047-700-5118
logo logo

診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-19:00
手術時間12:00-15:00
水曜・土日午後休診

banner
NEWS&BLOG
【院長コラム】沈む日本と獣医療の現在地——コスト高騰時代における命の選択と「幸せの形」

先日お知らせした「ご自宅での皮下点滴の処方一時停止」につきましては、多くのご理解を賜り感謝申し上げます。

本日は、なぜ当院がこの決断を急いだのか、そして今後の獣医療が直面する現実について、現場の獣医師として、また病院という組織を守る責任者としての個人的な見解をお話ししたいと思います。


結論から申し上げますと、現在の日本を取り巻く状況において、この先事態が好転する要素は一つも見当たりません。

「数百円で寿命が延びる魔法」の終焉と、避けられない命の短縮

これまで、ご自宅での皮下点滴は、わずかなコスト(数百円程度)とご家族の献身的なケアによって、慢性疾患を持つ猫たちの寿命を3〜4倍に延ばすことができる、ある種の「魔法」のような治療でした。

  • しかし、これは「平和な世界」「安定した物流」「強い日本円」という条件が揃い、病院側でも様々なコストを吸収できていた時代だからこそ提供できていた特別なものでした。
  • この前提が完全に崩れ、これまでのような安価な頻回点滴が提供できなくなる今。残酷な事実をお伝えしなければなりませんが、慢性疾患を持つ子たちの寿命は、一昔前と比べて確実に縮むことになります。

「量の確保」は「安さ」を意味しない

現在、最新技術(ドローン等)を用いた現代戦により、世界のエネルギー・物流のチョークポイントが完全に脅かされています。

  • 一部報道では「政府がUAEやサウジアラビアからの代替ルート等で、1年先までの石油を確保した」という話もあります。しかし、これはあくまで「日本から資源がゼロにならない」というだけであり、「今まで通り安く手に入る」という意味では決してありません。
  • 世界の石油の約2割が通過するホルムズ海峡は、最も狭い部分で幅わずか30キロメートル余りしかなく、巨大なタンカーがすれ違う航道はさらに限られています。北岸をイランに押さえられたこの極めて狭く脆弱な「海上のボトルネック」を抜けられないとなれば、代替ルートに頼らざるを得ません。
  • しかし、迂回先となる紅海はすでに武装組織の標的となり極めて危険な海域となっています。さらに、頼みの綱であるUAEなどの石油施設自体も、戦争の中でドローン攻撃を受けて破壊されるという現実が起きています。

「当たり前」が手に入らなくなる時代への突入

現在、日本のガソリン価格が一定に保たれ、円安がなんとか踏みとどまっているように見えるのは、政府が莫大な「補助金」を投じ、「為替介入」という劇薬を使って無理やり価格を抑え込んでいる一時的な幻覚に過ぎません。為替介入とは、国が蓄えている限りある外貨(ドルなど)を売り払い、自国の円を買い支えることで円の価値を人工的に底上げする手法です。しかし、国の貯金(外貨準備)には限界があり、市場の巨大な波を永遠に防ぐことはできません。

  • 海外ではすでに、深刻な燃料高騰や、給油制限・航空便の減便といった物理的な枯渇が現実のものとなっています。
  • 安全なルートを求めて複雑な経由地を挟めば、莫大な物流コストの増加と輸送の遅延は避けられません。さらに石油価格の高騰は、すべての物資を輸送する血管網を圧迫し、経済を停滞させます。
  • 補助金や為替介入という魔法が解けた時、それはつまり、「これまで早く届いていた物資が遅く、高くなる」、そして「当たり前に手に入っていたものが手に入らなくなる」という事態を意味します。
  • 重量物である点滴の輸液バッグはもちろんのこと、海外の大規模工場で生産される膵炎などの特別療法食(処方食)、そして輸入に頼らざるを得ない医薬品全般。これらはダイレクトに物流網寸断の影響を受け、仕入れ価格は今後さらに別次元へと跳ね上がっていくでしょう。

