診察時間
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手術時間12:00-15:00
水曜・日曜午後休診
本稿では、前院で「肝炎の疑い」と診断されウルソ(ウルソデオキシコール酸)を処方されていたにもかかわらず、症状が改善せずに当院を受診された犬の一例をご紹介いたします。
一見すると元気に見える状態でも、実は肝臓の大きな病変が隠れている可能性がある――。
そのことを改めて考えさせられるケースでした。
飼い主様からは「ウルソを飲ませても良くならず不安」とのご相談がありました。
身体検査
血液検査
これほどまでに炎症や貧血を示す結果は、「単なる肝炎」だけでは説明がつかないと考えました。
エコーを当てると、腹腔内の半分以上が異常に拡大した肝臓組織で占められていました。
表面はボコボコと不整で、多発性病変が疑われます。
前院ではエコー検査が行われていなかったようですが、この画像からは、肝臓の悪性腫瘍を最も強く考えざるを得ませんでした。
悪液質の可能性:
体全体の栄養状態が悪化し、筋肉が萎縮している様子から、腫瘍による悪液質がかなり進行していると見受けられました。
肝臓の悪性腫瘍:
これほど大きく肝臓を侵す病変を、外科的に切除するのは極めて難しいと判断いたしました。
肺転移のリスクも考慮すると、手術以外の選択肢に目を向ける必要があると考えます。
肝細胞癌(HCC)と予後・病状進行:
犬の原発性悪性肝腫瘍の中では、肝細胞癌(HCC)が最も一般的とされ、文献によっては50%以上を占めるともいわれます。
HCCには、単発型とびまん型(多発型)など複数のパターンがあり、単発型であれば外科的切除で長期生存が期待できるケースもありますが、
多発性や肝臓全体に広がっている場合は、腫瘍を完全に取り除くことが非常に困難となり、ターミナルケア(終末期ケア)の選択肢も検討せざるを得ません。
また、肝臓の機能低下が進行すると、食欲不振や体重減少、嘔吐・下痢、腹水・黄疸、低タンパク血症や血液凝固障害などが現れ、
肺転移が起きると呼吸困難をきたし、急速に状態が悪化するリスクが高くなります。
「これ以上の検査や無理な延命治療を行うべきか?」
本症例では、飼い主様とよくお話し合い、最終的にターミナルケア(終末期ケア)に重点を置く方針をご提案いたしました。
当院としては「より確実な診断が必要」という考えもありましたが、飼い主様のご意向や犬の状態を踏まえ、過剰な検査は行わない方が望ましいと判断いたしました。
本症例は、肝酵素の上昇だけを追っていたのでは発見が遅れてしまう可能性があることを改めて教えてくれました。
前院で肝炎とみなされていた背景には、エコー検査の未実施も影響していたと思われます。
一方で、いざエコーを当ててみると、想像以上に大きな腫瘍が見つかることがあります。
こうした場合、外科的切除や積極的な抗がん治療よりも、ターミナルケアを選択した方が犬のQOLを保ちやすい可能性もあります。
もちろん、最適な方針はケースバイケースであり、全ての患者に当てはまるわけではありません。
しかし、本症例を通じて、飼い主様と「どこまで治療を行うか」を丁寧に話し合い、可能な限り犬にとって安らかで苦痛の少ない方法を選ぶことの大切さを改めて感じました。
本記事が、同様のケースに悩まれている飼い主様や、獣医療に携わる方々に何かしらの気づきをもたらせれば幸いです。
当院としましても、日々の診療の中で学びを深めつつ、よりよい医療を提供できるよう努力を続けてまいりたいと考えております。
どうか、皆さまの大切なご家族(ペット)が、少しでも穏やかな時間を過ごせますように。