診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-19:00
手術時間12:00-15:00
水曜・土日午後休診
重篤な感染症である「前立腺膿瘍」に「重症膵炎」を併発した、極めてハイリスクな小型犬(オス)の症例についてお話しします。
動物の外科手術は、決して魔法ではありません。常に死の危険と隣り合わせの冷徹な決断です。今回は、内科治療の限界を見極めてメスを入れた判断の根拠、具体的な手術の全貌、そして完治に至るまでの病日や、当院での夜間管理の限界について包み隠さずお話しします。
患者さんは、頻尿、震え、強い腹痛、そして食欲廃絶を主訴に来院されました。




この状態は、厚い壁に囲まれた膿の塊に内服の抗生剤が十分に届かないことを意味します。内科治療のみでは確実に敗血症で命を落とすと判断し、膵炎の治療と並行しながら緊急の外科手術に踏み切りました。
「手術は可哀想だから、お薬でなんとかなりませんか」と問われることがあります。
しかし、この状態で様子を見ることは、体内で時限爆弾のスイッチが押されるのを待つようなものです。前立腺内の膿瘍が限界を超えて腹腔内に破裂すれば、致死的な汎発性腹膜炎を引き起こします。さらに膵炎による全身性の炎症反応が加わることで、多臓器不全(MODS)へと進行し、数日以内に極めて苦しみながら死に至ります。これが目を背けてはいけない放置のリスクです。
本症例の最大の懸念は、重症膵炎を併発していることでした。全身麻酔による血圧低下は、膵臓への血流を滞らせ、膵炎を致命的なレベルまで悪化させるリスク(虚血再灌流障害)を伴います。
実施した術式は、感染源のホルモン供給を絶つ「去勢手術」と、前立腺の膿を排出し自己免疫による修復を促す「前立腺大網被嚢術(Omentalization)」です。当院で行っている実際の手術手順とその技術的ハードルを詳述します。




















【致死的合併症】
外科手術は「魔法のゴール」ではなく、「内科治療を確実に効かせるためのスタートライン」に過ぎません。
術中に採取した前立腺の膿は、ただちに外部機関(IDEXX)へ細菌培養および薬剤感受性検査へ提出しました。約10日後に判明した結果は、なんと「大腸菌(Escherichia coli)」の大量増殖(4+)であり、さらに一般的なペニシリン系抗生剤に対して「薬剤耐性」を持っていることが判明しました。もしこの検査を怠り、経験則だけで無効な抗生剤を漫然と投与し続けていれば、耐性菌によって敗血症が再燃し、命を落としていたでしょう。私たちは結果に基づき、無効な抗生剤を即座に中止し、感受性が確認されたニューキノロン系抗菌薬へ的を絞り撃退しました。
同時に、重症膵炎との闘いも続きます。術後も消炎酵素阻害薬の内服や静脈点滴、徹底した低脂肪の食事管理を継続しました。術前に測定不能(>7.0 mg/dl)だったCRPは、術後13日目(第13病日)には1.2 mg/dlまで低下。そして術後約1ヶ月(第27病日)の検査において、CRP 0.6 mg/dl、リパーゼも104 U/lと完全な正常値を叩き出し、ここでようやく「前立腺膿瘍および膵炎の治療終了(完治)」を宣言することができました。
手術の成功から約1ヶ月間に及ぶ、泥臭いデータ管理と内科的闘いの結末です。
本症例は術後の低体温や浮腫を乗り越え、術後数日で退院としました。当院では、静脈内点滴が外れた段階で速やかに早期退院とし、ご自宅でのケアに移行する方針を取っています。見知らぬケージの中での恐怖やストレスは、動物の回復を著しく阻害するからです。
また、入院中の夜間監視における「物理的な限界」も事前にお伝えしています。
当院の夜間はスタッフ不在(無人)となります。もちろん、ペットカメラによる遠隔監視を行い、鳴き声や異常があれば深夜であっても院長が駆けつけ、追加の鎮痛や処置を行います。しかし、自宅からの移動には約30分を要します。「致死的な不整脈」や「突発的なショック」など、数分を争う急変には物理的に対応できないという事実を、私たちは決して隠しません。
治るフェーズであれば、私たちは徹底的に攻める外科手術と、データに基づいた緻密な内科治療を提案します。しかし、生き物である以上、必ず「治らないフェーズ」や「当院の限界」が訪れます。その時、耳障りの良い言葉でごまかし、飼い主様から無意味な治療費を搾取するような真似は決してしません。
限界が来たなら「潮時である」と率直にお伝えし、高度医療へ進むべきか、苦痛を取り除くことに専念するかを本音で話し合う。それこそが、動物と飼い主様の人生を守るための「論理的な誠実さ」だと私は信じています。
Surgical Management of Prostate Abscess and Severe Pancreatitis: A Case of Logical Clinical Intervention
This case report details the emergency surgical intervention (Omentalization) for a high-risk canine patient suffering from a severe prostate abscess and concurrent acute pancreatitis. We emphasize the critical necessity of local infiltration anesthesia for hemodynamic stability during surgery and the rigorous postoperative management based on bacterial culture and sensitivity testing (IDEXX). By avoiding “sugar-coated” clinical promises, we transparently communicate the physical limitations of our overnight monitoring and firmly advocate for early discharge to reduce patient stress. Our priority remains delivering evidence-based, logical veterinary care while protecting the physical and emotional well-being of both the animal and the owner.
前列腺脓肿并发重度胰腺炎的外科治疗:基于逻辑的临床干预病例
本病例报告详细描述了一只患有重度前列腺脓肿及并发急性胰腺炎的高危犬只的紧急外科手术(大网膜包被术)过程。我们强调了术中使用局部浸润麻醉以维持血液动力学稳定的绝对必要性,以及术后基于细菌培养及药敏试验(IDEXX)的严格内科管理。我们拒绝使用“虚伪的漂亮话”来掩饰医疗风险,始终透明地向家属交代夜间监护的物理界限,并主张尽早出院以减少患犬的精神压力。我们的核心理念在于提供基于证据和逻辑的诚实医疗,同时坚决捍卫动物及其主人的尊严与生活质量。