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看護師の教育に対する考え方

指導スタイルについて

時々、指導スタイルについて求職者、現スタッフや仕事関係者より、「どのように部下への教育にあたっているのか?」と聞かれることがあります。私自身もまだ道半ばではありますが、今までの経験から得た考え方を共有することにしました。

サービスは、個々の不完全なパフォーマンスが集合して穴を埋めて成り立つ

テレビ番組で知られる世界的に有名なシェフ、ゴードン・ラムジーは、しばしば「レストランの立て直し」を行う場面で「料理とはハーモニーである」と語ります。この言葉は、単においしい料理を作るだけではなく、メニューの構成、使う食材、調理方法、さらにはサービスの流れやレストラン全体の雰囲気が全て調和することで、お客様に最高の体験を提供できることを意味しています。

指示役とキッチンの連携

ラムジーは、指示役(フロア)とキッチンの連携がうまくいかないと非常に怒る場面がよくあります。それは、料理のクオリティだけでなく、サービス全体の流れがスムーズであることが、お客様にとって最高の体験を提供するために欠かせないと強く考えているからです。彼が強く叱るのも、全体の成功にはチームワークが何よりも大切だという信念が背景にあるからでしょう。

動物病院でのチームワーク

この考え方は、動物病院でも同じだと感じています。診察室の中で行われる治療は、単に獣医師が知識と技術を駆使するだけでは成り立たず、看護師、受付スタッフ、その他の全てのメンバーがそれぞれの役割をしっかりと果たし、互いに協力し合うことで初めて、ペットとその飼い主様に安心と満足を届けることができます。つまり、動物病院における「個々の集合体が機能して」こそが、良質な診療と顧客満足を生み出す鍵となるのではないか、というのが私の考えです。

部下への教育方針

部下を単に「置物」として扱うのではなく、実際に深刻な状況に関わらせることで、自分自身で判断し、経験不足による単純な白黒思考から抜け出していくことが重要だと考えています。また、成功や満足とは一つの要素で達成されるものではなく、多くの要素が絡み合って初めて実現されるという視点を持つように指導しています。

さらに、技術革新には終わりがないということを理解し、どんな状況でも柔軟に対応できる力を育てることが、私が目指している教育の形です。

なぜ部下と目を見て会話をしなければならないのか?

**コミュニケーションがうまくいかない原因**

たとえ点滴などのシンプルな作業でも、部下の反応を見ずにただ指示を連続で出してしまうと、部下は不安なままで学ぶ機会を逃してしまいます。また、作業の流れを途中で切って別の作業に移らせると、部下は断片的にしか学べず、結局「ただのロボット」のように感じる可能性があります。それに加えて、症例に関する事前の説明がなければ、それぞれの業務の意味を理解できないまま作業を進めることになりがちです。

部下の理解を確認する方法

部下は、本当は理解していない場合でも「はい」と返事をしてしまうことがあります。しかし、本当に理解していれば、目が虚ろになったり、無表情になったり、声が小さくなることはありません。もし部下の目に輝きがなく、相槌もなく返事をしているときは、理解していないサインです。そうしたサインを見逃さず、「なんか不安そうだね、ついてこれてる?」と声をかけて立ち止まり、理解を確認することが大切です。

また、予定を数時間先まで部下に伝えて共有することで、最終ゴールから逆算してどう行動すべきかをイメージしやすくなります。そして、症例についての情報を事前、途中、または業務終了後に説明し、業務の意味を部下と共有しながら進めることが重要です。これにより、部下は「結論から話す」形で内容を理解し、業務の目的をしっかり把握することができます。

具体例:去勢手術の点滴

例えば、去勢手術に必要な点滴の準備が不十分だと、麻酔によって循環器の機能が抑制され、全身の臓器に酸素と栄養が行き渡らず、多臓器不全を引き起こすリスクがあります。そのため、手術の1時間前までには静脈ラインを確保する必要があります。ソルラクト(輸液)、留置針、プラグを準備し、対象の犬を診察室に連れてくるように指示してください。

静脈ラインを確保したら、点滴の接続を行いますが、特に注意すべき点は「空気を点滴ラインに入れないこと」です。点滴液でラインを完全に満たし、接続前に必ず私に確認してほしいです。また、機械を使って早送りしてもいいし、液剤をラインに満たしてから機械に接続するのもどちらでも構いません。5分以内に完了し、接続前に私がチェックします。

