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感情ではなく科学で愛犬を守る。クッシング症候群へのロジカルなアプローチ

日々の診察の中で、飼い主様からよくこんなご相談をお受けします。

「最近、うちの子がお水をガブガブ飲むようになって。おしっこの量も増えたんだけど、まあ年のせいですかね?」

シニア期のワンちゃんと暮らしていると、少しの変化も「加齢のせい」と納得してしまいがちです。しかし、獣医師の視点から言わせていただくと、その「なんとなくの思い込み」は時に非常に危険な結果を招きます。

多飲多尿は、決してただ喉が渇いているだけではありません。体の中で「重大な異常事態」が起きているSOSのサインである可能性が高いのです。

クッシング症候群という「静かなる脅威」

今回皆様に知っていただきたいのは、中高齢のワンちゃんに多い「クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)」という病気です。

簡単に言うと、生きていくのに必要な「ステロイドホルモン(コルチゾール)」が、体内で過剰に分泌され続けてしまう病気です。実は、この病気の原因の約80%は「脳の下垂体にできる腫瘍」によるものです。

「脳の腫瘍」と聞くと、ショックを受けられるかもしれません。

  • 「お薬を一生飲むなんて可哀想」
  • 「副作用が怖いから、自然のまま様子を見たい」

そう思われるお気持ちは、痛いほどよく分かります。
しかし、厳しいことを申し上げますが、「可哀想」「怖い」という飼い主様の感情で、病気の進行を止めることはできません。

体内でホルモンが異常に分泌され続けているという「物理的な事実」がある以上、治療を先延ばしにすれば、愛犬の体は確実に壊れていきます。

体の中で何が起きているのか?(社長と工場の関係)

クッシング症候群のメカニズムを、会社組織に例えてみましょう。

  • 脳の下垂体 = 本社の社長
  • 副腎 = 下請けの工場

正常な状態なら、社長が「これくらいホルモンを作ってね」と適正な発注書を出し、工場がそれに応じて製品(ホルモン)を作ります。

しかし、クッシング症候群では、社長(脳)が腫瘍化して暴走してしまいます。「もっと作れ!休むな!」と異常な発注書を出し続けるため、下請け工場(副腎)は過労死寸前でフル稼働。その結果、血液中に過剰なホルモンが溢れかえってしまうのです。

ステロイドは適量ならストレスから体を守ってくれますが、多すぎると「劇薬」になります。
筋肉をペラペラに薄くし、異常な脂肪をお腹に溜め込み、さらには血管内に「血栓」を作りやすくしてしまうのです。

※犬のクッシング症候群によって萎縮した皮膚病変の様子です。
👉 横にスクロールしてご覧ください

「様子を見る」という選択の恐ろしさ

「今は元気そうだし、少しお腹が出ているだけだから…」と治療をためらう方がいます。
しかし、放置している間にも、愛犬の体内では「破滅へのカウントダウン」が進んでいます。

もし、血管内にできた血栓が、肺の重要な血管に詰まってしまったらどうなるでしょうか。その瞬間に重篤な呼吸困難に陥り、命に関わります。また、約10%の確率で糖尿病を併発するというデータもあります。

「様子を見る」ことは、決して安全な選択ではありません。

科学的でロジカルなアプローチを

私たちは、脳の手術という極めてリスクの高い方法ではなく、お薬(トリロスタン製剤など)を使って「工場の生産ラインを強制的にコントロールする」という内科的治療を行います。

お薬の力でホルモンの過剰な合成をストップさせる、極めてロジカルなミッションです。

ただし、薬が効きすぎると今度はホルモンが足りなくなって倒れてしまう危険があるため、治療開始からの初期モニターや、定期的な血液検査が絶対に必要になります。

(※検査当日の朝は、必ず「絶食」をお願いしています。「可哀想だから」と少しでもおやつを与えてしまうと、正しい検査データが得られず、愛犬を危険に晒すことになりますので固くお断りしています。)

愛犬を本当に守るために

クッシング症候群は、自然に治る病気ではありません。
不安や恐怖から目を背けず、科学的な解決策を淡々と選んでいくこと。それこそが、結果的に愛犬を一番苦しませない方法だと信じています。

「最近よくお水を飲むな」「お腹が膨れてきたな」と感じたら、決して自己判断で「年のせい」にせず、なるべく早くご相談ください。

【当院の受診をご希望の飼い主様へ】


当院では、手術および重症患者様の対応を最優先とするため、お電話は常時留守番電話対応とさせていただいております。
ご不便をおかけいたしますが、ご予約および事前問診は必ず【公式WEBサイト】よりお願いいたします。

Summary / 摘要

[English Summary]

Do you mistake your senior dog’s increased drinking and urination for simple aging? It could be a serious warning sign of Cushing’s syndrome, a dangerous condition where the body overproduces cortisol, often caused by a pituitary tumor. Ignoring these signs can lead to fatal blood clots or diabetes. We treat this condition logically using medication to control hormone production, rather than opting for high-risk brain surgery. Regular monitoring and strict fasting before blood tests are essential. Please consult a veterinarian early. To prioritize severe cases and surgeries, our clinic does not accept phone calls; please book your appointment via our official website.


[中文摘要]

您是否将老年犬多饮多尿误认为是简单的“衰老”现象?这可能是库兴氏综合征的严重警报。这是一种由于垂体肿瘤导致体内皮质醇分泌过多的危险疾病。如果不及时治疗,可能会引发致命的血栓或糖尿病。我们采用科学的方法,通过药物控制激素分泌,而不是进行高风险的脑部手术。治疗期间,定期监测和严格的空腹血液检查是必不可少的。请尽早咨询兽医,切勿单纯“观察”。为了优先处理重症患者和手术,本院不接受电话预约,请务必通过官方网站进行预约。