🐱 猫のショック:原因、症状、診断、治療について詳しく解説 🐱
猫の健康を守るためには、緊急時の対応が非常に重要です。その中でも「ショック」は生命に直結する深刻な状態です。今回は、猫のショックについて詳しく解説します。
ショックとは何か?
ショックとは、細胞のエネルギー産生が不十分な状態を指します。具体的には、血液の流れが低下したり、血液分布に異常が生じたりすることで、組織への血流が減少し、酸素消費量が酸素供給量を上回ることで起こります。
ショックの分類
ショックは、その原因や病態生理学的メカニズムに基づいて以下の4つに分類されます。
- 1. 循環血液減少性ショック
- 2. 心原性ショック
- 3. 血液分布異常性ショック
- 4. 閉塞性ショック
1. 循環血液減少性ショック
原因と病態
循環血液減少性ショックは、絶対的または相対的な血管内容量の喪失によって生じます。主な原因は以下の通りです。
- 出血:外傷、凝固異常、消化管内出血など
- 重度の脱水:嘔吐、下痢、多尿など
- 体液の漏出:胸水・腹水への移行
- 第三空間への体液喪失:腸管内への体液移動など
例えば、アナフィラキシーでは急激な血管拡張や血管透過性の亢進により、血液が間質に漏れ出し、循環血液減少性ショックを引き起こします。
2. 心原性ショック
原因と病態
心原性ショックは、心臓のポンプ機能が低下することで生じます。主な原因は以下の通りです。
- 心筋症:肥大型、拡張型、分類不能型など
- 重度の不整脈
- 敗血症による心機能低下
心原性ショックでは、うっ血性心不全を併発していることが多く、心雑音や肺水腫によるラ音、胸水貯留に伴う心音や呼吸音の減弱が認められることがあります。また、静脈系のうっ血徴候(頭静脈の怒張、末梢静脈の怒張、後大静脈の拡張所見など)も見られることがあります。
3. 血液分布異常性ショック
原因と病態
血液分布異常性ショックは、全身的な血管拡張や微小循環の機能不全によって引き起こされます。主な原因は以下の通りです。
- 全身性炎症反応症候群(SIRS)
- 敗血症
- 膵炎
- 重度の臓器損傷
- アナフィラキシー
これらの状態では、炎症性メディエーターや血管拡張物質(一酸化窒素、ヒスタミンなど)の放出により、血管が拡張し血圧が低下します。猫では肺が特に影響を受けやすく、呼吸不全の徴候に注意が必要です。
4. 閉塞性ショック
原因と病態
閉塞性ショックは、心臓への血液流入が物理的に制限されることで生じます。主な原因は以下の通りです。
- 心タンポナーデ:心膜腔への液体貯留
- 縮張性心内膜炎
- 肺血栓塞栓症
- 大動脈血栓塞栓症
ショックの臨床徴候
ショックは進行度に応じて「代償性ショック期」と「非代償性ショック期(早期・後期)」に分けられ、それぞれで症状が異なります。
代償性ショック期
- 特徴:生体が循環不全を補おうとする段階
- 臨床徴候:
- 心拍数や呼吸数の増加(ただし猫では目立たない場合も)
- 粘膜が鮮赤色になる
- 毛細血管再充満時間(CRT)が短縮(1秒未満)
非代償性ショック期(早期)
- 特徴:代償機構が限界を超え、症状が顕在化する段階
- 臨床徴候:
- 低血圧
- 徐脈(心拍数が140回/分以下)
- 粘膜色の淡白化
- CRTの延長(2秒以上)
- 体温の低下
- 意識レベルの低下
非代償性ショック期(後期)
- 特徴:ショックが進行し、生命の危機に瀕する段階
- 臨床徴候:
- 重度の低血圧と徐脈
- 脈拍の消失
- 心音の微弱化
