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会陰ヘルニア🐕

 

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未去勢の雄犬の病気

未去勢の雄犬に多い病気

去勢をしていない雄犬に多い病気です。肛門周りの筋肉が薄くなり、隙間ができることで、直腸や膀胱、前立腺がおしりに飛び出してしまいます。会陰ヘルニアは再発率の高い病気で、筋肉を縫い合わせるなどの手法が取られてきましたが、筋肉を縫合するだけだと、いずれ筋肉が薄くなった時に再発を繰り返す(内閉鎖筋フラップの使用では、25%が1年以内に再発)ため、人用のヘルニアのポリプロピレンメッシュを用いて隙間を埋める手術を選択しています。(再発率5.6%)

手術の詳細

手術の詳細

去勢手術、結着固定(腹腔内に直腸を固定してお尻に飛び出ないように予防する手術)、膀胱や前立腺固定(結腸固定と併用して、腹壁に固定する手術)等を組み合わせて、最後に会陰部の隙間をメッシュで塞いで手術を終了します。会陰部のメッシュの整復は、坐骨の骨膜と、仙結節靭帯と、外肛門括約筋にメッシュを縫い付けていきます。
SURGEON 100より転載

術後の外観

術後の注意事項

1.強い結合組織がないため6時方向の会陰ヘルニアは最初に注意が必要です。
2.坐骨神経:仙結節靭帯の後ろに坐骨神経が走っているため、結合の際に引っ掛けると後肢の麻痺(ナックリング)が見られます。
翌日にナックリングがみられた場合には再手術にて縫合糸を取り除きます。
前立腺肥大があって、お腹の中に戻せない場合には、まず去勢手術を行い、
2週間ほどで前立腺が縮んでから整復し、会陰ヘルニアの整復を行います。

症状とその影響

直腸が飛び出た場合は、便をうまく出せずに、溜まっていく事で直腸の一部がふくらみ、便秘の悪循環になります(直腸憩室)。膀胱や前立腺が出た場合は、尿道の位置が変わる事で、おしっこをうまく出せず、急性腎不全になり命に関わる事があります。

結腸固定手術の画像
結腸固定手術の画像

手術の詳細

去勢手術、結着固定(腹腔内に直腸を固定してお尻に飛び出ないように予防する手術)、膀胱や前立腺固定(結腸固定と併用して、腹壁に固定する手術)等を組み合わせて、最後に会陰部の隙間をメッシュで塞いで手術を終了します。会陰部のメッシュの整復は、坐骨の骨膜と、仙結節靭帯と、外肛門括約筋にメッシュを縫い付けていきます。メッシュを筋肉に縫い付ける方法では、筋肉が萎縮する可能性もあるため、骨膜と靭帯などの硬い組織に固定することで、再発率をできるだけ下げるように工夫しています。

直腸憩室の手術
直腸憩室の手術

直腸憩室が長引き、直腸が伸びきってしまった場合の手術

直腸憩室が長引き、直腸が伸びきってしまった場合には、病的な直腸を一部切除しています(直腸プルスルー)。結腸固定の後に、直腸検査でまっすぐの結腸になっていない場合は追加の直腸プルスルーを検討します。当院では、全ての手術を同日に行い、麻酔回数を減らすように行なっています。

会陰部のメッシュの整復

両側会陰ヘルニアの整復

両側が穴が空いている事が多いので、同時に両方を固定しています。会陰部にコーン状に整形したメッシュを入れているところです。靭帯のすぐ後ろには坐骨神経があるため、糸を引っ掛けないように、靭帯を触診しながら、確実に縫合を行なっています。実績では当該の合併症は引き起こしたことはありませんが、坐骨神経に糸をかけた場合、翌日にメッシュを取り除いたとしても麻痺が残ると言われています。坐骨神経近くを操作する時は痛みが生じて、心拍数が上がったり、自発呼吸が増加するなどの麻酔モニターも変化するので、麻酔中の情報も参考にします。坐骨の骨膜も利用し、メッシュが外れないように縫合しています。


獣医療従事者用ノート

直腸検査と腹腔内の評価

触診で直腸の腫瘍がないことを確認し、腹腔内の腫瘤の有無や膨隆部に何の臓器が出ているのかをエコーで確認します。
特に膀胱や前立腺が逸脱している場合は緊急疾患として対応するため、正常な位置(恥骨前方の腹腔内)に膀胱があるかを必ず確認します。

糸の選択の基準
ヘルニアのメッシュと体内の組織を縫う糸は非吸収性のモノフィラメント(溶けない、感染しにくい単糸)
3kgで3-0、7-10kgで2-0を選択する(プロリンまたはサージプロの強彎針、1症例につき10個)

皮膚や皮下織を縫うのは、バイ菌に強く長期間の経過でやっと溶けるモノフィラメント
PDS
直検

外肛門括約筋が薄くなっているかを、直検にて、確認。薄い場合、術後も便を上手く出せずに、宿便し、6時方向の会陰ヘルニアが再発しやすい。

準備
    • 尿カテの挿入、尿は抜去しておく。5Fr以上雄犬。キャップを外してシーツで包んでおく。
    • 肛門嚢を絞るに針をかけないようにするため、事前に絞る

ヘルニア膨隆部を圧迫して一気に便をだす。

最後に肛門の巾着縫合

下腹部正中切開

この前にcastを終わらせておく。恥骨前縁を触診して、ペニス頭側まで切皮。

結腸固定

①結腸を同定するまでは開創器をかける。助手ありの場合;バブコックを腹壁にかけて反転させる。

バブコックをかけるときは腹腔内の臓器をつかまないように左手中指から小指までで優しく圧迫してよける。
腹壁筋肉には白線に並走した大きな血管がある。バブコックで損傷しないように注意。

