047-700-5118
logo logo

診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-18:00
手術時間12:00-15:00
水曜・日曜午後休診

banner
NEWS&BLOG
マダニが媒介する人もペットも死ぬ病気SFTS

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)の近年のリスク動向

最近ニュースでも耳にする「SFTS」。マダニが媒介する感染症で、特に春から秋にかけて注意が必要です。この記事では、最新の感染状況や症状、そして大切なペットを守るための予防策まで、詳しく解説します。正しい知識で、ご自身とご家族、ペットの健康を守りましょう。

日本における感染状況の推移

日本ではSFTSが初めて国内で確認された2013年以降、患者数は年々増加傾向にあります。2013年(調査開始年)には報告症例数40件でしたが、その後は毎年数十~百例規模で推移し、2017年以降は年間100例前後(2017年90例、2018年77例、2019年102例、2020年82例)、2021年以降は100例を超える年が続いています。特に2023年には過去最多となる136例が報告されました。2024年も121例と高水準が続き、2025年は上半期(6月末時点)で91例に達し前年同期(82例)を上回るペースで過去最多となっています。累計では2025年4月末までに全国で1,071例(死亡117例)が届け出られており、報告時点での致死率は約10%強となっています(※届出後の死亡例を含めると実際の致死率はこれより高い可能性があります)。

ポイント:流行地域の変化

SFTS患者は当初、西日本(九州・四国・中国地方)を中心に報告されてきましたが、近年その発生地域が拡大しています。2021年には静岡県で初の患者報告があり、2025年4月時点では推定感染地が全国29府県に拡大し、愛知県・三重県・静岡県など西日本以東でも症例が確認されています。地域別の累計報告数を見ると、宮崎県(118例)、鹿児島県(82例)、高知県(82例)、広島県(93例)、山口県(87例)など西日本の各県で多発していますが、関東地方でも東京都(2例)や神奈川県(1例)など散発的ながら報告があり油断できません。専門機関の分析では、野生動物(シカやイノシシ)の生息数増加に伴い吸血源となるマダニが増殖し、感染地域が東日本へ拡大している可能性が指摘されています。以上より、日本におけるSFTS感染リスクは近年高まっており、流行地域も徐々に拡大傾向にあります。

感染者の症状経過・致死率と重症化リスク

症状の経過: SFTSウイルス感染後の潜伏期間は6日~2週間程度です。発症すると高熱や全身倦怠感、消化器症状(食欲低下、嘔気・嘔吐、下痢、腹痛)といった初期症状が現れます。一部の患者では症状が進行し、頭痛、筋肉痛のほか中枢神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)やリンパ節腫脹、呼吸不全、出血症状(歯肉出血、紫斑、下血)がみられることがあります。重症化した場合は多臓官不全や出血傾向をきたし、適切な集中治療を行っても死亡に至るケースがあります。発症から死亡までは数日~数週間程度と急性経過を辿ることが多く、発症後早期の診断と支持療法が重要です。

致死率の最新データ: 日本国内のSFTS患者の致死率は、初期の解析では約27%と報告されていました。一方、中国では約10%との報告もあります。日本では高齢患者が多いため致死率が高めと考えられますが、実際のサーベイランスデータでは報告時点での致死率は約10~15%前後となっています(※厚生労働省QAでは27%と記載)。致死率の経年変化を見ると、2013年~2014年頃は20~30%前後と高かったものの、その後は10%未満~十数%程度で推移しています。これは症例の早期発見や治療体制の整備により重症例の救命率が向上した可能性もあります。ただし50歳以上の患者では重症化しやすく死亡例も多いため依然注意が必要です。実際、日本国内症例の約90%は60歳以上の高齢者が占めており、死亡患者の多くも50歳以上となっています。小児や若年層の発症報告も稀にあります(国内最年少5歳)が、若年者は自然回復する例が多いとされ、高齢者や持病のある患者ほど重篤化リスクが高いと考えられます。

媒介マダニの生息範囲と季節的活動性

媒介マダニの種類と分布: SFTSウイルスは主にフタトゲチマダニなどのマダニによって媒介されます。日本には命名されているだけで47種ものマダニが生息し、そのうちフタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ等からSFTSウイルスが検出されています。日本で人への感染に関与する主な種はフタトゲチマダニとキチマダニとされています。マダニは山野や草むら、農地周辺など屋外の至る所に生息し、野生動物(シカ、イノシシ、野ネコ等)や放牧家畜に寄生し吸血しています。SFTSウイルスを保有するマダニ自体の分布も西日本に限らず全国各地に及ぶ可能性があります。事実、患者発生地域外(東日本など)でも野生動物からSFTSウイルス抗体陽性例が見つかっており、未発生地域にもウイルスを持ったマダニや動物が存在する可能性が示唆されています。現に関東以北でも茨城県のネコからウイルス感染が確認されるなど、媒介マダニやウイルス保有動物の生息域が拡大しつつある状況です。

