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肺水腫

第1章 救急管理

急性期から慢性期へと移行する際の治療戦略では、症状の安定化と再発予防が大切です。
心不全や呼吸不全などの重症例では、症状改善後の維持期治療が不十分な場合、再度悪化のリスクがあります。
Goutalらの報告などによれば、慢性的に治療を継続していても十分にコントロールできない場合があり、
さらなる薬剤追加や治療計画の見直しを要するケースがあります。
(参考:犬の慢性心不全治療に関するガイドライン第8.2.2 章 など)

第2選択薬

以下は、心不全治療などで第一選択薬の効果が乏しい場合に検討される薬剤例です。主に強心や血管拡張作用が必要な場面で使用されますが、モニタリングを徹底しながらの投与が望まれます。

  • カルベリド(遺伝子組換)[ハンス遺 など]
    0.05~0.1 μg/kg/分 持続点滴。
    肺高血圧や心拍出量低下の改善を目的として使用されることがあるが、臨床使用のエビデンスは限定的で慎重投与が必要。
  • ニトロプルシドナトリウム水和物[ニトロベ など]
    0.05~10 μg/kg/分 持続点滴。
    強力な血管拡張作用があるため、血圧の急激な低下に注意しつつ血圧モニタリングを行う。遮光が必要。
  • ドパミン塩酸塩[ドパミン塩]
    5~20 μg/kg/分 持続点滴。
    投与量により腎血流維持から心収縮力増強まで幅広い作用を示す。頻脈や不整脈に注意。
  • ドブタミン塩酸塩[ドブトレックス など]
    2.5~20 μg/kg/分 持続点滴。
    β1刺激による正の変力作用が主目的。不整脈リスクを鑑みながら用量調整を行う。
  • プロスタサイクリンナトリウム[アププロスト など]
    0.3~0.3 mg/kg/日を1日2回。
    血管拡張や血小板凝集抑制効果があるため、肺高血圧や末梢循環障害の改善を図る。出血傾向に注意。
  • ピモベンダン[ベトメディン など]
    0.15 mg/kg 静注。
    強心薬と血管拡張作用を併せ持つ。国内では経口剤が主流で、静注時はオフラベル的使用となるため血圧低下に警戒。

予後
治療により症状が改善しても、基礎疾患の性質や重症度により再燃のリスクがあります。飼い主へは再発予防とモニタリングの重要性を説明し、定期検診を促します。

Key point

  • 病態に応じた薬剤を選択し、血圧・心電図・酸素飽和度などを常にモニターする。
  • 飼い主へは治療の効果や限界、維持療法の必要性をわかりやすく説明する。
  • 症状の悪化や不整脈、臓器障害の兆候を早期に把握して対処する。

非心原性肺水腫(Noncardiogenic pulmonary edema)

心疾患以外の原因による肺水腫が「非心原性肺水腫」です。肺胞損傷や炎症など、多岐にわたる要因が関係します。

1. 病態

肺水腫とは、肺胞や肺実質に水分が貯留し、ガス交換が障害される状態
非心原性肺水腫は、心不全による肺静脈圧亢進ではなく、肺胞・肺毛細血管の損傷や炎症により発症します。
代表的には以下の病態が含まれます:

  • 神経原性肺水腫
  • ARDS(急性呼吸窮迫症候群)
  • 誤嚥性肺水腫
  • 再膨張性肺水腫
  • 陰圧性肺水腫 など

2. 非心原性肺水腫の分類

A. 陰圧性肺水腫:強い陰圧(気道閉塞など)によって肺が損傷し、毛細血管透過性が上がることで起こる。
B. 誤嚥性肺水腫:嘔吐物や胃内容物を吸引し、化学的刺激・炎症が原因となる。
C. ARDS(急性呼吸窮迫症候群):SIRS(全身性炎症反応症候群)の一部として重症肺障害が生じる。
D. 再膨張性肺水腫:虚脱していた肺を急激に再拡張することで肺胞や血管が損傷し、肺水腫を来す。
いずれも迅速な酸素化改善と原因除去が鍵となります。

