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不整脈

 

以下では、犬や猫における代表的な不整脈について、
最新の獣医学的知見を踏まえながら解説します。人間の場合と同様、
不整脈には生理的(病気ではない)なものと、心臓の疾患や電気伝導の異常によって起こる
病的(治療が必要)なものがあります。犬や猫は言葉で症状を訴えることができないため、
日頃の様子(元気や食欲、呼吸の仕方、活動量など)をよく観察し、必要に応じて
獣医師に相談することが大切です。

生理的不整脈:基本的には治療対象にならない

1. 洞頻脈・洞徐脈

洞頻脈

  • 犬の場合:興奮や運動、ストレスなどによって一過性に心拍数が上がることがあり、これは生理的反応です。
  • 猫の場合:捕まえられそうになったり、動物病院で緊張したりする状況などで急上昇することが珍しくありません。

いずれも短時間で心拍数が落ち着くようであれば、治療の必要はありません。


洞徐脈

  • 犬の場合:大型犬や運動習慣のある犬で、心拍数がやや低めになることがあります。
  • 猫の場合:極度のリラックス時にやや脈が遅くなることもあります。

これらは健康な動物であれば生理的範囲内です。ただし、極端な徐脈や元気消失、
呼吸困難などの症状がある場合は、病的な原因の可能性があります。

2. 洞不整脈・呼吸性不整脈

洞不整脈: 洞結節が正常に機能しているにもかかわらず、拍動間隔が微妙に変化し、不規則に見える状態。

呼吸性不整脈: 呼吸のタイミングに合わせて心拍数が上下するもので、犬では特によく見られます(吸気時にやや増加、呼気時に減少)。

  • 猫では呼吸性不整脈がはっきり観察されるケースは少なく、むしろ見られないことも多いとされます。

健康な犬や猫であれば問題にならず、治療は通常不要です。

3. 洞停止・洞房ブロック

洞停止・洞房ブロック: 洞結節からの刺激が一時的に途絶えたり、洞結節から房室結節へ伝わりにくくなる状態。

  • 短い間隔での一過性の停止やブロックで、症状(失神、ふらつきなど)がなければ、
    ほとんどの場合治療対象になりません。
  • しかし、特定の犬種(ミニチュア・シュナウザー、キャバリアなど)や高齢動物で
    頻回に洞停止が起こる場合、「洞不全症候群(Sick Sinus Syndrome, SSS)」が疑われます。
    ペースメーカーの埋め込みなどの治療が必要となるケースも報告されています。

病的不整脈:治療対象になり得る

1. 房室ブロック

房室ブロック: 洞結節からの電気刺激が、房室結節で遅延または完全に途絶する状態。
Ⅰ度、Ⅱ度、Ⅲ度(完全房室ブロック)に分類され、Ⅲ度になると心室の拍動が極端に遅くなり、
失神や虚脱、呼吸困難を引き起こす恐れがあります。

  • 犬:高度房室ブロックでは活動性の低下や失神、ペースメーカーストップなどが起こる可能性があります。
  • 猫:肥大型心筋症(HCM)などの基礎心疾患がある場合、房室ブロックが問題化する可能性があります。

症状がある場合や高度な房室ブロックは、ペースメーカーの植え込みなどが検討されます。

第1度房室ブロック

1. 特徴

  • 心拍数やリズム(脈の乱れ)は正常です。
  • 心電図上、P波(心房の興奮を示す波)やQRS群(心室の興奮を示す波)は外見上は正常に見えます。
  • ただし、PR間隔(P波の始まりからQRS群の始まりまでの時間)が延長しているのがポイントです。

2. 診断の目安

  • 犬ではPR間隔が0.13秒以上
  • 猫ではPR間隔が0.09秒以上

上記の時間を超えると、第1度房室ブロックが疑われます。

3. 臨床的には

  • “電気刺激の伝わりが少し遅れているだけ”なので、多くの場合、症状は目立たず、
    普段の生活に大きな影響が出ないこともあります。
  • ただし、基礎心疾患がある場合や今後の進行が心配される場合は、
    定期的に獣医師の診察を受けましょう。

第2度房室ブロック(モビッツII型)

1. 特徴

  • PR間隔は常に一定(正常 or 延長の場合あり)。
  • 突然QRS群が欠如(抜けてしまう)のが最大の特徴です。
  • P波とQRS群の関係が一定のパターンを示すことがあります。

