犬猫の消化管超音波検査:最新情報を含む検査手技と評価方法の詳細解説
犬猫の消化管超音波検査(エコー検査)は、非侵襲的かつリアルタイムで消化管の構造や機能を評価できる重要な診断ツールです。
消化管超音波検査の適応
一般的な適応症
- 慢性または急性の消化器症状(嘔吐、下痢、食欲不振、体重減少など)
- 消化管腫瘍の疑い
- 炎症性腸疾患(IBD)
- 消化管の閉塞や穿孔の疑い
- 異物摂取後の評価
特殊な適応症
- 外科的手術前の評価
- 内視鏡検査の補完
- 内部構造の詳細な評価(例:腸壁層の詳細な解析)
機器と準備
エコー機器の選択
- 周波数:消化管の評価には高周波(7.5MHz〜12MHz)のリニアプローブが適しています。深部構造の評価には低周波(2-5MHz)のコンベックスプローブが用いられることもあります。
患者の準備
- 絶食:胃や小腸の評価を正確に行うため、検査前に数時間の絶食が推奨されます(通常6〜12時間)。
- 体位:検査中は動かないように固定し、適切な体位(側臥位や腹臥位)を取らせます。
検査手技
スキャンの順序と部位別アプローチ
胃の評価
- 位置:腹部の左上部に位置。
- 方法:側臥位または腹臥位で、リニアプローブを横に置き、胃の内容物や壁の厚み、運動(幽門括約筋の動き)を観察します。
十二指腸の評価
•位置: 胃の幽門部から続く消化管の最初の部分。
•エコー検査の方法:
- プローブを胃の幽門に平行に当てる。
- 角度を調整して壁の厚みや形態を確認。
•エコー所見:
•犬: 壁厚は正常で 5〜5.5mm。均一な壁厚と規則的な層構造が観察されます。
•猫: 壁厚は約 2.5mm。犬よりも薄いため、評価時には細心の注意が必要です。
空腸・回腸の評価
【検査方法】
•腹部を横断的にスキャンします。
•腸の位置や壁の構造を確認します。
【犬の腸の特徴】
•空腸・回腸:
•壁が十二指腸よりも薄いです。
•腸の部分が長いため、エコーでは連続的な腸の走行が確認できます。
【猫の腸の特徴】
•空腸・回腸:
•壁の厚さが十二指腸と同じです。
•形も十二指腸に似ています。
結腸(大腸)の評価
•プローブの当て方:
•胃の幽門(出口)に平行にプローブを当てます。
•その後、プローブを垂直に立てます。
•注意点:
•結腸はしわのある粘膜と薄い壁が特徴です。
•胃と間違えないように注意が必要です。
【回盲部の観察】
•結腸をたどると、小腸と大腸の接続部である回盲部が見えてきます。
•評価ポイント:
•回盲部の形や大きさ。
•周囲の組織との関係性。
【大腸炎について】
•エコーでの所見:
•結腸壁が腫れている場合があります。
•粘膜下にぶつぶつ(リンパ小節の腫れ)が見えることがあります。
【横行結腸のエコー検査】
•観察ポイント:
•大腸炎のサインである粘膜下のぶつぶつを確認します。
•これらはリンパ小節の腫れによるものです。
【上行結腸のエコー検査】
•プローブの移動方法:
•肛門付近からプローブを当て始めます。
•最後の肋骨付近まで、横断的に上行結腸を追跡します。
•観察ポイント:
•結腸壁の厚さや構造。
•周囲の組織との位置関係。
•異常が見られる場合:
•炎症や腫瘍の可能性を考えます。
動きと血流の評価
- 腸の蠕動運動:リアルタイムで腸の動きを観察し、正常な運動かどうかを評価します。
- ドップラーエコー:血流の状態を評価し、炎症や腫瘍による血流変化を検出します。
正常な超音波所見と正常範囲
壁の層構造
消化管の壁は通常、5層構造として観察されます(内腸層、粘膜下層、筋層、漿膜下層、外腸層)。
その他の正常所見
- 腸内容物:均一でガスや液体の混在がないこと。
- 周囲組織:リンパ節や血管の正常な大きさと形態。
- 腸の走行:腹腔内で適切な位置に配置され、ねじれや固定異常がないこと。
異常所見とその評価
動きの異常
- 無運動:腸の蠕動運動が減少または停止している場合、閉塞や麻痺が疑われる。
- 過剰運動:炎症や痛みによる反射的な動きの増加。
腸閉塞と穿孔
- 閉塞:腸管の拡張や狭窄、内容物の停滞が観察されます。
- 穿孔:腹腔内に液体やガスが存在する場合に疑われます。
異物や寄生虫の検出
超音波で異物の存在や寄生虫の動きを確認することができます。
病変のパターン認識
- 均一な肥厚(壁が全体的に均一に厚くなる)•炎症性疾患:
•腸炎(炎症性腸疾患):腸壁が均一に肥厚します。
•リンパ腫(低悪性度):
•壁全体が均一に肥厚することがあります。
- 不均一な肥厚(壁の一部が不規則に厚くなる)•腫瘍性病変:
•腺腫、腺癌:壁が不均一に厚くなり、内部に不規則な構造を持つことが多い。
•リンパ腫(高悪性度):
•壁の一部が著しく肥厚し、大きな腫瘤(しこり)を形成することがあります。
- 腫瘤形成(大きなしこりの形成)•高悪性度のリンパ腫:
•消化管内で大きな腫瘤を形成し、周囲の組織や臓器に影響を及ぼす可能性があります。
•進行した腺癌などの腫瘍:
•大きな腫瘤を形成し、腸管の閉塞や穿孔を引き起こすことがあります。
- 粘膜下層の異常(粘膜下にぶつぶつが見られる)•大腸炎:
•粘膜下にリンパ小節の腫れ(ぶつぶつ)が見られます。
•特定の炎症性疾患:
•粘膜下層に異常所見が現れることがあります。
他の検査との併用
- 組織検査:腫瘍や重度の炎症が疑われる場合、組織を採取して病理診断を行います。