マダニのウイルス保有率: 幸い全てのマダニがウイルスを持っているわけではなく、ウイルス保有率はごく低率です。中国の調査では、患者発生地域のフタトゲチマダニから数%の個体でSFTSウイルス遺伝子が検出されたと報告されており、日本国内でも地域や季節によりますが0~数%程度のマダニがウイルスを保有していると推定されています。とはいえ、草むら等で多数のマダニに刺されるリスクがあれば複数のマダニ中いずれかがウイルス保有である可能性も否定できず、流行地では「1匹でもマダニに刺されれば感染しうる」という心構えが重要です。

季節的な活動: マダニの活動は春から秋にかけて活発化し、特に気温が上昇する初夏から夏季にピークを迎えます。このためSFTS患者の発生も4~11月に集中し、6~8月に最多となる傾向があります。実際、国内の報告患者の発症月分布では夏季に20~30人台の月間症例数ピークがみられ、冬季(12~2月)はほとんど発生がありません。温暖化の影響でマダニの活動期間が長期化・北上する懸念もあり、従来発生が少なかった地域でも今後注意が必要です。なお屋内に生息する小型のダニ(いわゆるホコリダニやチリダニ類)は本疾患とは無関係であり、あくまで屋外の「マダニ」が媒介者である点に留意してください。

ペット(犬・猫)への感染事例と症状・人への感染リスク

ペットへの感染状況: SFTSウイルスは犬や猫など哺乳類のペットにも感染し得ます。主な感染経路は人と同じくウイルス保有マダニに刺されることです。野外に出る機会のある犬猫はマダニに刺されるリスクがあり、実際に日本でも2017年以降、犬猫のSFTS発症例が年々増加しています。2017年に調査が始まった当初は猫8件、犬は数件の報告でしたが、2022年には猫180件超、犬数十件に増加し、2024年は猫194件(犬も100件近く)と大幅な増加傾向が報告されています。SFTSはもともと野生動物由来のウイルスであり、屋外で生活する動物を介してペットへ持ち込まれるケースが増えていると考えられます。

犬猫の症状と致死率: 犬や猫もSFTSを発症すると人と同様の症状(高熱、食欲不振、嘔吐、下痢、黄疸など)を示すことがあります。ただし多くの動物は感染しても症状を示さない不顕性感染に留まるとされ、特に犬は感染しても発症しない例が多いようです。一方、猫は比較的感受性が高く症状を呈しやすいため注意が必要です。猫が発症した場合、元気消失や高熱(39℃以上)、嘔吐、黄疸といった症状がみられ、重症化すると約6割が死亡すると報告されています。発症後の経過も早く、猫では発症からわずか5日前後で死亡する例が多いことが知られています。犬も発症すれば重篤化することがあり、国内症例では致死率約30~50%とのデータがあります。ただし犬の発症例自体が猫より少なく、症状も猫ほど重くならず軽快する例も多いとされています。総じて猫の方がSFTSに対し重症化しやすく高い致死率を示すため、屋外に出る猫の飼育にはとりわけ注意が必要です。

動物から人への感染事例: SFTSは原則としてマダニ媒介のウイルスですが、ウイルスに感染し発症した動物(特に猫や犬)から人へ感染する事例も報告されています。具体的には、SFTS発症ネコに咬まれた飼い主や獣医師がSFTSウイルスに二次感染した例が複数確認されています。初期の事例として2017年、ウイルスを保有するマダニに刺されていたと推定される野良猫に咬まれた女性がSFTSを発症し死亡したケースが報じられました。さらに近年では2025年5月、三重県でSFTSに感染していた猫を治療していた獣医師がSFTSを発症し死亡する事例が発生し、動物医療関係者に衝撃を与えました。この獣医師はマダニに刺された形跡がなく、猫からの体液曝露による感染と考えられています。健康な犬猫や純粋に室内飼いのペットから人への感染報告はこれまでありませんが、発症動物(特に衰弱した猫)と密接に接触することで咬傷や体液接触を介した感染リスクが生じると考えられます。以上より、ペットのSFTS発症例が増える中で動物から人への二次感染リスクにも注意が必要です。飼い主や獣医療者は、体調不良の動物を扱う際は手袋や防護衣の着用など標準予防策・接触感染予防策を徹底し、万一動物由来で自ら発熱等の症状が出た場合は速やかに受診してその旨を申告することが重要です。

