診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-18:00
手術時間12:00-15:00
水曜・日曜午後休診
肝臓・胆管の腫瘍は肝臓・胆管由来の原発性腫瘍と、他臓器からの転移性腫瘍に分類されます。原発性肝臓・胆管腫瘍は良性・悪性にわかれ、一方、転移性肝臓腫瘍は全て悪性であり(特に脾臓、膵臓、消化管からの転移が多い)
、予後は不良です。原発性の腫瘍は稀で、転移性の方が多く、発生率に2.5倍の差があります。
発生率 | 犬の肝臓腫瘍 | 猫の肝臓腫瘍 |
---|---|---|
1 | 肝細胞癌(肝細胞腺腫) | リンパ腫 |
2 | 結節性過形成 | 胆管癌、胆管腺腫 |
3 | 転移性腫瘍 | 結節性過形成 |
4 | リンパ腫 | |
5 | 原発性血管肉腫 | |
6 | 胆管癌 |
組織学的には、肝細胞か、胆管、神経内分泌、間葉由来のいずれかに分類されます。形態学的には大きな塊を作る塊状のタイプ、結節タイプ、浸潤するタイプの3つに分類されます。
肝臓細胞由来の腫瘍の一つで、犬では最も発生率が高い(約50%)が悪性腫瘍に分類されます。転移率にはばらつき(4%)があります。肝細胞癌の症状に特異的なものはなく、食欲がなくなったり、体重が減ってきたり、腹水がたまる事が多いです。重度の場合には黄疸や、意識がなく、発作を起こすような、肝性脳症などもありますが、無症状でも、偶然発見されることがあります。
診断には超音波検査、CT検査、生検、病理組織学的診断などが使用されます。塊まりを作るタイプの肝細胞癌の患者さんは、外科切除を行うことで、2年以上の生存期間の延長ができると報告されています。一方で、手術を受けなかった患者の余命は1年未満になることが示されています。塊状型の肝細胞癌は多くの場合、手術により予後が改善されます。しかし、結節型または浸潤型の肝細胞癌は、多発性に存在するため、外科手術が困難で、予後は不良です。
胆管癌は外科切除自体が困難な事が多く、予後は不良です。また、カルチノイドは激しい腫瘍であり、外科切除は適応されません。犬においては、リンパ節、腹膜、肺に転移する可能性が高いため、予後は不良です。
早期発見のために、高齢のわんちゃんでは、健康診断の際に、血液検査に、腹部のエコー検査を加えることで早期診断の助けになります。
オピオイドが有効であり、抗菌薬の投与が必要です。肝臓には嫌気性菌が常在する可能性があるため、術後もしっかり輸液を行い、乳酸リンゲル液+ビタミンB製剤+肝庇護薬の積極的な栄養支持を行います。術後2〜3日は血液検査でモニターします。
出血、貧血、膵炎→DIC、感染、肝不全(70%までの肝切除であれば通常は発生しない)などがあります。
犬の肝臓における門脈(紫)および肝静脈(青)の主な分岐と各肝葉の位置関係を示す模式図。中央が後大静脈(CVC)、各肝葉(左外側葉=LLL、左内側葉=LML、方形葉=QL、右内側葉=RML、右外側葉=RLL、尾状葉=CL)への血流(門脈)と肝静脈流出路を示す。
犬の肝臓は典型的に6つの肝葉(左外側葉、左内側葉、方形葉、右内側葉、右外側葉、尾状葉)に分かれ、それぞれに対応する門脈枝と肝静脈枝があります。門脈本幹は肝門部で左右に分岐し、
左門脈は左葉系
門脈は肝門部から入ったら、
外側左葉;LLLへ流れていく【流れ方は地面と平行の動き☞横隔膜側へ】(左外側・左内側・方形葉、および尾状葉乳頭突起)へ、
すぐ上に立ち上がるのが,内側左葉(LML)
上に張り出す血管;RML,QL,LML
方形葉(QL)への門脈は内側左葉(LML)のすぐ近くから出ている
右門脈は右葉系
RML(内側右葉)はカーブしているところから出ている。
RLL;外側右葉へでたすぐ直後から、尾状葉(CL)へ行く
変形;QLとLMLの葉間裂が不明瞭☞LMLの門脈からQLへ血管が出ることがある
CL【尾状葉】;頭側から尾側へ門脈が走る
(右内側・右外側葉、および尾状葉尾状突起)へ血液を送ります。
一方、肝静脈系は後大静脈へ集まり、犬では概ね「4幹型」(左+中肝静脈幹、右内側肝静脈幹、右肝静脈幹、尾状突起肝静脈)とされ、
複数の肝葉の肝静脈が合流して共通幹を形成する場合があります。
右葉系;CL,RLL,RMLはそのままCVC(後大静脈)に入って行く
CVC;肝門部からストレートに行く
胆嚢の背側で方形葉と内側右葉の肝静脈がY字に合流☞さらに左の肝静脈のところに上から降りてくる
LML;内側左葉の肝静脈は上から降りてくる
LLLから肝静脈はCVCへ合流する
CL【尾状葉の乳頭突起】Y字の三叉棒にはいる
内側右葉と方形葉の肝静脈がダイレクトに後大静脈に流入することも
術前にCTでわかれば、いつもならY字の一本を止めればいいのが、別々に結紮すると判断できる。
■ 血管構造
左外側葉は左門脈本枝から分岐する専用の門脈枝によって灌流されています。門脈枝は比較的長く遊走が取りやすい肝葉です。