2. 高度房室ブロック

  • P波が3個以上連続してQRS群に伝わらず(遮断される)状態を、一般に
    高度房室ブロックと呼びます。
  • これはより重症のサインであり、
    第3度房室ブロック(完全房室ブロック)へ進行するリスクが高くなります。
  • 第3度房室ブロック

3. 臨床的には

  • モビッツI型(ウェンケバッハ型)より危険度が高いとされ、
    突然第3度房室ブロックへ移行することがあります。
  • 犬や猫ではめまい、ふらつき、失神などの症状が出ることもあるため、
    早期の対応・治療方針の検討が重要です。

2. 心房細動

心房細動: 心房が不規則かつ非常に速く振動し、正常な収縮が行われない不整脈です。

  • 犬:大型犬の拡張型心筋症(DCM)進行時に心房細動を伴い、脈が乱れたり疲れやすくなったりします。
  • 猫:肥大型心筋症(HCM)で心房が拡大すると心房細動になりやすく、血栓症や呼吸困難のリスクが増加します。

治療は抗不整脈薬の投与や基礎心疾患への対処が中心となり、血栓予防のために抗凝固薬が
使用される場合もあります。

犬や猫の心房細動について

ワンちゃんやネコちゃんの心臓の上の部屋(心房)が、不規則に震えてしまう不整脈です。
動物病院で心電図(ECG)をとると、以下の特徴が見られます。

1. P波の欠如
通常なら規則的に動く心房の波が見えなくなります。
心房が小刻みに震えているためで、II誘導だけでなくすべての誘導で共通して確認できます。

2. f波の出現
心房が細かく震えることで、「f波(細動波)」と呼ばれる波が現れます。
ただし、ワンちゃんやネコちゃんでははっきりと確認できない場合もあります。

3. 心室拍動(脈)の速さが不規則
心房からの刺激が不規則に伝わるため、心室が拍動するタイミングもバラバラになります。
脈の間隔が一定しない「絶対不整脈」と呼ばれる状態です。
また、脈が非常に速くなり、普段より疲れやすくなったり、呼吸が荒くなるケースもあります。

3. 期外収縮

期外収縮(期外拍): 通常のリズムとは別に“余計な拍動”が入る状態で、
心室性期外収縮(VPC)や心房性期外収縮(APC)に分類されます。

  • 健康な犬や猫でも多少の期外収縮は珍しくなく、多くは無症状です。
  • 頻度が高い場合や基礎心疾患がある場合は、動悸やふらつきなどの症状を伴うことがあります。

治療の要否は獣医師が判断し、必要に応じて抗不整脈薬の投与や基礎疾患の治療を行います。

期外収縮(きがいしゅうしゅく)とは?

期外収縮(きがいしゅうしゅく)とは、
本来のタイミングよりも早く心臓が収縮してしまう拍動を指します。
英語では「早期拍動(Premature Beat)」とも呼ばれます。


1. 期外収縮とは?

  • 予想されるよりも早期の収縮
    心臓の基本リズム(洞調律)が刻んでいる拍動タイミングより早く、
    一拍「フライング」したようにドキッと打つことがあります。
    これが期外収縮です。
  • 種類(分類)
    期外収縮は、どこから早期の刺激が発生するかによって大きく分かれます。

    • 上室期外収縮(SVPC)
      – 心房期外収縮(PAC)
      … 心房内で早期の刺激が生じる
      – 房室接合部性期外収縮(PJC)
      … 房室接合部(AV node付近)から早期の刺激が生じる
    • 心室期外収縮(PVC)
      – 心室(ヒス束以下)から早期の刺激が生じる

2. 心房期外収縮(PAC)の特徴

  • 通常と異なる形のP波
    心房のどこか別の部位で早期の刺激が出るため、P波の形が変化します(変形P波)。
  • QRS波は狭い
    心房 → 房室結節 → 心室と、基本的に正常ルートを通るため、
    QRS波は幅広くならず、通常に近い形となります。
  • 早期のP波がQRS波に埋もれて見えにくいことも
    早期P波が前のT波に隠れるなどして、はっきりしない場合があります。

3. 房室接合部性期外収縮(PJC)の特徴

心電図上のポイント

  • P波が陰性または見え方が変わる
    房室接合部(AV node付近)からの刺激は、心房に逆向きに伝わるため、
    P波がふだんと逆の向き(陰性)になったり変形したり、
    QRS波に埋もれて見えにくくなったりします(逆伝導性P波)。
  • QRS波の形は通常と同じ(狭いQRS)
    刺激が心室には正常な伝導路を通って伝わるため、QRS波は幅広くならず、
    ふだんと同じ形を示します。
  • 予想より早く出現
    早期拍動なので、隣り合う拍動(周期)よりも早いタイミングで出現します。