ガーゼパッキング

手前の切開部に沿って濡れたガーゼを広くかけて、ガーゼパッキングする。結腸の尾側の脂肪を濡れたガーゼで抑え、膀胱や脂肪を避ける。尾側腹腔内に壊死した脂肪組織がある時は、シーリングを使って切除。

結腸は左側の尾側から優しく牽引して、術者の左側に引き上げる。

腹壁と直腸の漿膜に縫合

腹壁と直腸の漿膜にプロリン4-0で4箇所縫合していく。切開部位に近すぎると腹膜が拾えないので注意。血管が腹壁にあるので、ひっかけないように。

前立腺固定

前立腺は血管のない、白いところを薄く広く拾う。左右それぞれの腹壁に各3糸ずつ。縦方向に糸をかける。尿管に引っ掛けていないかは尿カテが前後に動くかを確認すること。

膀胱固定

膀胱が反転するのを防ぐ。膀胱の腹側正中を2糸腹膜と縫合する。

ジャックナイフ保定

ジャックナイフ型;頭の位置が下がることで、肺が腹腔内臓器から圧迫されて膨らみにくい。麻酔では喚起障害に注意する必要がある。

具体的な麻酔調整

ETCO₂(二酸化炭素)の排出がうまくいかずにたまってしまうことがあります。この場合、気道がまっすぐになるようにジャ管から気管チューブの位置をタオルなどで調整し、ベンチレーターに時々バギングを組み合わせてETCO₂を下げる必要があります。

二酸化炭素の高値が継続すると、血管拡張作用が働き血圧が低下したり、心拍数が上がることがあります。これは、血流を臓器に届けるために心臓が無理をしている状態です。

この時、痛みがあると勘違いしてイソフルレンを上げないように注意してください。血圧の低下、心拍数の増加、ETCO₂の増加、自発呼吸のないETCO₂波形のときは、バギングを行い、ETCO₂を下げて、血圧の回復とともに心拍数が低下するかを待ちます。

体動や自発呼吸の増加時は痛みのサインであるため、イソフルレンを増加することが推奨されます。

3角形にドレーピング

浅結節靭帯と坐骨結節を触知して、3角形にドレーピング。会陰部の切皮。坐骨結節を外側から触知。尾の付け根から肛門と坐骨結節の間で切皮していき、メッツェンで皮下を剥離していき、上の方から出血するので、モスキートで止血。

ヘルニア嚢の取り扱い

ヘルニア嚢を破ったら、漿液が出てくる。見たいものが中央に来るように、テンションのかかるL字のところを探してゲルピーをかける。広い範囲にかけても全くテンションはかからない。坐骨のラインを剥離して露出する。

会陰部の切皮

坐骨結節を外側から触知し、尾の付け根から肛門と坐骨結節の間で切皮していきます。

メッツェンで皮下を剥離していき、上の方から出血するので、モスキートで止血します。肛門の横にも血管があるので注意が必要です。

出血部位は分かりにくいので、圧迫止血(ガーゼ)、モスキート、電気止血デバイスを準備してください。

坐骨結節と浅結節靭帯が露出されるように少しずつ剥離を進め、浅結節靭帯の上の脂肪をしっかり剥離します。押し出す脂肪をガーゼを入れて抑えることが重要です。

肛門側も筋組織が見えるまで剥離することが重要です。メッツェンで、剥離、切開を少しずつ繰り返します。

メッシュの整形と縫合

メッシュを2つに折り、円錐に整形して、上下でモスキで角を2箇所止め、3箇所プロリン4-0で縫合する。

メッシュの配置と仮固定
  • 直ペアンや直モスキーなどの器具を使用してメッシュを正確にヘルニアリングの位置に配置します。
  • 坐骨と浅結節靭帯にそれぞれ一つの糸をかけてメッシュを仮に固定します。
  • 特に深部での縫合時に針を失わないよう、針を取り除く前に左手でしっかりと保持します。
縫合技術と安全措置
    • メッシュを縫合する際は、重要な血管に近い深い筋肉を避けるように正しい位置に糸を置くことが重要です。

特に坐骨骨膜より近位、仙結節靭帯の裏には重要な血管や神経があるので、奥に糸をかけすぎないように視野を展開します。

  • 深部の糸を扱う際は、針が紛失しないように助手の支援を利用し、2つ目の持針器で針先を保持して、安全に結び目を作ります。
出血時の対処と最終確認

出血が発生した場合は、直ちに結び目を作るのではなく、ガーゼで圧迫したり、あえて結紮で、出血を制御します。

術後の注意

麻酔明けの動物の立ち姿勢を見て、後肢のナックリング(パットを裏返して立つ姿勢)がないことを確認し、飼い主宛に合併症がないことを連絡する。膀胱の後屈と陰部神経の圧迫により、術後排尿しづらい事がある。術直後はカテーテルの導尿処置を必要に応じて行う。
傷が落ち着くまでは力むきっかけをなるべく作らないようにする。ラクツロースの投薬を行ったり、高繊維食を避けるようにアドバイスする。

がんの基礎疾患を見逃さない

生殖器の腫瘍は原発病変が小さくても、腹腔内の大網や、腹膜に転移することがあります。がん性腹水の影響で2次的に会陰部でヘルニアを起こすことがあります。

ヘルニア部ではなく、腹腔内に腹水が溜まっている症例や、組織の触感がなめらかではなくぶつぶつしていたり、黄土色に変色している場合は、適宜、パンチバイオプシーを併用し、基礎疾患の探索を行います。

呼吸器疾患との併発の場合

興奮しやすい症例や、怒責を繰り返す症例は、術後も腹部の圧力が高まって再発してしまうので、気管虚脱を併発する症例は、合併する病気に対する治療も必須です。