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クッシング症候群とトリロスタン療法:リスクと適切な管理





クッシング症候群とトリロスタン療法について

下垂体クッシング症候群とトリロスタン療法

概要

この記事は、「下垂体クッシング症候群の犬における長期的なトリロスタン感受性の変化について」という内容で、クッシング症候群の犬に対するトリロスタンの長期間使用の影響と、その投与調整の必要性について解説しています。

はじめに

下垂体依存性クッシング症候群(PDH)に対してトリロスタン療法が一般的に使用されており、コルチゾールの過剰分泌を抑えることで症状を改善することが期待されています。しかし、トリロスタンを長期にわたり使用すると、効き方が変化する場合があります。そのため、長期的なトリロスタン投与に伴う効果の維持や副作用について、定期的なモニタリングが必要です。

症例

10歳のチワワの症例が紹介されています。体重は2.1kgで、ACTH刺激試験によるコルチゾール測定、平均飲水量、トリロスタンの投与量などを基に投与調整が行われました。以下は、初期からの詳細な経過と数値です。

  • 初期投薬量:トリロスタン10mg(1日1回投与)
  • ACTH刺激試験結果(コルチゾール値):開始時 45.6μg/dL
  • 途中経過でのコルチゾール値の変動:527日目 0.8μg/dL、608日目 0.8μg/dL(過剰な抑制により一時投与中止)
  • 再開後のコルチゾール値:714日目 4.4μg/dL、862日目 2.9μg/dL
  • トリロスタン投与量:10mgから5mg、2.5mgへと減量、さらに2日おき投与(EOD)に変更

トリロスタンの投与とモニタリング

トリロスタン投与における感受性の変化を観察するために、定期的にACTH刺激試験や血液検査が行われました。症例では、ACTH刺激後のコルチゾール値が投与量に応じて変動し、必要に応じて投与量の増減や一時中止が行われました。以下は、コルチゾール基準値に基づいた目安です。

トリロスタン投与前コルチゾール基準

  • 1.5μg/dL未満:過剰な抑制
  • 1.5~5μg/dL:良好な抑制
  • 5μg/dL以上:不十分な抑制

トリロスタン投与3時間後コルチゾール基準

  • 2.3μg/dL未満:良好な抑制
  • 2.3μg/dL以上:不十分な抑制

解説とまとめ

トリロスタンによるPDH治療では、1~2年の長期的な投与により、コルチゾール抑制の度合いが変化することが多く見られるため、定期的な検査と適切な投与量の見直しが欠かせません。また、ACTH刺激試験の結果を基に、症状やコルチゾール値を確認しながら調整することで、治療の効果を維持し、副作用のリスクを最小限に抑えることが重要です。

おわりに

長期のトリロスタン治療では、投与量の調整とACTH刺激試験によるモニタリングが治療効果を左右する重要な要素となります。これにより、PDHの管理を効果的に行い、犬の生活の質を向上させることが期待されます。

注意点

飼い主さんの自己判断で薬を調整してしまうリスク:

  • 薬が不足した場合:クッシング症候群の最も重大な合併症は、心血管疾患です。具体的には、高血圧、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中などのリスクが大幅に増加します。これらの心血管系の合併症は、予後や生命予後に深刻な影響を及ぼすため、早期の診断と適切な治療が非常に重要です。また、糖尿病や脂質異常症などの代謝異常も心血管疾患のリスクを高めます。
  • 薬が過剰な場合:アジソン病のリスクが増し、以下のような命に関わる状態になる可能性があります。
    • アジソン危機(急性副腎不全):血圧の急低下やショック状態など
    • 低血圧と脱水:めまいや失神
    • 低血糖:疲労感や意識障害
    • 電解質異常:低ナトリウム血症や高カリウム血症による不整脈や筋力低下
    • 体重減少と食欲不振:栄養状態の悪化
    • 皮膚の色素沈着:肌や口腔内の黒ずみ

自己判断で薬を調整してしまい、症状が悪化すると、診断を進めるために頻繁にACTH刺激試験を行う必要が出てきます。これにより、副腎の壊死がさらに進行し、ホルモンバランスが崩れてしまうリスクが高まります。

適切な治療とモニタリングにより早期に病状を安定させ、3か月に一度のコントロールで済むようにすることが望ましいです。安定した治療計画を立てることで、ペットの健康と生活の質を保つことができます。