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リンパ腫

🐾 犬と猫の造血器系腫瘍: 診断・分類・治療・予後 🐾

1. 診断 (Diagnosis)

病理学的分類(WHO分類、新Kiel分類): 犬猫のリンパ腫には診断時に主に
新キール分類WHO分類の2種類の病理学的分類法が用いられます。
新キール分類では細胞診で得られた腫瘍リンパ球の
形態(大きさ)
免疫表現型に注目し、
大型~中型の細胞→高悪性度(high-grade)
小型主体の細胞→低悪性度(low-grade)
に分類します。さらにB細胞性かT細胞性かを加味して4つのカテゴリーに分けることで、
治療方針や予後予測に役立てます。一方、WHO分類では腫瘍組織の構造や形態、免疫染色による表現型など病理組織学的特徴に基づき、
リンパ腫をより細かなサブタイプに分類します。
確定診断には、外科的または針生検による
十分な組織標本免疫組織化学染色が必要です。
特にLow-gradeと判断されたリンパ腫では、免疫染色やクローン性検査(後述)を組み合わせた
精密検査でWHO分類上のサブタイプを特定し、正確な予後予測につなげます。
こうした病理分類は、腫瘍の性質を正確に把握するために不可欠で、
適切な治療計画にも大きく関わります。


細胞診と組織生検: リンパ節や腫瘍組織の
細胞診(FNA)は、造血器腫瘍が疑われる場合にまず行われる
簡便かつ有用な検査です。細い針を用いてリンパ節や腫瘍から細胞を採取し、顕微鏡下で
異常リンパ球(大型のリンパ芽球など)の形態を観察します。



細胞診で約80~90%の症例で診断可能とされていますが、高分化型リンパ腫や特殊型では
確定が難しい場合もあります。腫瘤性病変がある場合などは
外科的切除で組織生検を行い、リンパ節構造の消失や腫瘍細胞の浸潤パターンなどを評価します。
このように組織生検によってWHO分類に基づく詳細な亜型診断が可能となり、
最適な治療選択
より正確な予後判定に繋がります。


 

免疫表現型の検査 (Immunophenotyping): 採取したリンパ腫細胞が
B細胞性
T細胞性かは
診断と予後予測の両面で非常に重要です。
CD3(T細胞マーカー)
CD20/CD79α(B細胞マーカー)などを調べ、フローサイトメトリーや免疫染色で判定します。
リンパ腫の約60%はB細胞性高悪性度で、T細胞性高悪性度は約20%。
B細胞性の方が化学療法に対する奏効率が高く予後良好とされ、
T細胞性は高カルシウム血症を伴いやすく予後不良といわれています。
例えば犬の高悪性度リンパ腫では、B細胞性に比べT細胞性の方が
有意に生存期間が短いことが報告されています。

画像診断 (Imaging): がんの
病期(staging)把握には、X線・超音波・CT・MRIなどの画像検査も行います。
胸部X線では
縦隔リンパ節の腫大や胸水の有無を確認し、
腹部超音波では
肝臓・脾臓への浸潤
腹腔内リンパ節の腫大、消化管壁肥厚(消化器型リンパ腫を示唆)を評価します。
鼻腔内リンパ腫や脳への浸潤が疑われる場合はCT/MRIが診断に有用で、
骨の溶骨性病変があれば多発性骨髄腫も疑うなど、画像所見は腫瘍の種類判別にも役立ちます。
こうしてリンパ腫の
病期(ステージI~V)を決定し、
治療計画を立案します。病期判定は
予後にも直結する重要な要素です。

PARR検査による確定診断:
PARR(PCR for Antigen Receptor Rearrangement)検査は、
リンパ球の抗原受容体遺伝子の再構成をPCRで解析し、
クローン性(腫瘍性)か多クローン性(反応性)かを判定する方法です。
リンパ球は個々で異なる配列を持ちますが、腫瘍性リンパ球は同一クローン配列となるため、
遺伝子レベルでリンパ腫をサポート診断できます。
とくに低悪性度リンパ腫や炎症との鑑別が難しい場合、
猫のIBDとの比較などでPARRが役立ちます。結果の解釈は
細胞診・組織診と合わせて行います。


2. 腫瘍の分類 (Classification of Tumors)

    • B細胞性リンパ腫 vs T細胞性リンパ腫:
      リンパ腫はB細胞由来かT細胞由来かで性質が大きく異なります。B細胞性リンパ腫は
      多中心型(全身型)リンパ腫の大半を占め、
      化学療法に対する奏効率が高く寛解期間も長めです。
      一方、T細胞性リンパ腫は高カルシウム血症や
      皮膚症状を伴い、化学療法の反応が不良で再発も早い傾向があります。

