猫の好酸球性硬化性線維過形成(GESF)について
好酸球性硬化性線維過形成(Gastrointestinal Eosinophilic Sclerosing Fibroplasia: GESF)は、猫の消化管(胃・小腸・大腸など)に好酸球をはじめとする炎症細胞が浸潤し、
線維化(コラーゲンなどの線維組織が増殖)を伴って、消化管壁が厚く硬化する疾患です。
胃や腸に腫瘤状の病変を形成し、嘔吐や食欲不振などの症状を引き起こします。
場合によっては消化管の狭窄や通過障害をきたし、体重減少や脱水など全身状態を悪化させることもあります。
原因・病因
- 免疫介在性の炎症が疑われるが、まだ明確には解明されていない。
- 細菌感染(ブドウ球菌など)と関連する可能性があり、抗菌薬が有効な例も報告されている。
- 寄生虫や真菌感染など他の因子も考えられるが、決定的な要因とは断定できていない。
- LGLリンパ腫など他の腫瘍性疾患と顕微鏡レベルでも鑑別が難しい場合がある。
好発部位
- 回盲接合部(ICJ)や幽門部で頻度が高いとされるが、胃から小腸、大腸までどの部位にも発生しうる。
- 病変が局所にとどまらず、びまん性に広がる場合もある。
症状
- 嘔吐や食欲不振
- 慢性的な下痢・体重減少
- 腸管壁の腫瘤様肥厚、狭窄
- 触診での腹部腫瘤やリンパ節腫大
- 重度の場合、脱水・衰弱が進行
診断
- 超音波検査:消化管壁の肥厚や層構造の消失、リンパ節腫大をチェック。
- X線 / CT 検査:狭窄や腫瘤性病変を精査。CTでより詳細な評価が可能。
- 細胞診(FNA):腫大リンパ節や腫瘤に穿刺し、好酸球優位なら GESF を疑う。しかし、リンパ腫などとの鑑別が難しい場合も。
- 病理組織検査(内視鏡 / 外科生検):
最終的な診断には線維化と好酸球浸潤を組織レベルで確認。
内視鏡生検は粘膜表層しか採取できないことが多く、深部病変を評価するには不十分な場合があり、外科的生検が必要となることも。
治療
- ステロイド(プレドニゾロン):1~2 mg/kg/日で開始し、効果に応じて減量。ステロイド単剤でコントロールできる症例もある。
- シクロスポリン:5 mg/kg/日から開始し、5~7 mg/kg程度に増量することも。
- クロラムブシル:
- 体重ベース: 0.1~0.2 mg/kg を 2日に1回(EOD)
- 4~5 kgの猫なら、2 mg/匹 EOD も使用されることがある
- 抗菌薬:細菌感染が示唆される場合はクラブラン酸アモキシシリン(10-20mg/kg bid)、メトロニダゾール(8-10mg/kg bid)、マルボフロキサシン(5mg/kg Sid)などを併用。
- 外科的切除:重度の狭窄や腫瘤が限局していれば切除を検討。ただし病変が広範囲に及ぶ場合は難易度が高い。
周術期死亡率が約24%?
一部の症例報告では、外科的生検・切除を要したケースで周術期死亡率が24%ほどとされています。
- 病変が複数部位に及び、衰弱・栄養不良の状態で麻酔に耐えられない
- 長時間の手術や縫合不全・術後感染など合併症
- 手術翌日に状態が急変して亡くなるケースも報告あり
術前の全身管理(補液や栄養サポート)や、低侵襲な生検手技の検討が重要です。
予後・最新アップデート
- 早期発見・治療なら長期生存が可能とする症例報告も。
- 重度病変やリンパ腫併発の場合、致命的な経過をたどるリスクが高まる。
- まだガイドラインや大規模研究が少なく、症例報告レベルでの知見が中心。
- 抗菌薬耐性が懸念され、培養感受性試験を行う動きが増えている。
- タクロリムス・ミコフェノール酸モフェチルなど他の免疫調節薬の利用報告も徐々に増加。
まとめ
猫の好酸球性硬化性線維過形成(GESF)は、好酸球浸潤+線維化が特徴で、消化管狭窄による嘔吐・食欲不振が主症状となることが多い疾患です。
ステロイド+抗菌薬でコントロールできる症例も少なくない一方、重度のケースや外科的アプローチが必要なケースでは、周術期死亡率が約24%と高い報告も存在します。
原因や最適な治療法はまだ研究段階ですが、早期診断ができれば長期的なコントロールも期待できます。
適切な検査と治療の選択のためには、定期的な診察と獣医師との連携が欠かせません。