炎症性乳癌(Inflammatory Mammary Carcinoma)は、乳腺が赤く腫れあがり炎症を起こしているかのように見える悪性腫瘍です。進行が非常に早く、短期間で全身に転移するケースもあります。
🐾 特徴・経過
- 非常に進行が早く、手術適応外になることが多い。
- 泌尿器や生殖器など遠隔臓器への転移が見られる場合もある。
- 発症から1ヶ月ほどで亡くなるケースがあるほど、悪性度が高い。
- 「炎症」があるかのように赤く腫れるが、実際に炎症細胞があるかは診断と関係ない。
- 病理検査は必須ではなく、あくまで臨床診断名として扱われる。
- 日本では良性腫瘍が2に対し、悪性腫瘍が1という比率が報告されている。
原発性炎症性乳癌と二次性炎症性乳癌
◆ 原発性炎症性乳癌
- 何もないところに突然発生するタイプ。
- 炎症性乳癌全体の42~60%を占める。
- 最も侵襲性(悪性度)が高く、急速に進行する。
◆ 二次性炎症性乳癌
- すでに存在している乳腺腫瘍が炎症性に発展。
- 傷が癒えず、スキップ転移(離れた場所に点在する転移)がみられることも。
二次性の中でも「術後性」と「非術後性」に分かれる
1. 術後性
- 悪性腫瘍の手術後に、赤い病変が乳腺部位から広がる。
- 潰瘍化・板状化しやすく、高悪性度乳癌のFNAなどで炎症性に進展する場合も。
- 術後1週間ほどで再発し、鼠径リンパ節や肺転移が急速に進むケースも報告。
- 発生率は33~35%。術後約48日で発生し、抜糸後に一気に広がることがある。
2. 非術後性
- 5~24%の頻度。
- 手術歴がなくても、既存の乳腺腫瘍から炎症性乳癌に進行する。
診断のキーポイント
- 病変部の急速な腫大:短期間で腫瘍が大きくなる。
- 乳腺以外への浸潤:複数の乳腺が硬くなり、乳腺がない部分まで広がる。
- 局所の症状:疼痛・発赤・熱感など炎症のよう。腋窩付近まで及ぶと触るだけで痛む。
- 広範囲への急速な転移:四肢や背面へ拡大し、反対側にも広がることがある。
- 乳腺炎や重度皮膚炎との鑑別が難しい:急速に悪化する点が特徴。
- 皮下への板状浸潤:かまぼこ状に固着し、リンパ管を塞いで横に広がる。
- 血液凝固異常:高頻度で認められ、生存期間をさらに短くする。
細胞学的特徴
- 体表近くを穿刺し、腺細胞が出れば炎症性乳癌を疑う。
- 悪性上皮性腫瘍がバラバラに存在(好中球を伴うことも)。
- 未分化になるほど円形細胞状になり、他の未分化腫瘍との鑑別が難しい。
- 免疫染色でもはっきりしないケースがある。
- 多形成に富む悪性乳腺上皮細胞が特徴。
病理所見
- 皮膚のリンパ管内に腫瘍細胞が浸潤。
- 腫瘍周囲のリンパ管にも多数の腫瘍細胞が確認される。
まとめ
炎症性乳癌は、見た目が炎症のようでも、短期間で全身に広がる非常に危険な乳腺腫瘍です。既存の乳腺腫瘍から進行する「二次性」や術後性など、いくつかのパターンがあり、いずれも早期発見・迅速な治療が重要になります。
急激な腫瘍の拡大や、触るだけで痛がる・赤く熱感がある場合などは、すぐに獣医師に相談し、精密検査を受けてください。