現在の治療法と予防策

🌿 人に対する治療法・予防策

治療法(人間): SFTSに対する特異的な治療薬は長らく存在しませんでしたが、2024年6月に抗ウイルス薬「ファビピラビル」(アビガン®)が世界で初めてSFTS治療薬として承認されました。国内第III相試験の結果を受けてインフルエンザ治療薬アビガンの適応追加が認められたもので、重症熱性血小板減少症候群ウイルス感染症が効能効果に加えられています。ファビピラビルはウイルスの増殖を阻害する経口薬で、症状進行が予期される重症例で使用が検討されます。一部の観察研究ではウイルス血症の陰転化時間短縮や致死率低下の傾向が報告されていますが、有効性・安全性はまだ確立していないのが現状です。したがって治療の基本は現在も対症療法(支持療法)であり、重症例には集中治療に準じた全身管理(補液・輸血、酸素投与、昇圧剤投与、人工呼吸管理等)を行います。現時点では根治療法はなく対症療法が主体である点を踏まえ、早期診断と適切な支持療法による重症化防止が肝要です。

予防策(人間): ワクチンは現在のところ存在しません。従って予防の基本はマダニに刺されないことです。春~秋のマダニ活動期に野山や草むらへ立ち入る際は、以下の対策を徹底してください。

  • 肌の露出を避ける: 長袖・長ズボン、足を覆う靴、手袋や帽子を着用し、できるだけ肌を出さない服装を。服は明るい色にするとマダニが見つけやすいです。
  • 虫よけ剤の使用: ディートやイカリジンを含むマダニ忌避効果のある虫よけスプレーを衣服や露出肌に使用します。
  • 野外活動後の確認: 帰宅後は入浴時等に全身をチェック!特に脇の下や股間、髪の生え際など念入りに。刺し口を見つけたら無理に取らず、速やかに医療機関へ。
  • 動物や患者の体液に注意: 弱っている野生動物や見知らぬ動物は素手で触らないようにしましょう。

これらの対策を講じてもマダニに刺されることはあります。野外活動後2週間以内に発熱や消化器症状が出た場合は、早めに医療機関を受診し、「マダニに刺された可能性」を医師に伝えてください。

🐾 動物(ペット)に対する治療法・予防策

治療法(動物): 残念ながら動物のSFTSに対して有効な確立治療法はありません。抗ウイルス薬も動物用には承認されておらず、重症化した犬猫に対しては入院の上で集中的な対症療法を行うことになります。特に猫は急速に容体が悪化しやすいため、早期の入院治療が望ましいです。動物のSFTSは有効策が乏しい重篤疾患であり、何よりも「かからないようにすること」が重要です。

予防策(動物): 大切なペットをSFTSから守るには、マダニに刺されない環境作りと日常の寄生虫対策が大切です。

  • 屋外での寄生防止: 猫は完全室内飼育が最も確実な予防策です。犬の散歩は雑草の生い茂った場所を避けましょう。
  • 帰宅後のチェック: 散歩後はペットの体を丁寧に調べ、マダニがいないか確認しましょう。特に耳の裏、首周り、足の付け根などをチェック!
  • 定期的な駆虫薬投与: 動物病院で処方されるノミ・マダニ予防薬を定期的に投与することが強く推奨されます。
  • 体調不良時の対応: 様子がおかしいと感じたら、すぐに動物病院へ。「野山へ行った」「マダニがいたかも」という情報は獣医師に必ず伝えてください。

万一ペットがSFTSと診断された場合、看病する飼い主自身もマスク・手袋を着用し、ペットの血液や体液に触れないようにしてください。飼い主側に発熱などの症状が出た場合は人の医療機関を受診し、「飼い猫(犬)がSFTSを発症した」ことを必ず医師に伝えましょう。

以上、人間・動物双方の観点から最新の知見に基づくSFTSのリスク動向を詳述しました。SFTSは致死率が高く治療法も限られた新興感染症ですが、正しい知識と予防策の徹底によりそのリスクを下げることが可能です。行政(厚生労働省・国立感染症研究所)や獣医学専門機関もガイドラインを整備し啓発に努めていますので、最新情報を確認しつつ適切な対策を講じてください。

出典・参考: 厚生労働省・国立感染症研究所公表資料、国立健康危機管理研究機構感染症情報サイト、国立感染症研究所獣医科学部資料、日本獣医学会誌記事、都道府県衛生部局公表資料、報道発表等