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犬のてんかん発作と向き合う―「もしも」に備えるための正しい知識とお薬のルール

先日、当院に「突然、足がびしょびしょになるほどの多量のよだれが出た」というワンちゃんが来院されました。

血液検査を実施したところ、内臓の数値はすべて正常でした。つまり、肝臓や腎臓などの臓器の悪化が原因でよだれが出ているわけではないことが分かりました。そこで疑われるのが「脳(神経)」が原因で起こる症状です。


しかし、ワンちゃんはとても元気で食欲もあり、症状もその1回きりでした。飼い主様とじっくり話し合った結果、現時点ではすぐにMRI検査や投薬を行わず、まずは「経過観察」とする決断をされました。これは、ご家族の負担やワンちゃんの現在の生活の質(QOL)を考えた上で、非常に立派な選択です。

ただ、この「よだれ」は将来的なてんかん発作の前兆であった可能性も否定できません。今回は、今後もし発作が起きた時に備え、慌てず対応していただくための「てんかんの病態生理」と「治療のルール」について詳しく解説します。

なぜ「よだれ」が出る? てんかんの病態生理(メカニズム)

てんかん発作は、脳内の神経細胞(ニューロン)が突発的かつ過剰に電気的興奮を起こすこと、いわゆる「脳内の電気的ショート(嵐)」によって発生します。通常、脳内では「興奮」と「抑制」のシグナルがバランスよく保たれていますが、何らかの原因でこのバランスが崩れ、異常な電気信号が発生します。

  • 焦点性発作(脳の一部でのショート):異常な電気信号が大脳皮質の「一部」にだけ留まっている状態です。このとき、自律神経を司る部分に異常な電気が走ると、多量のよだれ(流涎)が出たり、顔の一部がピクピク引きつったり、ハエを噛むような仕草をしたりします。先日のワンちゃんのよだれも、この焦点性発作であった可能性があります。
  • 全身性発作(脳全体・深部への波及):一部で始まった電気の嵐が抑えきれず、脳全体、そして脳の根元である「脳幹(延髄など)」にまで一気に広がってしまう状態です。延髄は運動や呼吸の中枢であるため、ここまで波及するとバタンと意識を失い、全身を硬直させ、手足をバタバタさせる激しい痙攣を引き起こします。

治療の要:「コンセーブ」による発作のコントロール

もし今後、明確な発作が起きたり、頻度が増えたりした場合は、抗てんかん薬による治療を開始します。当院では主に「コンセーブ(一般名:ゾニサミド)」というお薬を使用することが多いです。

抗てんかん薬の目的は、病気そのものを完治させることではありません。脳の神経細胞の過剰な興奮を抑え、発作閾値(発作を起こすスイッチの入りにくさ)を高く保つことで、発作をコントロールすることが最大の目標です。コンセーブは、脳内のナトリウムチャネルやカルシウムチャネルという電気の通り道をブロックすることで、異常な放電が広がるのを防いでくれます。

治療中は定期的な血液検査を行い、以下の2点を確認します。

  • 血中濃度の測定:お薬の成分が血液中に十分足りているか(有効濃度に達しているか)を確認し、用量を微調整します。
  • 副作用のチェック:肝臓などの臓器に負担がかかっていないか、副作用が出ていないかを同時に確認し、安全に治療を継続できるかを3ヶ月に1回評価します。

絶対に守ってほしい「自己判断で休薬しない」理由

てんかん治療において、もっとも危険なのが「飼い主様の自己判断でお薬を減らしたり、休んだりすること」です。不規則な投薬を続けると、以下のような恐ろしい事態を招きます。

  • お薬の耐性化(効かなくなること):飲んだり飲まなかったりを繰り返すと、体が薬に慣れてしまい、いざ本当に発作を止めたい時に「今までのお薬が全く効かない」という状態に陥る恐れがあります。
  • リバウンド発作(重積状態の危険):急にお薬をやめると、抑えられていた脳の興奮が一気に爆発し、発作が止まらなくなる「てんかん重積状態(命に関わる緊急事態)」を引き起こす危険性が非常に高まります。お薬の開始や調整は、必ず獣医師の指示のもとで行うことが鉄則です。

いざという時のために(ご家庭での備え)

今は元気で経過観察中のワンちゃんも、今後もし発作(全身の痙攣など)が起きた場合は、以下の行動をとってください。

  • 触らない・抱き上げない:無理に押さえつけたり、口に手を入れたりせず、周囲にクッションを置いて怪我を防ぎます。
  • 動画を撮る:どのような発作だったかは重要な診断材料になります。
  • 時間を計る:5分以上発作が続く場合は非常に危険です。すぐにご連絡の上、救急受診をしてください。

English Summary / 中文摘要

English Summary

This article explains the mechanisms of canine epilepsy and the importance of appropriate medical management, inspired by a recent case of a dog presenting with excessive drooling but normal blood work. This symptom can be a sign of focal seizures. We emphasized that if seizures occur and anti-epileptic medication like Zonisamide (Consave) is prescribed, the goal is to control seizures by raising the brain’s seizure threshold, not to cure the condition. It is critical to strictly follow the medication schedule; altering or stopping medication without veterinary guidance can lead to drug resistance or life-threatening rebound seizures (status epilepticus). Regular blood tests are required to monitor blood drug levels and potential side effects. Always ensure your dog’s safety during a seizure, time its duration, and take a video for your vet.


中文摘要

本文介绍了犬类癫痫的发病机制以及正确用药管理的重要性。近期有一病例,狗狗突然流口水过多,但血液检查正常,这可能是局灶性癫痫发作的前兆。如果在未来确诊癫痫并开始使用抗癫痫药物(如唑尼沙胺 / Consave),其主要目的是通过提高大脑癫痫发作阈值来控制发作,而非彻底治愈。在此过程中,必须严格遵医嘱服药,切勿自行停药或减量,否则可能导致药物耐受或引发危及生命的癫痫持续状态(反弹发作)。同时,需要定期进行血液检查,以监测药物浓度及可能的副作用。当癫痫发作时,请确保狗狗周围环境安全,记录发作持续时间,并拍摄视频供兽医参考。