例:左から3拍目が予想よりも早期に発生。他の拍動と異なり、
P波は陰性(逆伝導性P波)。QRS群は他のそれと同じ形状(正常伝導)…
だから「房室接合部性期外収縮」と判断。


4. 心室期外収縮(PVC)の特徴

  • 幅広く変形したQRS波
    心室から直接興奮が起こるので、正常な伝導路を経由しません。そのため
    QRS波が幅広く変形してしまいます。
  • 先行するP波がない
    QRSが早く出現するのに、対応するP波が(通常のリズムよりも)先に存在しません。
  • QRS群と逆向きのT波
    心室の興奮が異常ルートを通ることで、T波がしばしばQRSと逆の向きになります。
  • 連結期が一定(Coupling Interval)
    早期の刺激が出やすい「焦点」が決まっている場合、期外収縮が一定の間隔で
    繰り返されることがあります(カップリングインターバル一定)。
  • 多くの場合、本来のPP間隔は保たれる
    洞結節が刻むリズム自体はそのままなので、元のP波の周期は崩れません。

5. まとめ

  • 期外収縮は「早期に現れるドキッとした拍動」
  • 心電図では、どこから出ている早期刺激かにより、
    P波の形状・タイミング / QRS波の形(狭い/幅広い) / T波の向き
    などの特徴が変わります。
  • 心房期外収縮(PAC)は、

    通常と異なるP波

    狭いQRS
    が特徴。
  • 房室接合部性期外収縮(PJC)は、

    P波が陰性または変形し、QRSが正常形状
    で早期に出現。
  • 心室期外収縮(PVC)は、

    幅広く変形したQRS波

    先行P波なし
    で早期に出現し、T波が逆向きになりやすいです。

以上を踏まえれば、心電図上で期外収縮をどのように分類するかがわかりやすくなります。

4. 心室頻拍

心室頻拍(VT: Ventricular Tachycardia): 心室で異常な電気刺激が頻回に起こり、
非常に速いリズムで連続して拍動する不整脈です。持続すると
心室細動(VF)へ移行し、突然死を引き起こす可能性があります。

  • 犬:拡張型心筋症や先天性心疾患で発生する場合があります。
  • 猫:肥大型心筋症が背景にあると認められるケースが報告されています。

治療として抗不整脈薬の投与やICD(植込み型除細動器)の設置、基礎心疾患の管理が検討されます。
高リスク例の早期診断が重要です。

5. その他

発作性上室性頻拍(PSVT):房室結節や心房を起点とする頻拍で、
突然始まり突然止まる動悸として認識されることがあります。犬や猫が急に呼吸が荒くなる、
落ち着かない様子を示しては自然に治まる、というケースが該当します。
人医療ではカテーテルアブレーションが一般的ですが、獣医療では症例や施設により対応が分かれるのが現状です。

脚ブロック(右脚ブロック・左脚ブロック):心室に繋がる刺激伝導路のどちらか
一方が部分的にブロックされた状態です。単独では大きな症状を示さない場合もありますが、
基礎心疾患と合併している場合は注意深い観察が必要です。

まとめ

  • 生理的不整脈(洞頻脈・洞徐脈・呼吸性不整脈など)は、多くの場合治療の必要はありませんが、
    極端な心拍数変動や他の症状がある場合は病的要因の可能性があるため注意してください。
  • 洞停止・洞房ブロックは回数が多い、または症状を伴う場合「洞不全症候群」を疑い、
    早期診断・治療が必要となることがあります。
  • 病的不整脈(房室ブロック、心房細動、期外収縮、心室頻拍など)は、
    命にかかわる可能性があるため、症状や基礎疾患の有無を踏まえた総合的な評価と治療が重要です。

不整脈は必ずしも緊急を要するものばかりではありませんが、犬や猫は言葉で症状を
訴えられないため、飼い主さんが「いつもと様子が違う」「疲れやすい」「呼吸が荒い」と感じたら、
早めに獣医師の診察を受けましょう。定期的な健康診断や心エコー検査、
ホルター心電図などの実施が、心疾患や不整脈の早期発見に繋がります。愛犬・愛猫の生活の質を守るためにも、
日頃の観察とケアを欠かさず行うよう心がけましょう。