超高齢化社会と終わらない増税

影響は海外からだけではありません。日本は世界トップクラスの「超高齢化社会」に突入しています。働き手(生産年齢人口)が減少し続ける一方で、増え続ける社会保障費を支えなければなりません。

  • 結果として、社会を維持するための増税は決して終わらず、形を変えて(社会保険料の引き上げ等のステルス増税として)私たち現役世代を襲ってきます。
  • また、最近の現場の肌感覚として、ペット保険会社による保険金の支払い審査が以前よりも明らかに厳しく(はねられるケースが多く)なっていると感じています。これもまた、あらゆる企業がコスト高に苦しんでいる経済状況の縮図です。

治療は再び「贅沢品」へと回帰する

これらが意味するものは一つです。

かつては誰もが数万円で当たり前に買い替えられていたiPhoneが、今や円安や部材高騰の直撃を受け、平気で15万、20万円を超える「贅沢品」となってしまったように、獣医療の現場でも全く同じことが起きます。

物価高騰、物流の停滞、そして手取り収入の減少。これらすべてのコストプッシュが重なることで、「犬猫に高度な治療を施すこと」は、一昔前のような一部の層だけが可能な『贅沢品』へと確実に戻っていきます。

「幸せ」と「損得勘定」を真剣に考えるタイミング

こうした残酷な波が押し寄せる中、私たちは「幸せの形」を再定義しなければなりません。

獣医師として、コストの限界でお悩みになるご家族を見るのは心が痛みます。しかし、動物たちの命を繋ぐために、ご家族が「ご自身の生活や精神を破壊してまで」無理な負担を背負い続けることは、決して正しいとは思いません。

  • これからの時代、ペットと暮らす皆様には、ご自身の「幸せ」と、冷酷な言い方かもしれませんが「損得勘定(コストに見合うか)」を、これまで以上に真剣に天秤にかけていただくタイミングが来ています。
  • 治療コストが限界を超えた時、「これ以上の治療を望まない」という選択をすることも、一つの尊厳であり、ご自身の生活を守るための責任ある決断です。

なぜ、ここまで残酷な現実をお伝えするのか

なぜ私が、このような世界の現実や厳しい見通しを包み隠さずお話しするのか。

それは、ペットたちが苦痛なく楽に過ごせるよう医療を尽くすのは獣医師として当然の使命ですが、それ以上に、その子たちを愛おしく見つめ、共に生きていく「飼い主さんご自身の人生」を心から応援したいからです。

当院はこれからも、プロフェッショナルとして限られた資源の中で「エビデンスに基づいた医療」を提供し続けるベストを尽くします。だからこそ、皆様にも、ご自身の人生と幸せを第一に考えた「最善の決断」をしていただきたいと強く願っております。


English Summary

Due to global supply chain disruptions, soaring logistics costs, and the weakening of the Japanese yen, the era of accessible, low-cost veterinary treatments (such as frequent subcutaneous fluids) is coming to an end. We are entering an era where advanced veterinary care will once again become a “luxury.” As a veterinary clinic, we will continue to provide the best evidence-based medicine possible with limited resources. However, in these challenging times, we strongly encourage pet owners to prioritize their own life, well-being, and financial stability when making difficult medical decisions for their pets. Choosing not to pursue treatments beyond your limits is a responsible and dignified decision.

中文摘要

由于全球供应链中断、物流成本飙升以及日元贬值,过去廉价且易于获取的兽医治疗(如频繁的皮下输液)时代即将结束。我们正在进入一个先进兽医护理将再次成为“奢侈品”的时代。作为动物医院,我们将在有限的资源内继续提供最优质的循证医疗。然而,在这个充满挑战的时期,我们强烈建议宠物主人在为宠物做出艰难的医疗决定时,优先考虑自身的生活、福祉和财务稳定。当治疗成本超出您的承受极限时,选择停止治疗同样是一个负责任且有尊严的决定。