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乳腺腫瘍と炎症性乳がん

乳腺の組織が女性ホルモンの影響を受けて、腫瘍化する病気です。

全身麻酔下で外科切除を行い、
取った腫瘍を病理検査に提出します。

初回の手術でがんを取り切ることが重要です。

悪性を疑う場合は連続している乳腺を大きく取ります。

転移していたとしても、なめこわしてしまう場合や
膿がたくさん出る場合は、症状を緩和するために、
腫瘍だけを切除するような局所切除を
案内することもあります。



炎症性乳がん

悪性の乳腺腫瘍で最も悪いがんです。

急速に広がり、赤く板の様に硬い乳腺になります。手術をしても傷がつかない。逆に腫瘍を増長させるリスクがあるため、手術は適応になりません。痛みを和らげてあげたり、肺転移による息苦しさを和らげる、緩和治療が主軸になります。

悪性腫瘍の手術後に、稀に炎症性乳がんになってしまう事があります。(術後炎症性乳がん)
炎症性乳がんは最も悪性度が高く、激しい炎症を伴います。乳腺下にかまぼこの板が入っている様な感触で、血栓ができ、DICに進行するため、外科手術時に出血が止まらなくなったりします。

すぐに転移を起こし、肺転移による呼吸不全症状を引き起こします。この時点では残念ながら、助からないため、ご自宅での酸素室のご案内や、安楽死を提案しています。

また、後肢のリンパ管に腫瘍細胞が浸潤することで,浮腫みが生じて、後肢にも痛みが生じます。余命は1か月程度と言われ,どんな治療をしても治りません。

卵巣摘出術

避妊手術を実施していない子では
避妊手術を同時に行う事でホルモンの抑制を行い、乳腺腫瘍の摘出手術を行なっています。

6ヶ月齢までが91%、7-21ヶ月齢が86%、13-24ヶ月齢が11%、24ヶ月齢以降は効果がなくなります。



領域乳腺切除

連続する乳腺を摘出することで術後の再発を防ぐ手術方法です。

左右の尾側乳腺を一括で切除した場合には皮膚が引き連れるので、
後ろ足の動きがぎこちないことが数日起こることがあります。
徐々に皮膚が伸び、2週間ほどで落ち着くことが多いです。






 

両側乳腺全摘出

犬で乳腺腫瘍が多発している場合や、
猫の乳腺腫瘍で、全ての乳腺組織を切除する手術方法です。

傷が大きいため、術直後は痛みが出ます。
胸部の皮膚のひきつれにより、圧迫を受けて、
呼吸がしにくくなる事があります。 場合によっては片側の乳腺を切除し、
4週間ほど待ってから、皮膚が伸びてから、反対側の乳腺を切除することもあります。

乳腺癌が3〜5乳腺で発生する場合、腫瘍が浅鼠径リンパ節だけでなく、内腸骨下リンパ節にも転移する可能性があるため、注意が必要です。
尾側乳腺腫瘍の場合は、エコー検査で内腸骨下リンパ節の腫大の有無を確認することが重要です。







猫の乳腺腫瘍

猫の乳腺腫瘍は、85%が悪性で、そのうち80%は腺癌という種類です。
外科手術が必要であり、手術前に組織診断が必要ないことがあります。
肥満細胞腫や節外型リンパ腫を除外するためには、FNA検査が行われます。
乳腺腫瘍は乳腺全体に発生する可能性があり、半数以上は複数の乳腺に存在することがあります。

猫の乳腺腫瘍の手術

一度に両側乳腺切除を行うと、皮膚のひきつれにより、呼吸不全などの、
術後合併症が多くなることがあるため、
片側切除を二度に分けることでリスクを低減できると言われています。
猫の乳腺癌は80%がリンパ節転移を起こすため、
外科手術ではリンパ節郭清が必要となる場合があります。
初期リンパ節転移率は20-42%であり、
転移していてもリンパ節腫脹を伴わないことが多いとされています。
腋窩リンパ節の切除は延命ではなくステージング目的となります。
化学療法による乳腺癌治療の効果は明確ではありませんが、現時点では、ドキソルビシンが術後の補助治療として一般的です。
所属リンパ節転移がなくても、腹腔内や肺のリンパ節へ転移が認められることがあることに注意する必要があります。
遠隔転移は、肺や胸腔内リンパ節、胸膜、肝臓、横隔膜、副腎、腎臓に発生することがあります。
画像検査を組み合わせながら、遠隔転移が起きているかを見ていきます。