- 深い意識障害(昏睡状態)
- 尿量の減少または無尿
猫のショックの三徴
猫のショックでは「低血圧」、「低体温」、「徐脈」の三徴が特に重要です。これらの症状は互いに悪影響を及ぼし合い、ショック状態をさらに悪化させます。
閉塞性ショックの臨床徴候
心タンポナーデの場合
- 心音の微弱化
- 奇脈(吸気時に脈が弱くなる)
- 呼吸困難
大動脈血栓塞栓症の場合
- 後肢の不全麻痺や冷感
- 強い痛み
- 股動脈の脈拍消失
- 肉球のチアノーゼ(青紫色の変色)
検査と診断
1. 身体検査
- 繰り返し評価:脈拍、CRT、粘膜色、体温などを何度も確認
- 注意点:猫は症状がわかりにくいため、細心の注意が必要
2. 血圧測定
- 非侵襲的な方法:超音波ドプラ法やオシロメトリック法
- 低血圧の基準:収縮期血圧が90mmHg以下、平均血圧が70〜80mmHg以下
3. 乳酸値の測定
- 目的:組織への酸素供給不足を評価
- 高乳酸血症の基準:2mmol/L以上
4. 心電図検査
- 目的:徐脈、頻脈、不整脈の評価
- 高カリウム血症の兆候:P波の消失、T波の増高など
6. 血糖値と電解質の測定
- 低血糖の基準:70mg/dL以下
- 電解質異常:ナトリウムやカリウムの濃度を確認
7. 腹部FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)
- 目的:腹腔内の液体貯留を迅速に評価
- 有用性:腹水の増加や性状の変化を連続的に観察
8. 腹腔穿刺
- 目的:腹水の性状や成分を分析
- 出血の評価:腹水の赤血球容積(PCV)を測定
9. 胸部FAST
- 目的:胸腔内の液体や空気の貯留を評価
- 所見:胸水、気胸の有無を確認
治療
ショック状態の猫に対しては、迅速かつ適切な治療が必要です。
1. 輸液療法
- 静脈確保:橈側皮静脈、伏在静脈、頭静脈など
- 等張晶質液の投与:
- 初期投与量:10〜15mL/kgを15分間で投与
- 投与後の評価:臨床徴候の改善を確認し、追加投与を検討
- 注意点:過剰な輸液は肺水腫などを引き起こす可能性があるため慎重に
2. 酸素投与
- 方法:酸素ケージ、マスク、フローバイなど
- 目的:組織への酸素供給を改善
3. 体温管理
- 保温の重要性:低体温は徐脈と低血圧を悪化させる
- 方法:毛布、保温マット、温めた輸液剤の使用
4. 疼痛管理
- 鎮痛薬の使用:オピオイド系薬剤など
- 注意点:意識レベルの低下に注意しながら投与
5. 低血糖の改善
- ブドウ糖液の投与:
- 投与量:50%ブドウ糖液を0.5〜1mL/kg、2〜4倍に希釈して静脈内投与
- 投与後の評価:血糖値を再測定し、必要なら追加投与
6. 高カリウム血症の治療
- グルコン酸カルシウムの投与:心筋の膜安定化
- インスリンとブドウ糖の併用:カリウムを細胞内に移動させる
7. 輸血
- 適応:出血や貧血、低タンパク血症を伴う場合
- 注意点:必ず血液型検査とクロスマッチ検査を実施
まとめ
猫のショックは、生命を脅かす非常に危険な状態です。早期発見と迅速な対応が求められます。獣医師、飼い主、看護師が連携して適切なケアを行うことで、猫の命を救う可能性が高まります。普段から猫の様子を注意深く観察し、異常を感じたらすぐに専門家に相談することが大切です。
⚠️ 注意事項 ⚠️
- ショック状態は一刻を争います。来院時にはペットの状態を詳しく伝えてください。
- 特に「低体温」、「低血圧」、「徐脈」の三徴候に注意し、早めの対応を心がけましょう。