輸液中の注意点

輸液中に犬が暴れて留置針が血管を突き破ると、皮下に漏れるリスクがあります。これは輸液が血管内に入らないことを意味し、輸液が正常に行われていない状態です。静脈留置部位の肘の近くが膨らんでいないか、30分おきに確認してほしいです。もし反対の足と比べて膨らんでいたら、留置針を入れ直す必要があるため、すぐに知らせてください。

救急時の対応とフィードバック

救急対応や麻酔中の緊急事態では、事前に十分な説明をする時間がないことが多々あります。そのような場合、強い口調で短く指示を出す必要があります。例えば「酸素早く!」「ラインを早くつなげて!」「ライトを当てて!」など、迅速で明確な指示が求められます。

しかし、そのような緊急対応が終わった後は、必ず部下と振り返りを行い、何が起きていたのか、どうすればもっと効果的に対応できたかを一緒に考えます。例えば、「麻酔中に酸素が供給されていないと、4分以内で命に関わることになるので、酸素の確保が最も重要なんだ。それからライトもすぐに当ててほしかった。出血点を見つけて止血するためには、スポットを小さく合わせるのがコツなんだよ」といった具体的なフィードバックを行います。

助からなかった症例についての振り返り

例えば、「昨日亡くなったみーちゃんのケースを振り返ろう。みーちゃんは敗血症、胸水、肝リピドーシスが原因でショック状態に陥り、助けることができなかった。全身に細菌が広がり、肝臓で毒素を代謝できなかったために発作が起きた。さらに胸水がたまって呼吸ができなくなったんだ。」

待合室で自力で顔を上げられず、こちらの呼びかけにも反応しない動物がいた場合は、他の外来対応を中断してでも緊急対応が必要です。心停止が起きたら5分以内に対応しなければ助からないからです。そのため、すぐに静脈留置を準備し、スタッフを呼んでください。

どうして部下は同じ失敗を繰り返すのか?

新卒や転職してきたばかりの部下は、病院内での物の場所も、院長や上司の性格もまだ把握していません。そのため、数ヶ月間は常に緊張した状態で働くことになります。こちらが説明しても、一度で全てを理解するのは難しいのは当然のことです。さらに、一度に多くの情報を処理するのが苦手で、視野が狭くなりがちです。

このため、部下が失敗を経験するのは避けられません。しかし、その失敗から学び、上司がその過程を観察し、何が原因かを分析して改善策を提案し、再度トライさせることが重要です。**こうすることで、部下が自己流で間違った方法で学習していることを正すことにもつながります。**

採血の際の具体例

たとえば、採血の際、部下は針を刺すことだけに集中しがちです。動画を見て練習しても、右手の針刺しの動作にしか目が向かないことが多いです。しかし、**実際には次のようなポイントが重要です**:

  • **1. リラックスした猫の状態を維持する**(静かな環境を選ぶ)
  • **2. 猫の呼吸を妨げない保定方法を選び**、猫が嫌がる足を強く握らない。首や肩、股関節をしっかりサポートして固定することが大切。
  • **3. 頸静脈は鎖骨付近で逆ハの字に集まるため、首の根元付近で鬱血した血管を探す。**
  • **4. 左手で猫の皮膚を軽く外側に引っ張り**、血管が逃げないようにする。
  • **5. 針を正確な角度で刺入する。**

途中で血液が吸えなくなる場合は、針の角度が間違っているためです。この際、**針の角度を調整しながら修正する必要があります**。

初心者はどうしても針を刺すことにばかり集中してしまい、猫が動いても同じ動作を繰り返すことがあります。そこで指導者が「ちょっと待って、今の状態では整ってない。仕切り直そう」と声をかけ、問題を分析し、**フィードバックを行って再挑戦させることが大切です**。

飼い主からのクレームへの対応

飼い主からのクレームがあった場合も、過度に引きずらないようサポートします。例えば、動物の落下や逃走、重大な医療過誤(誤処方など)以外の問題であれば、看護師としての責任が重大なものではないと理解させます。そして、大きく反省すべき点と改善すれば良い点を区別し、次の業務に活かせるように指導します。