犬の乳腺腫瘍

犬の乳腺腫瘍には良性と悪性があります。大型犬には悪性腫瘍が多いと言われています。
悪性腫瘍の半数以上にはCOX2が発現しています。
COX2阻害薬(非ステロイド性消炎鎮痛剤)で乳腺腫瘍の発育速度を遅延させる効果が認められています。

犬の乳腺腫瘍の予後

良性腫瘍は境界が明瞭で小さく硬いですが、
悪性腫瘍は急速に増大し、境界が不明瞭で皮膚や隣接組織に固着し、自壊、出血、炎症を引き起こします。
予後因子には、腫瘍の大きさ、リンパ節浸潤、遠隔転移があります。
組織学的悪性度はグレード0から3までで評価されます。
グレードが高くなるほど、生存率が低下し、遠隔転移率が上がります。
乳腺腫瘍は乳腺上皮細胞や筋上皮細胞の上皮成分と、腫瘍内にある間質成分で構成されます。
乳腺腫瘍の種類には、単純型、複合型、混合型、複合腺腫内癌、混合腫腫内癌があり、複合型乳腺癌や混合癌は、全ての腺上皮成分が悪性です。
単純型の腫瘍は乳腺上皮細胞が単一で増殖を起こす腫瘍で、リンパ節転移しやすく、
生存期間が短い傾向があります。

犬の乳腺腫瘍の手術

乳腺腫瘍はリンパ節にも転移することがあるため、
腋窩リンパ節、副腋窩リンパ節、胸骨リンパ節、鼠径リンパ節、内腸骨リンパ節が関係してきます。
犬の乳腺腫瘍は40〜50%が悪性腫瘍であり、63%にリンパ節転移があることが知られていますが、リンパ節転移があっても必ずしも腫大するとは限りません。

下記の手術方法は単発の場合や、良性の場合を想定した手術です。
・単純腫瘍摘出:良性の乳腺腫瘍で、乳腺組織をあまり傷つけずに手術できます。





・単一乳腺切除:乳癌が単発で、手術後に再発のリスクが低い場合に行われます。浸潤が少ない場合にも適しています。


猫の乳腺腫瘍手術の方法

猫の乳腺腫瘍手術

今回の患者は16歳の高齢猫です。麻酔のリスクや手術の侵襲性を考慮し、乳腺全摘出ではなく、部分的な領域切除を選択しました。腫瘍の下部は筋肉ではなく筋膜を切除することで、筋膜が保護層となり、腫瘍が深部に進行しにくいと考えました。

乳腺の特徴と手術の準備

猫の乳腺は、アルコールをかけると凹凸がはっきりとわかりやすくなります。猫の乳腺は平坦なため、皮膚が寄りやすいので、皮膚を縫う際は水平に広くマージンを取ることができます。
ドレープ(術野の覆い)はひし形に配置し、テンションをかけてしっかりと固定します。タオル鉗子はドレープの内側から留めます。

皮膚切開の方法

皮膚の切開は、メスで一気にラインを描くように行います。人差し指と中指を広げて皮膚にテンションをかけ、その間を切開していきます。人差し指と中指を揃え、ドレープ越しに圧力をかけながら皮膚を引き、切開を行います。切開部位全周を切開したら、メッツェンバウム剪刀を使用して皮下組織を少しだけ開き、全周切開を完了させます。そ径部(鼠径部付近)は浅後腹壁動脈が通っているため、深く切りすぎないよう注意が必要です。

浅後腹壁動脈の結紮

乳腺を剥離する前に、浅後腹壁動脈の結紮(血管を縛る処置)を行います。脂肪層にモスキート鉗子で穴を開け、絹糸を通して血管を二重に結紮します。

乳腺の剥離

乳腺の剥離では、手前側の乳腺を鑷子で持ち上げ、深部の筋膜直上を右手で慎重に剥離します。目で確認できない部分の剥離も避けます。

筋膜切除と縫合

腫瘤があった部位の筋膜はメスで切開します。もし筋肉まで切除した場合は、筋膜だけでなく筋肉も水平マットレス縫合で縫合が必要です。筋膜のみの場合は、単純連続縫合で対応できます。

皮下縫合

皮下と筋膜を含めた縫合には、ウォーキングスーチャー法を使用します。まず、奥の皮下から糸を刺入し、皮下と皮膚の際ギリギリに糸を通していきます。手前の皮下では逆針を使用し、鑷子で皮下を引きながら、皮膚ギリギリに針を刺入し、最終的に腹膜を拾って結紮します。