愛猫のもしも…に備える。
猫の「ショック」完全解説
猫ちゃんがぐったりしている…いつもと様子が違う…。そんな時、もしかしたらそれは「ショック」という危険なサインかもしれません。この記事では、獣医師や動物看護師の方はもちろん、大切な愛猫と暮らす飼い主様にも知っておいてほしい「猫のショック」について、詳しく、そして分かりやすく解説します。

① ショックの定義と体の中で起きていること
ショックとは、全身の細胞に酸素や栄養が届かなくなり、エネルギーを作れなくなった状態のことです。血流の低下や異常により、細胞が必要とする酸素の量(酸素消費量)が、血液から届けられる酸素の量(酸素運搬能)を上回ってしまうことで発生します。
💡 猫のショック「3つの徴候」
猫のショックでは特に、「低体温」「低血圧」「徐脈(心拍数の低下)」の3つのサインが特徴です。これらは互いに悪影響を及ぼし合い、危険な状態を招きます。特に、持病のある猫の心拍数が1分間に140回以下になり、他の症状も見られる場合はショックを強く疑うべきです。
② ショックの4つのタイプと原因
ショックは、その原因によって4つのタイプに分けられます。
- ● 循環血液量減少性ショック
血管の中を流れる血液や体液の量が減ってしまうことで起こります。(原因:出血、重度の脱水など)
- ● 心原性ショック
心臓のポンプ機能が低下し、全身に血液をうまく送り出せなくなる状態です。(原因:心筋症、重度の不整脈など)
- ● 血液分布異常性ショック
全身の血管が異常に広がり、血圧が維持できなくなる状態です。(原因:敗血症、アナフィラキシーなど)
- ● 閉塞性ショック
心臓や大きな血管が詰まったり圧迫されたりして、血流が妨げられる状態です。(原因:心タンポナーデ、血栓塞栓症など)

③ ショックの進行ステージと症状の変化
ショックは進行度によって症状が変わってきます。
- 1. 代償性ショック期(初期)
体がなんとか持ちこたえている段階。症状が分かりにくいのが特徴です。(例:歯茎が鮮やかな赤色になる)
- 2. 早期の非代償性ショック期
体の限界が近づき、症状がはっきりと現れ始めます。(例:歯茎が白っぽくなる、体温が下がる)
- 3. 遅期の非代償性ショック期
命の危機が迫った末期的な状態です。(例:心拍数が低下、意識レベルが低下)
④ 動物病院での検査と診断方法
動物病院では、様々な検査を組み合わせてショックの診断を行います。
- 血圧測定:収縮期血圧90mmHg以下で低血圧と診断。
- 乳酸値測定:組織の酸欠状態を示す指標。正常値は2mmol/L以下。
- 心電図(ECG):不整脈の有無を確認。
- 酸素飽和度(SpO₂):血液中の酸素の量。95%以上が正常。
- 血糖値・電解質:ショック時は低血糖(70mg/dL以下)に注意。
- 超音波検査(FAST):お腹や胸の中の異常を素早く検出。
- 腹腔穿刺:お腹の液体を抜き、成分を調べる。

⑤ ショックの治療法
早期診断と積極的な治療が重要です。猫は過剰な輸液に弱いため、慎重な管理が求められます。
- 輸液療法:治療の基本。必ず静脈から点滴します。
- 輸血:出血がひどい場合や重度の貧血時に行います。
- 疼痛管理:痛みはショックを悪化させます。NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)は禁忌です。
- 体温管理:低体温は悪循環を招くため、積極的に保温します。
- 酸素吸入・低血糖/高カリウム血症の是正なども行います。
❤️ 飼い主様へ:愛猫の命を守るための「危険なサイン」
ショック状態は一刻を争います。以下の症状が一つでも見られたら、ためらわずにすぐ動物病院へ連絡してください。
- 意識の低下(呼びかけへの反応が鈍い、ぐったり)
- 呼吸の異常(浅い、速い、不規則)
- 体温の異常(体が異常に冷たい、または熱い)
- 歯茎や耳の血色が悪く白っぽい
- 発作(手足が突っ張る、バタバタさせる)
- 失禁、眼振(目が揺れ続ける)
来院時には「ショックかもしれません」と伝えることで、より迅速な対応に繋がります。