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陰睾丸、停留精巣(潜在精巣)、精巣腫瘍🐕🐈🌟

潜在精巣とは

通常、6か月頃までに腹腔内にある精巣が、鼠径から股下に降りてきます。この過程が上手くいかないと、お腹の中に精巣が残ってしまいます。犬では片側性、特に右側の精巣の発生が多いです。

リスクと注意点

精巣は体外に存在するため、外気温の24℃の環境下に置かれていますが、腹腔内にあると、体温の38〜9℃なので、通常から10℃以上高い環境にあることでDNAにダメージを受けます。

・腫瘍化のリスク: 長期間高温の環境下に置かれることで、癌化します。潜在精巣は正常な精巣に比べて約10倍腫瘍化するリスクが高いです。具体的には、セルトリ細胞腫が70%、精細胞腫が30%の割合で発生します。

・転移のリスク: 悪性腫瘍の中には、早期に転移を起こしたり、二次的に貧血などの骨髄抑制を起こす事があります。セルトリ細胞腫やセミノーマの約15%が腹腔内リンパ節に転移することがあります。

・エストロゲン過剰分泌: セルトリ細胞腫のうち20%が悪性で、25~50%がエストロゲンを過剰に分泌します。これにより、脱毛、皮膚状態の悪化、乳頭の腫大、皮膚への色素沈着、包皮の下垂、萎縮、反対側の精巣の顕著な萎縮などの症状が現れます。

進行した場合には、摘出だけでは状態改善が見込めないこともあるため、6か月を過ぎても精巣の下降が見られない場合には早期に摘出をおこない、腫瘍化の発生リスクを下げる必要があります。

外科手術

傷を小さく開けて、精巣を探索する方法もありますが、骨盤腔の下などに精巣が潜り込んでいる場合には、精巣を見つけるのが難しい手術になります。「開腹したが精巣がみつからなかった」という結果を避けるために、少し大きく切開を行い、精管から精巣をたどって摘出しています。

潜在精巣は骨盤に引っかかっていることが多く、骨盤の近くには、大腿に行く血管や、神経などもあるため、それらを傷つけないように、精巣だけを丁寧に剥がして摘出します。

〈基本的な手順〉

①膀胱の尿を抜く: 手術前に膀胱の尿を抜いておくことで、手術中の視野を確保しやすくします。

②下腹部正中切開: 下腹部を正中線に沿って切開します。この際、浅後腹壁動静脈を損傷しないように注意します。損傷すると術後に腫れが生じることがあります。

③膀胱の反転: 膀胱を反転させることで精管を確認しやすくなります。

④精管をたどる: 膀胱と前立腺の間から精管が出ており、精巣につながっています。精管をたどることで、潜在精巣を見つけます。

⑤鼠径部分の精巣の処理: 鼠径部分に引っかかっている場合は、体表から押して腹腔内に押し出し、精巣をたどりやすくします。

〈具体的な手順の説明〉

①包皮の脇を切開: 包皮の脇を切開し、その後後腹部正中切開を行います。

②前立腺の背側から精管を確認: 前立腺の背側から走行する精管をたどり、精巣を発見します。

③精巣の摘出: 精巣、精巣上体が露出している場合、慎重に摘出します。


治療のアプローチ

・骨髄抑制: 非再生性貧血や白血球減少、血小板減少が見られる場合、輸血や抗菌薬の長期投与が必要です。G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の効果は不明な場合がありますが、TPOトロンボポエチン(ロミプロスチム)が有効な場合があります。

(G-CSFの説明: G-CSFは骨髄での白血球(特に好中球)の生成を促進する薬剤です。通常、感染症や化学療法による白血球減少の治療に使用されます。しかし、犬での有効性は不明で、中和抗体の生成に注意が必要です。)

・精上皮腫(セミノーマ): ほとんどのセミノーマは良性ですが、10%未満が悪性です。リンパ節への転移病変には放射線治療が有効で、高い感受性があります。

・セルトリ細胞腫: セルトリ細胞腫という種類の腫瘍になると、貧血が起き、腫瘍を切除しても改善されなくなります。転移にも注意が必要です。