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犬猫のショック ③血液量減少性ショック






【獣医師監修】犬と猫の「血液量減少性ショック」について|飼い主様向け解説

この記事では、動物の命に深く関わる、非常に深刻な状態である「血液量減少性ショック」について、専門的な治療ガイドを基に詳しく解説します。万が一、獣医師から同様の説明を受ける際に、この内容が理解の一助となれば幸いです。

ご要望に基づき、専門的なお薬の名前や投与量も省略せずに記載し、その意味を一つひとつ丁寧に解説していきます。

血液量減少性ショックとは?~わが子の体の中で何が起きているのか~

まず、「血液量減少性ショック」がどのような状態かを説明します。

体を一つの大きな家に例えてみましょう。家の中には水道管が張り巡らされていて、その中を常に水(血液)が流れることで、キッチン(脳)、お風呂(腎臓)、暖房(筋肉)など、家中の機能が正常に保たれています。

「血液量減少性ショック」とは、この水道管を流れる水(血液)の量が、何らかの原因で急激に減ってしまう状態です。

主な原因の例


  • 交通事故や、お腹の中の腫瘍が破裂することによる大出血
  • 止まらない激しい嘔吐や下痢による、極度の脱水

体の中の水分(血液)が急に減ると、水道管の水圧(血圧)が急激に低下します。 すると、脳や心臓、腎臓といった、生命維持に不可欠な臓器に十分な血液が行き渡らなくなってしまいます。

体はなんとかこの危機を乗り越えようと、心臓を必死に速く動かし(頻脈)、重要でない部分(手足など)への血管をキュッと締めて、中心部の重要な臓器へ血液を集中させようとします。

その結果、飼い主様が目にすることになるサインとして、以下のようなものがあります。

  • ぐったりして意識がもうろうとする
  • 歯ぐきが真っ白になる
  • 手足の先が氷のように冷たくなる
  • 脈がとても速くて弱い
  • 【猫の場合】 犬とは逆に、脈が遅くなる(徐脈)こともあります。

この状態は、家全体の機能が停止する寸前の、一刻を争う緊急事態なのです。

病院での緊急治療の流れ

ショック状態の動物が病院に到着すると、診断と治療は同時に、超高速で進められます。

1. 最優先される処置:酸素と点滴路の確保

まず、機能が低下している全身の細胞に少しでも酸素を届けるため、酸素吸入を開始します。 同時に、水分や薬を直接血管に入れるための通り道(静脈カテーテル)を確保します。 これは「点滴」のことです。手足の血管が虚脱して確保が難しい場合は、首の太い血管や、骨の中に針を入れる「骨髄路」という方法が取られることもあります。

2. ショックの原因の特定

これらの処置と並行して、獣医師は聴診、触診、そして超音波(エコー)検査などを行い、出血や体液喪失の原因がどこにあるのかを探ります。 ここで極めて重要なのが、「心臓が原因のショックではない」ことを確かめることです。 もし心臓の機能不全が原因の場合、点滴をたくさん行うと逆に心臓に負担をかけて状態を悪化させてしまうため、治療方針が全く逆になります。

点滴治療(輸液療法)の詳しい内容

ショック治療の柱となるのが、失われた水分を補うための点滴です。ここでは、使われる液体の種類と、その専門的な投与量を解説します。犬と猫では体の大きさが違うだけでなく、薬への反応も異なるため、投与量が厳密に区別されています。

① 基本の点滴:体液に近い水分(等張晶質液)


まず最初に行われる、体液の補充を目的とした基本的な点滴です。

  • 種類: 酢酸リンゲル液、乳酸リンゲル液、生理食塩液など
  • 犬の投与量: 体重1kgあたり 20~30 mL を10~15分という速さで投与します。 最大で体重1kgあたり 90 mL まで投与されることがあります。
  • 猫の投与量: 猫は犬よりも慎重な投与が必要です。体重1kgあたり 10~20 mL を10~15分で投与します。 最大でも体重1kgあたり 60 mL とされています。

② より強力な点滴:血管内に水分を引き留める液体


基本の点滴で改善が乏しい場合、より強力な種類の液体が使われます。

合成膠質液(ボルベン®など)

