はじめに:小腸腫瘍と超音波検査の重要性
犬が慢性的または重篤な消化器症状(嘔吐や下痢など)を示す場合、異物の誤飲や膵炎と並んで小腸の腫瘍が疑われます。また、症状がなくてもお腹を触った際にしこりとして発見されることもあります。
小腸の腫瘍は対症療法だけでは治癒しないため、正確な診断が非常に重要です。幸いなことに、多くの小腸腫瘍は超音波検査で高精度に発見・鑑別できます。
症状が長引く場合などには、積極的な超音波検査が推奨されます。
検査を成功に導くための5つの準備
- 絶食:麻酔前と同様、食事を抜きます(飲水は可)
- 毛刈り:お腹の毛を刈り、鮮明な画像を得るために必須
- 薄暗い部屋:モニター画像の観察・集中のため室内を暗く
- 座って検査:獣医師が落ち着き、安定して検査
- プローブの正しい持ち方:手ブレ防止・安定した画像描出に重要
犬の小腸における3大悪性腫瘍
- リンパ腫
- 腺癌(せんがん)
- 消化管間質腫瘍(GIST)
超音波検査で各腫瘍は特徴的な画像を示すため、仮診断が高確率で可能です。まれな良性腫瘍や脂肪肉芽腫性リンパ管炎にも注意。
3大腫瘍の超音波所見と見分け方のポイント
| 比較項目 |
リンパ腫 |
GIST |
腺癌 |
| 病変の広がり方 |
同心円状に外側へ均一に肥厚 |
腸壁から外側へキノコ状に突出 |
内腔を狭めるように増殖 |
| 病変の長さ |
長く続くことが多い |
1点から発生・塊状 |
1点から発生・塊状 |
| 腸閉塞の有無 |
まれ |
まれ |
多い |
リンパ腫の特徴
- 見え方:腸が「ちくわ」のように同心円状に分厚く。低エコー性で5層構造は不明瞭〜消失。
- 進行時:大きな塊になることもあるが、内腔が中心を貫く形が特徴。
- 注意点:潰瘍形成で消化管出血を起こすことも。
GISTの特徴
- 腸壁から外側に突出する塊として描出(内腔は端に押しやられる)
- 内部は混合エコー性で不均一
- 盲腸で多いが特定が難しいことも
- 症状は出にくく、発見時は巨大化していることが多い
腺癌の特徴
- 小さく特徴的な見え方をしないことが多い
- 診断の決め手は「慢性的な部分閉塞」の画像
- 腫瘍より口側の腸が食渣で異常に拡張し、終末部で急に細くなる病変部が見つかる
診断後の治療方針
- リンパ腫:FNA(細胞診)で確定診断を目指す
- 腺癌:外科手術が第一選択。転移の有無を必ず確認
- GIST:他臓器(特に肝臓)転移を確認しFNA→手術へ
実際の症例から学ぶ
- 症例1(リンパ腫・ゴールデン・レトリーバー)
超音波で典型的な「同心円状の肥厚」と「長い病変」、「リンパ節の腫れ」→リンパ腫と診断
- 症例2(リンパ腫・甲斐犬)
X線で巨大な塊→超音波で中心に消化管の内腔と同心円状拡大=リンパ腫
※腫瘍内部のガス像は壊死や穿孔リスクのサイン
- 症例3(GIST・ミニチュアダックス)
超音波で巨大塊の表面に小腸が引き伸ばされて付着=GIST特有の画像
- 症例4(腺癌・中型雑種)
X線で著しい小腸拡張、超音波で終末部に縮れる狭い病変=腺癌と診断