3. 診断

  • 既往歴・身体検査:誤嚥リスク、外傷歴、中枢神経異常の有無などを確認
  • 画像診断(X線/CT):両側性肺浸潤影、心臓の拡大の有無などを評価
  • 血液ガス分析:酸素化(PaO2)と換気(PaCO2)をモニタリング

4. 治療方針

非心原性肺水腫では、原疾患のコントロール呼吸管理を同時に行います。

  • I. 原疾患治療:誤嚥性肺水腫ならば抗菌薬と誤嚥リスク排除、神経原性肺水腫なら頭蓋内圧管理など
  • II. 酸素投与:ケージ内酸素や鼻カテーテル、高流量酸素を用い、低酸素を速やかに補正
  • III. 人工呼吸管理:重症肺障害(ARDSなど)で自力換気が困難な場合、PEEPやCPAPなどを駆使
  • IV. 輸液療法:過剰輸液は肺水腫を悪化させるため、血圧・尿量・乳酸値などで循環状態を評価しながら調節
  • V. ステロイド:重症ARDSなどでは慎重に検討(獣医領域では見解が分かれる)

予後は原因疾患と全身状態、治療開始の早さに左右されます。特にARDSへ移行した場合は集中治療(ICUレベル)を要することが多く、飼い主への十分な説明が必要です。

心肺停止(Cardiopulmonary arrest:CPA)

CPAとは心臓のポンプ機能と呼吸が同時に停止した状態で、即時の処置がなければ生存は極めて困難です。

1. 病態

いったんCPAに陥ると、血行動態と酸素供給が完全に途絶します。早期のROSC(自発循環再開)を得るため、迅速なCPRが必須です。
犬のCPA原因は多岐にわたりますが、最終的には心拍出量の極端な低下という同じ道筋をたどります。

2. 診断

CPAの発見には「意識・呼吸・脈拍がない」ことを15秒以内に評価します。
徐脈や重度低血圧といった前兆もありますが、見逃されることが多いため、モニタリング機器の活用が推奨されます。

3. 治療方針

CPR(心肺蘇生)は大きく一次救命処置(BLS)と二次救命処置(ALS)に分けられます。

  • 一次救命処置(BLS):
    胸骨圧迫を最優先し、1分間に100~120回のテンポ、十分なリコイルを確保。
    ・可能な限り早く気管挿管やマウス・トゥ・スノウトで人工呼吸を行う。
    ・2分ごとに循環再開の有無を評価し、必要があれば継続。
  • 二次救命処置(ALS):
    ・アドレナリンやアトロピンなど蘇生薬を投与。電解質異常がある場合は補正。
    ・心電図モニタリングを行い、心室細動や無脈性VTがあれば除細動。
    ・挿管後の換気管理では過換気を避け、適切なETCO2を維持する。

近年のRECOVERガイドライン(2012年、最新版2.0など)では、胸骨圧迫の深さやテンポを維持し中断を最小限にすることが強調されています。

予後
CPAからの回復は発見の速さや処置の的確さに左右されます。ROSC後も多臓器不全や脳障害が残ることがあり、蘇生後ケア(低体温療法や血圧・血糖管理など)が重要です。


最新文献を踏まえた補足・訂正

  • ARDSの定義・診断基準
    2020年以降、ヒトのBerlin定義をベースに小動物向けの評価法が提案されており、P/F比や画像所見に加え、心原性ではないかの除外が重視されます。
  • 人工呼吸管理
    肺保護戦略(low tidal volume, adequate PEEP)が犬猫にも応用されつつあり、VILI(人工呼吸器関連肺障害)を避けるための厳密なモニタリングが必要です。
  • CPAのRECOVERガイドライン
    胸骨圧迫の“Hands on”最大化、POCUS(超音波)やETCO2モニタリングの活用などが推奨度を高めています。
  • 輸液量の制御
    非心原性肺水腫では“過度の輸液は禁忌”とされがちですが、循環不全のリスクもあるため、血圧や尿量、乳酸値などを随時評価してバランスをとることが求められます。
  • ステロイド
    重症ARDSや急性肺障害で使用が検討されることはありますが、原因疾患を精査し慎重に判断する必要があります。