    • 低悪性度 vs 高悪性度リンパ腫:
      腫瘍細胞の分化度合いによって低悪性度(小細胞性)と高悪性度(大細胞性)に分類されます。
      高悪性度リンパ腫は分裂が活発な分、化学療法に反応しやすく寛解導入がしやすい半面、
      治療を行わないと急速に進行します。
      低悪性度リンパ腫は分裂が少なく一般的な抗がん剤が効きにくい一方、
      緩やかに進行し長期管理可能な場合があります。

    • 特殊なリンパ腫(皮膚型、消化器型、縦隔型など)
      犬では多中心型が最も一般的ですが、リンパ節以外の臓器に原発する節外型リンパ腫もあります。
      皮膚型リンパ腫(エピシスティックリンパ腫)はゆっくり進行するわりに
      治療抵抗性が高く長期寛解は得にくいとされます。
      猫では消化管型リンパ腫が最多です。

  • 骨髄性腫瘍(白血病)・形質細胞腫・多発性骨髄腫
    骨髄由来の白血病は急性/慢性に分類され、急性白血病は進行が速く予後不良、
    慢性白血病は経口療法でコントロール可能なケースもあります。
    形質細胞腫(単発)や多発性骨髄腫(全身型)など、発生部位や臓器への影響で症状が異なります。

3. 治療法 (Treatment Methods)

    • CHOP多剤併用化学療法
      犬の高悪性度リンパ腫で最も標準的な初回治療。
      シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン
      により寛解率80%以上が期待できます。ただし骨髄抑制・消化器症状など副作用管理が必須で、
      途中で簡略化(COP)に切り替える場合もあります。

    • その他の化学療法プロトコール (COP、ロムスチン単剤、DMACなど)
      高齢犬や猫にCOPを使ったり、皮膚型リンパ腫や不応例にロムスチンを使用したり、
      再発例の救援措置としてDMACを組むなど、多様なレジメンが検討されます。

    • 放射線療法
      全身病には不向きですが、局所病変(鼻腔内リンパ腫など)や姑息的(palliative)照射で
      症状緩和・局所制御を図ることもあります。

    • 免疫療法・分子標的薬
      ヒトの抗CD20抗体やCAR-T療法を応用する研究が進行中。犬向けにはトセラニブ(Palladia)など
      チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が限定的に使用されていますが、副作用と効果を見極める必要があります。

  • 緩和ケアとQOL維持
    副作用や痛みのコントロールを中心とした治療で、ペットと飼い主が少しでも
    快適に過ごす時間を重視します。無理のない範囲で治療を継続し、
    生活の質を確保することが大切です。

4. 予後と生存期間 (Prognosis and Survival)

低悪性度 vs 高悪性度での予後:
一般に低悪性度リンパ腫は進行が遅く比較的長い生存が期待できますが、
治癒は困難とされます。
高悪性度リンパ腫は放置すれば数週間~数ヶ月で致死的となりますが、
化学療法で寛解を得れば生存期間を大きく延長できます。
例として犬の
低悪性度T細胞リンパ腫(Tゾーン)
無治療でも平均1.7年の生存報告がありますが、
高悪性度の末梢性T細胞リンパ腫は治療しても
5~6ヶ月に留まるなど、腫瘍の種類で予後は大きく異なります。

WHOステージ分類と予後因子:
犬の多中心型リンパ腫では、
Stage I~Vの病変範囲と
サブステージA/B(症状の有無)を組み合わせた臨床病期が予後を左右。
高カルシウム血症や重度の貧血、治療開始後に寛解(特にCR)を得られるかどうかも
生存期間を大きく左右する因子です。

再発リスクと維持療法 / 最新の研究動向

  • 高悪性度リンパ腫では、初回寛解を得ても再発が多く、
    レスキュープロトコールや維持療法が検討されます。
    犬のCHOP療法完了後にロムスチン+プレドニゾンで寛解を延長させるなどの戦略もありますが、
    一方でプロトコール終了後は休薬して定期検診する方針も一般的です。
    猫の低悪性度消化管リンパ腫では
    クロルブジル+ステロイドを継続するのが標準で、
    途中で中断すると悪化する例も多いため
    生涯治療となる場合があります。
  • Rabacfosadine(タノベア)などの新薬や、犬のB細胞性リンパ腫への
    抗CD20抗体療法、腫瘍ワクチン、CAR-T細胞療法の基礎研究などが進行中です。
    遺伝子発現解析やmiRNA研究による
    サブタイプ分類の精密化も注目されており、
    今後の治療成績向上に期待が持たれます。