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縫合糸反応性肉芽腫【糸に反応するしこり】

縫合糸反応性肉芽腫についてわかりやすく説明します


病気の概要

縫合糸反応性肉芽腫は、手術時に使用した縫合糸(手術で使う糸)に対して犬の体が異物反応を起こし、皮下組織に炎症やしこり(肉芽腫)ができる病気です。特にミニチュア・ダックスフンドで多く見られますが、どの犬種でも発症する可能性があります。遺伝的な要因免疫の過剰反応が関与していると考えられています。


症状

  • 皮下のしこり:初期には小さな結節(しこり)が触れることがありますが、初期段階では見つけにくいこともあります。
  • しこりの増大と多発:しこりは次第に大きくなり、数も増えることがあります。
  • 皮膚の変化:しこりが皮膚表面に達すると、穴(瘻管)ができて粘り気のある膿が出てくることがあります。

皮下のしこり


原因

  • 縫合糸への反応:特に絹糸吸収性のマルチフィラメント糸に対する反応が多いとされています。
  • 手術部位:去勢手術の場合は鼠径部、避妊手術の場合は腹腔内に症状が出ることが多いですが、全く別の部位に発症することもあります。

診断

  1. 細胞診検査:
    • 細い針を使ってしこりから細胞を採取し、炎症細胞の有無を調べます。
    • 検出される細胞:変性していない好中球や、脂肪を蓄えたマクロファージが検出されます。(紫色の細胞が炎症細胞)

細胞診検査

  1. 細菌培養検査:感染症の有無を確認するため、膿や組織を培養します。

細菌の有無と量(最大4+)と適合する抗生剤を選択(R耐性、Sが効果のある抗生剤です。)

細菌培養検査

  1. 血液検査・画像診断:他の疾患(例:膵炎)の有無を確認します。

治療

1. 外科的切除

  • 単発のしこりの場合:外科的にしこりを取り除くことで完治することがあります。
  • 手術と診断を兼ねる:切除した組織を病理検査に回すことで、診断と治療を同時に行います。
  • 病原体がないのに炎症を起こしているという評価が決め手となります。中心部に異物(縫合糸) が検出される場合があります。

血液検査・画像診断

2. 内科的治療(免疫抑制療法)

  • 多発性や再発する場合:免疫の過剰反応を抑えるため、薬物療法を行います。
治療の流れ:
  • ①プレドニゾロンから開始
    • プレドニゾロン(ステロイド剤)を用います。
    • 投与量:2〜4mg/kg、経口、1日1回。
    • 治療への反応:
      • 用量が少ないと改善に乏しいため、副作用を十分説明した上で、免疫抑制量で開始します。
      • 多飲多尿、肝臓、腎臓、胃潰瘍、膵炎の副作用があるため、ウルソ(肝臓薬)、ガスター(胃潰瘍防止)を併用して行きます。2週間程度で量を減らして行きます。
      • 膵炎のリスクを避けるために、低脂質のごはんを心がけてください。
      • 即効性があります。
  • 減量と併用療法:
    • ①を減量するため、副作用の少ない他の免疫抑制薬である②シクロスポリンを併用します。
    • ②シクロスポリン(シクラバンス製剤):
      • 投与量:5mg/kg、経口、1日1回。
      • 安全性が高い薬ですが、十分な効果が得られるまで2週間から1ヶ月程度かかります。
  • 休薬と経過観察:
    • ①を休薬後、漸減し、臨床症状が落ち着いたらいったん休薬し、②のみで様子を見ます。

当院での取り組み

避妊手術において、当院ではシーリングデバイスという器具を使用しています。これにより、体内に縫合糸を残さずに手術を行うことができ、体内での縫合糸反応性肉芽腫の発生を防いでいます

シーリングデバイス

しかし、腹壁を閉じる際には吸収糸を使用します。このため、ごく稀に縫合糸に反応する犬がいます。腹壁を閉じるためには縫合が必要であり、糸を使わずに閉鎖することはできません。

縫合糸の使用

縫合糸に反応した場合、全身性の炎症が起こることがあります。その際、当院では以下の対応を行います:

  • デブリードメント(壊死組織の除去)を行います。
  • 通常は筋肉の縫合糸は抜糸しませんが、反応が起きた場合は特殊な縫合法を用います。
    • 8の字縫合(眼瞼縫合)ギャンビー縫合(消化管の縫合方式)を使用し、結び目を皮膚の外に出します。
  • 皮膚や筋肉が約2週間で癒合したら、結紮部位を切断して糸を取り除きます。

特殊な縫合法

飼い主様へのお願い:

  • 糸が皮膚の外に出ているため、クロルヘキシジンを使用してブドウ球菌のコントロールを行い、傷の感染を防ぐよう管理をお願いします。

糸の選択について:

  • 既にPDSで反応を起こした場合、どの糸が安全かという明確なエビデンスはありません
  • 当院では、以下の糸から選択していただきます:
    • PDS
    • ナイロン
    • バイクリル
    • プロリン

縫合糸の種類

各種縫合糸のメリット・デメリット

1. PDS(ポリジオキサノン)

メリット:

  • 吸収性モノフィラメント糸で、長期間の強度保持が必要な縫合に適しています。
  • 組織反応が比較的少ないとされています。

デメリット:

  • 吸収に時間がかかるため、長期間体内に残ります。
  • 縫合糸反応性肉芽腫を起こす可能性があります。

2. ナイロン

メリット:

  • 非吸収性モノフィラメント糸で、強度が高く、結び目の安定性が良い。
  • 組織反応が少ない

デメリット:

  • 体内に残るため、抜糸が必要です。
  • 長期間体内に残ると、異物反応を起こす可能性があります。

3. バイクリル(ポリグラクトン910)

当院ではバイクリルの使用はおすすめしていません。

メリット:

  • 吸収性マルチフィラメント糸で、柔軟性が高く、扱いやすい。
  • 吸収が比較的早い(約60〜90日で吸収)。

デメリット:

  • マルチフィラメント構造のため、細菌が糸に付着しやすい
  • 組織反応が起きやすい

4. プロリン(ポリプロピレン)

メリット:

  • 非吸収性モノフィラメント糸で、組織反応が非常に少ない
  • 長期的な強度が必要な縫合に適しています。

デメリット:

  • 扱いが難しい(滑りやすく、結び目が緩みやすい)。
  • 抜糸が必要で、体内に残ると異物反応を起こす可能性があります。

まとめ

縫合糸反応性肉芽腫は、縫合糸に対する体の異物反応によって起こる炎症性の疾患です。手術後に皮膚の異常が見られた場合は、早めに獣医師に相談しましょう。

当院では、手術方法や縫合糸の選択を工夫し、縫合糸反応性肉芽腫の発生を最小限に抑える努力をしています。特に縫合糸に反応しやすい犬の場合は、飼い主様と相談の上、適切な縫合糸を選択し、術後の管理も徹底しています。