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避妊手術後の発情🌼🐈卵巣遺残症候群

卵巣遺残症候群

卵巣遺残症候群は、避妊手術(卵巣子宮摘出術または卵巣摘出術)後に発情徴候を示す症例の総称です。手術時に卵巣組織が取り残されることが原因で発生し、発症まで数か月から数年かかることが一般的です。

原因

    • 手術時の卵巣組織の遺残:卵巣周囲は脂肪が多く、卵管間膜に覆われているため、特に犬では卵巣の視認が難しく、取り残されることがあります。
    • 再血管化:取り残された卵巣組織の小片が再血管化により機能を取り戻すとされています。

卵胞の形成で発見しやすくなった卵巣です。

特徴と所見

  • 色調と硬さ:遺残卵巣は脂肪よりやや暗い色をしており、触診では脂肪より硬く感じられます。
  • 位置:多くの場合、腎臓の尾側で尿管に近い位置に存在します。
    • 注意点:切除前に必ず尿管の位置を確認する必要があります。

診断

  1. 発情徴候の観察:ペットが発情の徴候を示しているかを確認します。初期の発情徴候は弱く、繰り返すことで徐々に強くなります。
    • 発情徴候の例:人に寄り添う、鳴く、足踏み、ローリングなど。
  2. 発情周期の確認:1回の発情徴候だけでは診断が難しいため、周期性があるかを確認します。
  3. ホルモン検査:血液中の性ホルモン値を測定します。
    • エストロジェン(エストラジオール-17β):発情時期に測定することで有効です。
    • プロゲステロン:猫は交尾排卵動物であるため、測定前に排卵を誘発する処置が必要です。
  4. 超音波検査:遺残した卵巣組織を視覚的に確認します。
    • 図1:左側腎臓尾側に遺残卵巣と思われる組織(矢印)が認められました。

治療方針

  1. 再手術による遺残卵巣の摘出(最も適切な方法)
    • タイミング:黄体期中(排卵後約40日間)が推奨されます。これは卵胞が成熟し、卵巣が発見しやすくなるためです。
    • 手術時の注意点
      • 明らかな孤立性卵巣でない場合、子宮間膜や大網も一緒に切除します。
      • 左右卵巣の精査
        • 左側:絹糸で結紮された卵巣動脈・静脈が残っている場合、その周囲を摘出します。
        • 右側:腎臓尾側に遺残卵巣が疑われる組織がある場合、癒着組織を分離し、腹腔外に牽引します。
      • 手技のポイント
        • 血管の処理:血管を焼灼し、遺残卵巣と思われる組織から距離を置いて切断します。
        • 消化管の取り扱い:消化管を体外に出す必要はなく、反対側に避けるだけで十分です。左手で消化管を動かし、視野を確保します。
        • 尿管の確認:切除前に必ず尿管の位置を確認します。
        • 癒着や細い血管の分布に注意:癒着組織を慎重に分離します。
        • 特殊なケース:右側の蛇行血管が膵臓に終止し、癒着している場合は、リガシュア(血管シーリングデバイス)を用いて小さな卵巣膜ごと焼灼・切除します。
  2. 抗ホルモン薬による治療
    • 適応:再手術が困難な場合や、飼い主が再手術を希望しない場合。
    • 目的:エストロゲンとプロゲステロンの生成を抑制し、発情徴候を減少させます。
    • 注意点:副作用があるため、長期間の使用には注意が必要です。根本的な治療ではなく、症状の緩和が目的となります。
  3. 経過観察
    • 適応:症状が軽度で、生活に大きな支障がない場合。
    • 注意点:発情周期が続く限り症状が改善されないため、定期的な健康チェックが重要です。

予後

再手術による摘出の場合:遺残卵巣が完全に摘出されれば、予後は良好です。
抗ホルモン薬による治療の場合:ホルモン剤の副作用に注意が必要で、できれば投与中に再手術を検討することが望ましいです。