  • 役割: 血管の中に水分を長く留めておく効果が高い液体です。
  • 注意点: 血が固まりにくくなったり、腎臓に負担をかけたりする可能性があるため、使用は慎重に判断されます。
  • 犬の投与量: 体重1kgあたり 10~20 mL をボーラス投与(短時間で一気に入れること)。1日の上限は 50 mL/kg です。
  • 猫の投与量: 体重1kgあたり 5~10 mL をボーラス投与。1日の上限は 30 mL/kg です。

高張食塩液

  • 役割: 血管の外にある水分を、浸透圧の力で血管の中に強力に引き込む、濃度の高い食塩水です。
  • 犬の投与量: 体重1kgあたり 3~5 mL を5~10分で投与します。
  • 猫の投与量: 体重1kgあたり 1~3 mL を5~10分で投与します。

③ 血液そのものを補う治療(血液製剤・輸血)


出血が原因の場合、失われた血液成分を直接補充します。

新鮮凍結血漿(FFP)

  • 役割: 血液の液体成分で、血を固める働きを持つ「凝固因子」を豊富に含みます。出血が止まらない場合に有効です。
  • 投与量(犬・猫共通): 体重1kgあたり 10~20 mL を20分~4時間かけて投与します。

濃厚赤血球(PRC)・全血

  • 役割: 酸素を運ぶ役割を持つ「赤血球」そのものを補充し、貧血を改善します。
  • 犬の投与量: 体重1kgあたり 10~20 mL を4時間以内で投与(緊急時はボーラス投与)。
  • 猫の投与量: 濃厚赤血球は体重1kgあたり 5~10 mL、全血は体重1kgあたり 10~15 mL

血圧を支えるお薬(循環作動薬)

大量の点滴を行っても血圧が上がらない最重症の場合、血圧を維持するためのお薬(昇圧薬)が使われます。 これらは、心臓の働きを強めたり、血管を収縮させたりする強力な薬で、専門家が厳密な管理のもとで微量ずつ調整しながら持続的に点滴します。

第1選択薬

  • ノルアドレナリン: 0.1~1 µg/kg/分
  • ドパミン塩酸塩: 5~15 µg/kg/分

第2選択薬

  • アドレナリン: 0.05~1 µg/kg/分
  • バソプレシン: 0.5~3 mU/kg/分

根本原因を取り除く治療

ショックの治療は、穴の開いたバケツに必死に水を注ぎ続けるようなものです。同時に、穴を塞ぐ作業(原因の治療)を行わなければ、決して状態は安定しません。

出血している場合:

体の表面なら圧迫止血。 体の中での出血が疑われる場合、トラネキサム酸というお薬を使います。 これは、できかけた「かさぶた(血栓)」が溶けてしまうのを防ぎ、止血を助ける薬です。

トラネキサム酸の投与量


  • 犬の投与量: 体重1kgあたり 10 mg を静脈注射し、その後、止血するまで 10 mg/kg/時 のペースで持続点滴します(最大3時間)。
  • 猫の投与量: 体重1kgあたり 10~15 mg を静脈注射します。

薬で血が止まらなければ、救命のための緊急手術(ダメージコントロール手術)に踏み切ります。

予後(これからどうなるか)

予後、つまり今後の見通しは、いかに早く治療を開始できたか、そしてショックの根本的な原因は何かによって大きく左右されます。

血液検査の「乳酸値」という項目が、回復具合を判断する重要な指標となります。 この数値が順調に下がれば、全身の循環が改善している良いサインです。

しかし、一度ショック状態から持ち直したとしても、原因となった病気が重い場合や、臓器に深刻なダメージが残ってしまった場合は、残念ながら予断を許さない状況が続くこともあります。


この説明は非常に専門的で、不安にさせてしまったかもしれません。しかし、これほど多くの専門的な判断と処置が、動物病院の救急現場では瞬時に行われています。

飼い主様にできる最も重要なことは、「いつもと違う」というサインにいち早く気づき、すぐに動物病院に連絡・受診することです。それが、愛するご家族の命を救うための、最大かつ最善の行動となります。