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胃拡張・胃捻転症候群(GDV)

胃拡張と胃捻転の関係

  • 胃拡張: 胃内にガスや液体が急速に蓄積し、異常な膨張により腹部が膨満します。
  • 胃捻転: 拡張した胃が約200°前後、主に時計回りに捻転し、幽門が背側や左側に移動。これにより、胃と十二指腸の接合部が頭背側に引き伸ばされます。
  • 発生順序: 拡張が先か捻転が先かは明確ではありませんが、どちらも短時間で進行します。

血流障害の連鎖反応

  1. 後大静脈の圧迫: 捻転した胃が腹部の太い静脈(後大静脈)を圧迫し、心臓への血流が減少。結果、血圧低下やショック状態に陥ります。
  2. 胃と脾臓の虚血:
    • 短胃動静脈が断裂して内部出血を引き起こします。
    • 胃壁の虚血により、胃粘膜が壊死。乳酸値が急上昇し、全身状態が悪化します。
  3. 脾臓の損傷: 捻転により脾臓が巻き込まれ、血流が遮断され壊死する場合があります.

症状の特徴

  • 腹部膨満: 触診で硬く、打診時に太鼓のような音がします。
  • カラ嘔吐: 胃と食道が捻っているため、吐きたくても内容物が出ず、空っぽの嘔吐となります。
  • 虚脱・呼吸困難: 血圧低下や横隔膜圧迫により、呼吸が速く浅くなります。
  • 歯茎の蒼白: ショックや出血により粘膜が白っぽく変化します。

好発犬種とリスク要因

  • 胸郭が深い大型犬(例:アイリッシュセッター、ボルゾイ、グレートデン)に多く見られます。
  • 食後の運動、過剰な食事摂取、ストレス、遺伝的素因が関与しますが、運動が直接の原因とは限りません。

合併症と緊急性

  • 胃壁の壊死: 血流遮断により胃壁が数時間で壊死し、毒素が全身に拡散します。
  • 誤嚥性肺炎: 嘔吐できず、唾液や胃内容物が気管に入り炎症を引き起こします。
  • 多臓器不全: 低血圧と乳酸蓄積により、腎臓や肝臓の機能が停止するリスクがあります。

緊急対応が必要な理由

発症後2〜3時間で死亡率が急上昇し、6時間以上放置すると生存率はほぼ0%になるため、迅速な治療が必須です。治療の遅れは、胃や脾臓の壊死進行を招き、外科手術での救命が困難になります。

飼い主がすべきこと

  • 疑わしい症状(腹部膨満、嘔吐困難、虚脱など)に気づいたら、即座に動物病院へ連絡し受診してください。
  • 診断は、X線や超音波検査で捻転の方向・程度を確認し、静脈輸液や酸素投与でショック状態を改善した上で、緊急手術に移行します。

予防の重要性

  • 高リスク犬種では、予防的胃固定術を行い、再捻転リスクを大幅に低減します。
  • また、少量ずつの分割給餌、早食い防止食器の使用、食後の安静を徹底することで、胃拡張の発生を防ぎます。

拡張型心筋症(DCM)を疑う場合の輸液管理と心エコー検査の重要性

  • DCMの特徴: 心収縮力(FS)が低下し、心拍出量が減少。大型犬に多く、過剰輸液で肺水腫リスクが高まります。
  • 心エコー検査: 輸液前または初期安定化中にFSを評価し、DCMの有無を判断。DCMがある場合は輸液量を通常の半量(30–50 mL/kg/hr)に調整し、ドブタミン(2-10μg/kg/min)併用を検討します。
  • 厳重なモニタリング: 10〜15分ごとに脈圧、粘膜色、CRT、呼吸状態、乳酸値、尿量を確認します。

外科処置(胃整復・固定術)とその管理

  • 胃整復: 捻転した胃を「幽門部を手前に転がす」操作で正常な位置に戻します。整復のみでは再発率が約80%のため、必ず胃固定術を併用します.

  • 胃固定術:
    • 横隔膜には切開せず、腹壁側で固定(気胸リスクを防止)。

    • 切開位置は、最後肋骨から約2cm以上尾側(横隔膜から2〜3cm離れた位置)かつ正中から3〜4cm外側に設定し、将来の正中切開時の胃穿孔リスクを回避します.

    • 胃壁に4〜5cmの切開を入れ、幽門部近傍では縦に切開。筋膜まで到達後、メッツェンなどで剥離して腹壁に固定します.

  • 脾臓の管理: 捻転に伴い、脾臓が巻き込まれて短胃動静脈が断裂して出血している場合は、脾摘出が必要です.
  • 術後確認: 手術後はレントゲン検査で医原性の気胸が発生していないか確認します.

検査所見

  • X線検査(レントゲン): 胃の拡張、捻転、幽門の移動(「二重気泡像」など)を確認し、胸部X線で誤嚥性肺炎の有無も評価します.
  • 血液検査: 低カリウム、低クロール、高乳酸、代謝性アシドーシス、腎前性腎不全(BUN/Cre上昇)、低タンパク血症などを評価し、必要に応じて補正します.