手術時の具体的な手順と注意点

  • 遺残卵巣の特徴
    • 脂肪よりやや暗い色をしており、触診上脂肪より硬い。
    • 腎臓尾側で尿管に近い位置に存在することが多い。
  • 尿管の位置確認
    • 切除前に必ず尿管の位置を確認します。
  • 消化管の取り扱い
    • 消化管を体外に出す必要はありません。反対側に避けるだけで十分です。
    • 左手で消化管を動かし、視野を確保します。
  • 手術手技のポイント
    • 血管の探索と処理:消化管を避けて血管を探索し、血管を焼灼します。
    • 遺残卵巣の切断:遺残卵巣と思われる組織から距離を置いて切断します。
    • 癒着の処理:遺残卵巣周囲の癒着組織を分離し、腹腔外に牽引します。
    • 卵巣動脈・静脈の結紮と離断:卵巣から1cm以上離して行うことで、卵巣を取り残す可能性を低減します。

症例紹介

症例1:卵巣遺残のケース

プロフィール
犬、5歳、避妊雌。

経緯
左右の卵巣が存在した部位を精査。左側は絹糸で結紮された卵巣動脈・静脈が残っており、その周囲を摘出。右側は腎臓尾側に卵胞を形成する組織を発見し、遺残卵巣が疑われました。

手術手順
遺残卵巣と思われる組織の周囲に癒着した組織を分離し、腹腔外に牽引。血管を焼灼し、組織から距離を置いて切断しました。

術後経過
術後3日で排液はなくなり、一般状態も良好となり退院。病理組織学的検査で右側の組織に卵巣組織を確認しました。

症例2:卵巣遺残と断端肉芽腫のケース

プロフィール
雑種犬、5歳、避妊雌。

経緯
2年前に子宮蓄膿症で卵巣子宮摘出術を実施。術後も陰部からの排膿が止まらず、4か月後に再手術。他院で子宮体の残存と重度の癒着を確認するも摘出できず。腹部正中に瘻が形成され、来院しました。

検査結果
超音波検査(図7):左側腎臓尾側から膀胱背側にかけて卵胞を伴う腫瘤性病変が認められました(矢印)。

対応
遺残卵巣の摘出手術を実施しました。

卵巣遺残を防ぐために

  1. 卵巣の確実な視認
    • 脂肪を分離し、卵巣提索、卵巣動脈・静脈を視認します。
    • 卵巣提索を切断し、卵巣を腹腔外まで牽引します。
    • 注意点:特に犬では卵巣の視認が難しいため、触診でおおよその位置を把握することが重要です。
  2. 適切な結紮と切断
    • 卵巣動脈・静脈を結紮・離断する際、卵巣から1cm以上離して行います。
    • これにより、卵巣を取り残す可能性が低くなります。

最新の文献からの追加情報

  • 発生率の見直し:最近の研究では、卵巣遺残症候群の発生率が従来の報告よりも高い可能性が示唆されています。
  • 診断技術の進歩
    • 抗ミュラー管ホルモン(AMH)の測定:卵巣組織の有無を確認するために有用です。
    • 高度な画像診断:CTやMRIなどが遺残卵巣の検出に役立っています。
  • 手術技術の向上
    • 腹腔鏡手術:低侵襲で遺残卵巣の摘出が可能となり、術後の回復が早くなっています。
    • 蛍光ナビゲーション:蛍光色素を用いて卵巣組織を可視化する手法が研究されています。

まとめ

卵巣遺残症候群は、避妊手術後に発情が続く動物に見られる症状です。診断には発情徴候や性ホルモン値の測定が有効で、再手術による摘出が最も適切な治療法です。症状が現れた場合は早期に獣医師に相談し、適切な治療を行うことが重要です。手術時には卵巣を取り残さないための注意が必要であり、最新の技術や知見を活用することで再発のリスクを最小限に抑えることができます。

ご不明な点やさらに詳しく知りたいことがございましたら、お気軽にご相談ください。

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