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【症例報告】犬の子宮蓄膿症術後における多発性結節と感染症管理





症例報告

【症例報告】犬の子宮蓄膿症術後における多発性結節と感染症管理

1. 背景

8歳のトイプードルが「元気がない」「立てない」との主訴で来院しました。
診察と検査により、以下の所見が得られ、子宮蓄膿症が強く疑われました。

  • 炎症マーカー(CRP): 基準値を大幅に超えており、体内で強い炎症反応が示唆されました。
  • エコー検査: 子宮が拡張しており、蓄膿症の疑いが確認されました。

初期対応として、以下の処置を行いました。

  • 点滴での水分補給と抗生剤の投与(2種類)
  • 低血圧改善のための血管収縮剤の使用

その後、子宮蓄膿症と診断され、子宮および卵巣の摘出手術を実施しました。手術中には腹腔内を洗浄し、感染予防のため広域スペクトルの抗生剤を継続投与しました。また、子宮内の膿を培養検査および薬剤感受性試験に提出しました。

2. 術後の症状と検査結果

術後の経過観察中に以下の問題が確認されました。

  • 多発性の結節: 細胞診により脂肪を主体とした成分が得られ、免疫性の脂肪織炎が疑われました。
  • お腹の傷の赤みと腫れ: 細胞診で菌体と炎症細胞が見つかり、手術中に見られた腹水の細菌が影響している可能性が考えられました。
  • 血液検査: 肝臓や他の臓器の数値は正常範囲内ですが、血小板が低く、DIC(播種性血管内凝固症候群)のリスクが高い状態が見られました。

3. 細菌検査と薬剤感受性試験

培養検査の結果、Escherichia coli(大腸菌)が検出され、ESBL(基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)を産生している可能性が示唆されました。これは、一般的な抗生剤が効きにくい菌です。

  • 感受性試験の結果: 多くの抗生剤に耐性を示しており、特にABPC、AMPC、PIPC、CEXといった一般的なβ-ラクタム系抗生剤が無効。有効とされた抗生剤は、カルバペネム系(IPM/CS、MEPM)、アミノグリコシド系(GM、TOB、AMK)、ホスホマイシン(FOM)です。

4. 治療方針とアミノグリコシド系抗生剤の使用に関する注意点

今回の症例では、感染管理とDICのリスク管理が非常に重要です。以下の治療方針を立てました。

  • 抗生剤治療: 培養検査結果が出るまで数日かかるため、試験的に抗生剤を追加して治療を強化しました。SIRS(全身性炎症反応症候群)が持続するとDICが悪化し、血栓形成により命に関わる危険性があるため、早期に感染を制御することが急務です。
  • アミノグリコシド系抗生剤の使用: アミノグリコシド系抗生剤は、今回の検出菌に有効な抗生剤の一つですが、腎毒性および耳毒性のリスクがあるため、使用には慎重な判断が求められます。使用時には腎機能を定期的にモニタリングし、リスクが見られた場合には即時に使用を中止します。治療期間は最小限にし、できるだけ短期間で効果を確認しながら使用します。他に有効な抗生剤(カルバペネム系やホスホマイシンなど)があればそちらを優先します。今回はホスホマイシンを選択しました。
  • 免疫性脂肪織炎の対応: 免疫抑制剤の使用が必要と考えられますが、細菌感染やDICのコントロールが優先されるため、CRP値(炎症マーカー)を確認しつつ慎重に進めます。
  • DIC治療: 比較的安全性が高いとされる低分子ヘパリン製剤を用いて血液をサラサラにし、血流改善を図ります。

5. 経口薬の検討

ESBL産生菌に対して有効な経口薬は限られています。軽度の感染や限局的な感染であればホスホマイシンの経口投与が考慮されますが、全身感染には効果が限定されるため、注射薬が推奨されます。

6. 治療の注意点

  • 感染と炎症の管理: 抗生剤による副作用や腎機能のモニタリングを徹底し、副作用が発生しないよう細心の注意を払います。
  • 治療方法の調整: 経口薬のみでの管理が困難な場合には、注射薬や入院管理を検討し、感染や炎症を抑えます。

結論

この症例では、感染管理とDICリスクのコントロールが非常に重要です。カルバペネム系やアミノグリコシド系抗生剤の使用が推奨されますが、特にアミノグリコシド系の使用は慎重に行い、腎機能や治療期間を厳密に管理することが求められます。また、定期的な検査で治療効果を評価しながら、最適な治療を進めていくことが重要です。