様が最期まで寄り添い看取る
考察
- 病態の特徴:咽頭部や気管内に発生したSCCは呼吸困難や嚥下障害が顕著で、発見時には進行していることが多い
- 治療方針:本症例のように切除が難しい場合は、気管切開や経管栄養などの緩和ケアが中心となる
- 飼い主様の決断:積極治療かQOL重視の看取りか、じっくり話し合い方針を決定することが必要

まとめ
結論(再掲):咽頭部(気管内)SCCと診断された本症例は、当院初診からわずか5日目で息を引き取りました。早期発見が困難な部位の高度進行がもたらした経過といえます。
- 臨床的ポイント:
- 悪性度が高く、進行が早い
- 呼吸確保(気管切開)や栄養補給(経管栄養)など、緩和ケアが主体
- 普段からの観察と早期受診が鍵(声の異常・呼吸苦・食欲不振などに注意)
- 飼い主様へのアドバイス:
- 呼吸が荒い・声が出ないなどの異変を感じたら、一刻も早い受診を
- 腫瘍が疑われる場合は、獣医師と十分に話し合い、今後の方針を検討しましょう
本症例では、腫瘍による上気道閉塞が進行し、短い期間での急変を招きました。しかし、飼い主様が最期まで寄り添い、
苦痛軽減を優先する看取りの選択をされたことは、猫にとって大きな支えだったと思われます。
咽頭や気管周辺の腫瘍は早期発見が難しい反面、呼吸や食事に直結するため、日頃の観察や定期検診がとても重要です。