また肝静脈は左肝静脈系に属し、左内側葉の肝静脈と肝実質内で合流した後に横隔面直下で後大静脈に注ぎます
(犬では左外側・左内側葉の肝静脈が集合して最大の左肝静脈開口部を構成)。猫では左外側葉の肝静脈は独立して後大静脈に注ぐ傾向があります。
左外側葉は他の葉と深い裂溝で隔てられるため独立性が高く、血管構造の解剖学的変異は比較的少ない肝葉です。
■ 切除時の手順
■ 注意点
■ 血管構造
左内側葉への門脈血は主に左門脈本幹からの枝によります。犬ではこの枝が方形葉の門脈枝と共通の幹から分岐する場合が多く、左門脈から分かれた短い幹がさらに左内側葉・方形葉に分岐します。
肝静脈は左葉系に属し、左外側葉の肝静脈と肝内で合流するか、あるいは左肝静脈本幹に流入する「中肝静脈」として機能します。猫では左内側葉と方形葉、さらに乳頭突起の肝静脈が合流して中肝静脈を形成し後大静脈に注ぐことが多いです。
■ 切除時の手順
■ 注意点
■ 血管構造
方形葉(胆嚢葉とも呼ばれる)は腹側中央に位置し、胆嚢窩を含む小葉です。門脈支配は左門脈からの枝で、犬では左内側葉と共通の門脈幹から供給されることが多いです。
肝静脈は犬では右内側葉の肝静脈と合流し、短い共通幹を形成して左肝静脈に注ぎます。右内側葉・方形葉を合わせた中央葉区ではY字状に合流して左肝静脈開口部へ入る構造です。一方、猫では独立した中肝静脈開口として後大静脈へ注ぐなど、やや解剖的差が見られます。
■ 切除時の手順
■ 注意点
■ 血管構造
右内側葉は肝門部に非常に近く、門脈分岐(右門脈)が短いのが特徴です。犬では太い門脈枝が直接分岐し、肝静脈は方形葉と合流して左肝静脈へ向かう中肝静脈幹を形成することが多いです。猫では門脈「中央枝」から灌流され、肝静脈は独立して後大静脈へ流入する傾向にあります。
■ 切除時の手順
■ 注意点
■ 血管構造
右外側葉は犬猫肝臓で最大級の肝葉の一つで、横隔膜右側に広く接しています。犬では右門脈からの血流が主ですが、一部の症例で左門脈小枝が背側区域へ流入する変異も報告されています。肝静脈は大型の右肝静脈として後大静脈に直接注ぎ、開口付近の長さは短い傾向があり、小さな副枝も存在することがあります。
■ 切除時の手順
■ 注意点
■ 血管構造
尾状葉は肝臓背側に位置する特殊な葉で、右側の尾状突起(腎圧痕があり右腎に接する部分)と左側の乳頭突起(小網嚢内に突出)に分かれます。
尾状突起は右門脈本幹から、乳頭突起は左門脈から分岐する細枝により栄養されます。尾状突起門脈枝は短く太い一方、乳頭突起門脈枝は細く、
時に左内側葉門脈と共通起始をもつことがあります。肝静脈は尾状突起から1~2本が直接後大静脈に注ぎ、後大静脈に癒着している場合が多いです。
乳頭突起の静脈は左肝静脈や独立枝となるなど変異に富みます。猫では乳頭突起の肝静脈は中肝静脈に合流し、尾状突起は小枝で後大静脈に入る例が多いです。
■ 切除時の手順(尾状葉全体の場合)
■ 注意点
肝葉ごとの門脈・肝静脈分布と手術解剖の詳細は文献【36】【37】に詳しく、犬の肝血管鋳型解析では
右内側葉と方形葉の静脈合流が1cm程度の短い共通幹を形成すること、右外側葉には独立肝静脈のほか小枝が存在しうること
などが報告されています。また猫の肝は犬と比べ門脈分岐が三分枝型で中央区画が明確、肝静脈合流も安定しているとされます。
術前にはこれら解剖学的差異と個体ごとの血管走行変異を把握し、確実で安全な肝葉切除を心がけます。
肝臓の再生性結節
肉眼診断のポイント
①肝臓全体の大きさは小さい。
②多発性>20個
③1〜3cmの膨隆性、小型結節
④色は周囲の肝臓と類似~脂肪肝の色調
結節でないところに障害の原因がある。
生検の意義:中
肝障害、萎縮、線維化、再生性結節、門脈圧亢進、後天性多発性シャント(腎臓周囲にシャント血管)、腹水
肝臓の結節性過形成
単一の隆起性腫瘤
周囲の組織と色調が類似
境界不明瞭
偶発所見
生検意義:低
血管肉腫(転移性)
出血リスクの少ない辺縁に近い部位
小さな病変で盛り上がる白い部分を採取
多発性結節
境界不整の白色〜赤褐色
表面陥凹
肝臓破裂、血腹症
☞肉眼診断鑑別ランキング①血管肉腫②胆管癌
☞肉眼的に可能性が低いもの💡再生性結節、結節性過形成、肝細胞癌、肥満細胞腫、リンパ腫
肝細胞癌(HCC)
3相撮影が必要
動脈相,門脈相で増強陰影が得られない。
(↔︎
肝細胞腫は動脈相で造影増強を示すことが多い。)
動脈相では、巨大な肝臓腫瘤内に細い動脈走行が複数観察される。
また、腫瘤内には、常に低吸収な領域(門脈相の⇒)も認められる。
腫瘤は動脈相から平衡相にかけて造影増強に乏しく、これらの形態と造影パターンは幹細胞癌のCT所見として典型例である。
単一の大型腫瘤
周囲の組織と色調が類似~脂肪肝の色調
境界不明瞭
緩徐進行性の腫瘍
緊急手術時の同時摘出のリスク
長期的に摘出が適応となる。