また、仕事は長期間続くものであり、成功だけでなく、失敗した際にどう再発防止策を考え、次回にどう活かすかが重要です。

アンガーマネジメントと問題解決思考の伝授

よく怒りの感情を抑えるなどの方法が注目されていますが、実はこちらの方が大切なのではないかと思っています。

問題を重要かどうか、変えられるかどうかに分けて判断することで、中長期的な視野での優先順位を見定められるようにサポートしています。

また正解がない課題に関しては中心哲学の3法則を紹介して自分の解答を用意するように指導します。

中心哲学の3つの法則

  • 法則1:うまくいっているなら,変えようとするな
  • 法則2:一度でもうまくいったなら,またそれをせよ
  • 法則3:うまくいかないなら,(何か/何でもいいから)違うことをせよ

(白木,1994)

なぜわかりやすい言葉で明確な指示を出さないといけないのか?

日本語は難解で上下に従った独特な敬語表現が相互の理解を難解にしている時があります。

また原因、理由をつけてから要求を言うスタイルも教育のペースを落としていることがあります。「これを言って良いのか?」という建前の文化や空気を読むことが距離感を作り、相互の協力を得られないのかもしれません。

 

指示の明確化とシンプルなコミュニケーション

部下への指示は、シンプルで具体的な言葉を使うことが重要です。日本語は敬語や表現の曖昧さで誤解が生じやすいため、あえて小学生に教えるように言葉のレベルを下げ、指示語を避けて具体的に伝えるようにしています。

例えば、「あれ、それ」などの指示語を避け、「食洗機の中か水切りかごにペアンがあるから持ってきて」と伝えることで、部下の混乱を避けます

また、部下に対しては、理解しているかどうかを確認するために、「ここまでの話をどう理解しているか、私に要約して説明してみて」と求めることもあります。これにより、彼らの理解度を確認し、さらなる指導に役立てています

この教育法に合わない人の特徴

  • 自己主導性が低い人: この教育法は、部下にある程度の自由と責任を与え、自分で考えて行動することを求めます。そのため、常に指示を待つスタイルや自ら積極的に動こうとしない人には合いません。
  • 失敗に対する恐怖が強い人: 失敗を通じて学び、次に活かすという考え方がベースにあるため、失敗を極度に恐れ、リスクを避けようとする人にはストレスが大きくなるかもしれません。
  • 高いサポートを必要とする人: 初期段階では手厚いサポートが必要ですが、ある程度の段階を超えると自立を求める教育法です。そのため、常に詳細な指導を求める人やサポートが無いと不安になる人には適していません。
  • 柔軟性に欠ける人: 技術革新には終わりがなく、状況に応じた臨機応変な対応が求められます。そのため、変化や不確実性を好まず、一つの方法に固執する人には難しいかもしれません。
  • フィードバックに対して受け身な人: この教育法では、フィードバックを受けて自分で改善点を見つけ、行動に移すことが重要です。フィードバックに対して受け身で、自分から改善策を考えられない人には合わない傾向があります。
  • チームワークを重視しない人: チーム全体の調和を大切にする教育法なので、個人主義が強く、チームとしての連携を軽視する人は、この環境での成長が難しいと感じるかもしれません。

精神的な健康

眠れない」「人間関係で病院の外でも悩む」「日常生活に支障をきたす」「相談に乗って欲しい」という部下の相談をいただいた時は「専門家に受診」と伝えています。

なぜなら私は獣医で、きちんとトレーニングを積んだ医師ではないので、そういった役目を負うことは不適切だからです。

また動物病院では劇薬を取り扱っているので、部下からは自由に病院内を出入りする鍵は回収し、受診、休職などの提案をします。

従業員の家族に関して

従業員のご家族から「子供である従業員が聞いても答えてくれないので、情報を提供して欲しい」という要望があった場合についてです。

基本的に、従業員以外の家族と私は赤の他人であり、従業員も成人後は独立した成人だと考えています。

私は獣医師であり、ペットを連れた飼い主に対して応召義務を負う立場にあります。また、経営者として従業員の労働環境を整える義務がありますが、それ以外の来客に対応する法律上の責務はありません。

さらに、家族とはいえ本人の許可を得ずに情報を開示したり、本人の見えないところで話をすることは、守秘義務の観点からも不適切だと考えています。

よって、これらの点をご家族にお伝えし、引き取っていただく方針です。

また、従業員にも家族が来所したことを報告し、当人同士で解決を図るように要望しています。