内科的処置の目的と具体的手技

  • 目的: 循環血液量の補充と安定化、胃内圧の低下、合併症の予防、麻酔リスクの低減.
  • 具体的手技:
    • 緊急輸液療法: 乳酸リンゲル液などの晶質液を60–90 mL/kg/hrで投与し、10–15分ごとに脈圧、粘膜色、CRTを評価。反応が不十分なら、7.5%高張食塩水や人工膠質液を追加.
    • 胃減圧: 経鼻チューブまたは経皮的胃穿刺法により、迅速に胃内ガスを排出し内圧を低下させる.
    • 不整脈管理: 酸素投与、IVリドカイン(初回2–4 mg/kg、CRI 25–80 μg/kg/min)での治療、必要に応じカリウム・マグネシウム補正、さらにプロカインアミドやプロプラノロールの使用.

術前・術中・術後の注意点

  • 術前: 脱水、低カリウム・低クロール、酸塩基平衡異常、腎前性腎不全を十分に補正し、必要なら輸血も検討.
  • 輸液管理: DCMが疑われる場合は心エコーでFSを評価し、輸液量を通常の半量に調整し、ドブタミン併用で心機能を補助する.
  • 術中: 麻酔中は血圧低下や不整脈に注意し、適切な薬剤管理を行う.
  • 術後: 継続的なECGモニタリング、血液検査、呼吸・循環状態の厳重な監視が必要。術後12〜36時間や翌日以降の再灌流障害による急激なカリウム放出に注意.
  • 術後不整脈が続く場合、退院後は経口メキシレチンによる管理を1か月程度継続する.

輸液反応の評価基準

  • 良好な反応: CRTが2秒未満、歯茎の色がピンクに回復、尿量が1–2 mL/kg/hr以上、乳酸値が低下.
  • 不十分な反応: 低血圧、粘膜の蒼白、乏尿が続く場合は、膠質液や血管作動薬を追加投与する必要があります.

手術への移行条件

循環動態が安定し、ショック状態から離脱した段階で、緊急手術(胃整復・固定術)へ移行します.

注意点

  • 過剰な輸液は肺水腫を誘発するため注意が必要です.
  • 生理食塩水や高張食塩水の過剰投与は避けるべきです.

不整脈の管理

  • 十分な酸素化: 心筋の酸素供給を確保し、心臓の電気的安定性を保ちます.
  • リドカインの投与:
    • 初回:2–4 mg/kgをIVでゆっくり投与(気管内投与の場合は約2〜3倍の量)。
    • 持続静注(CRI): 25–80 μg/kg/min(約3–4 mg/kg/hr)で管理.
    • 副作用(運動失調、眼振、痙攣、嘔吐、徐脈、低血圧)に注意し、術後12〜36時間以降の発生も監視.
  • 電解質補正:
    • カリウム値の測定と、必要に応じた補正(低カリウムは不整脈を悪化させます)。
    • マグネシウム値もチェックし、2–3 mEq/kg(約30 mg/kg)をゆっくりIV投与して補正.
  • 追加の抗不整脈薬:
    • プロカインアミド: 2–20 mg/kgを20分以上かけてゆっくり投与.
    • プロプラノロール: 0.25–0.5 mg/kgのIVボーラスを5分毎に投与.

胃ガスの抜去(経皮的胃穿刺法)の手順と注意点

  • 体位と穿刺部位: 右側横臥位または左側横臥位でエコーを使用し、最後肋骨の後方で胃内ガスが確認できる安全な部位を選定します.

  • 針の調整: 18G留置針の外套にサイドホールを作成し、食塊による閉塞を防ぎます.
  • 穿刺手順:
    • 皮膚切開を行い、エコーガイド下で垂直に針を挿入し、胃内ガス層に到達.
    • 内筒を抜去し、針のみを留置。内筒はやや頭側に向けて固定し、ガス排出を促します.
  • 継続的なガス抜去: 延長チューブと三方活栓を接続し、持続吸引によりガスを排出します。粘稠性の高い内容液による閉塞に注意.
  • 注意点:
    • 口からチューブを用いて単にガスを抜くと、断裂した短胃動静脈の状態が持続し腹腔内出血につながるため、FAST検査で出血の有無を確認し、必要なら脾摘出を実施.
    • 胃洗浄時、カフが十分に膨らんでいないと誤嚥性肺炎や胃粘膜損傷のリスクがあるため、チューブの挿入深度をしっかり管理(マーキング)します.

術後管理と予後

  • モニタリング: 術後はECGで不整脈、腎機能、凝固プロファイル、乳酸値などを定期的にチェックします.
  • 再灌流障害への対策: 術後12〜36時間、または翌日から3日後に、急激なカリウム放出による不整脈、心停止、急性腎不全のリスクに注意します.
  • 術後不整脈管理: 初期はIVリドカインで対応し、症状が持続する場合は退院後、経口メキシレチンで1か月程度管理します.
  • 食事再開: 回復期には流動食から開始し、徐々に通常食へ移行します.