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手術時間12:00-15:00
水曜・日曜午後休診
ブドウ球菌は、
グラム陽性球菌
の一種で、顕微鏡下ではブドウの房のように球菌が集まって配置されることから
このように呼ばれます。
皮膚感染症、軟部組織感染症、
骨感染症、呼吸器感染症、膀胱炎など、様々な感染症の原因菌として重要です。
セフェム系抗生物質
(例:セファロスポリン)は、ブドウ球菌に対して一般的に有効で、
皮膚や軟部組織の感染症
などでよく使われます。ただし、
メチシリン耐性菌(MRSAなど)
には効果が乏しい場合があります。
ペニシリン系抗生物質
は、多くのブドウ球菌がペニシリナーゼ(βラクタマーゼ)を産生して耐性を示すため、
あまり使われません。しかし、ペニシリナーゼを産生しない一部のブドウ球菌
(MSSAなど)には有効です。
下記はブドウ球菌の耐性による分類例です。
(PCG: ペニシリンG, OX: オキサシリン, VCM: バンコマイシン)
分類 | 特徴 | PCG | OX | VCM |
---|---|---|---|---|
MSSA (ペニシリナーゼ陰性) |
ペニシリナーゼを産生しない 感受性のある菌 |
S | S | S |
MSSA (ペニシリナーゼ陽性) |
ペニシリン系に耐性 オキサシリンなどには感受性 |
R | S | S |
MRSA (mecA陽性) |
メチシリン系(オキサシリン)に 耐性を示す |
R | R | S |
VISA (壁が肥厚) |
バンコマイシンに 中間耐性 |
R | R | I |
VRSA (van A陽性) |
バンコマイシン 高水準耐性 |
R | R | R |
※VRSA はバンコマイシンですら効かず、
日本には存在しない(または非常に稀)
とされています。
MRSAは、
mecA遺伝子陽性により、メチシリン系(オキサシリンなど)やセフェム系に
耐性を示す
ブドウ球菌
です。一般的に、
バンコマイシン
が有効ですが、VISA や VRSA のように耐性が上昇している株も
少しずつ報告されています。
治療には、
リネゾリド
(オキサゾリジノン系)、
ダプトマイシン
(リポペプチド系)、
テラバンシン
などの新しい抗菌薬も選択肢に入ります。
第5世代セフェムである
セフトロリンダニピル
なども開発され、少しずつ治療の幅が広がっています。
ブドウ球菌
は広く存在し、
MSSA から MRSA、VISA、VRSA
に進むにつれ、耐性レベルが高まり治療が困難になります。
MRSA
はペニシリン系やセフェム系が使えないため、
バンコマイシンなど限られた薬で治療しますが、
耐性上昇が問題です。
大腸菌は
グラム陰性桿菌で、
犬や猫の
腸管内
に常在しています。通常は無害ですが、何らかの要因で免疫バランスが崩れたり、
腸内環境が乱れたりすると
尿路感染症(膀胱炎や腎盂腎炎)、腸管感染症(下痢など)
を引き起こすことがあります。口腔内や肺炎、創傷感染で検出されることも珍しくありません。
近年は多剤耐性
を示す大腸菌の増加が報告されており、特に
ESBL産生菌
や
ニューキノロン耐性株
への対策が獣医療の現場でも課題となっています。
1.
アモキシシリン・クラブラン酸(経口)
βラクタマーゼ阻害薬(クラブラン酸)を加えることで、多くの大腸菌株に対して
有効性が期待できます。ただし、
クラブラン酸分解型
の耐性菌も報告されているため、使用中は効果をよく観察します。
2.
第2世代セフェム系(例:セファクロル)
第1世代より
グラム陰性菌
(大腸菌など)へのカバー範囲が広く、軽症例や初回感染で
使用されることが多いです。
第3世代セフェムは経口投与での生物学的利用価が低いものが多いため、
注射剤
として使用されるケースがほとんどです。
1.
薬剤感受性試験(培養検査)
初期治療で改善が見られない、再発例などでは、
必ず感受性試験
を行い、その結果に基づいた抗菌薬を選択します。
2.
ニューキノロン系(レボフロキサシンなど)
かつては第一選択にもなり得ましたが、
ニューキノロン耐性
の増加が懸念されています。感受性試験で「S(感受性あり)」を
確認できれば有力な選択肢となります。
3.
強化ペニシリン系
(例:アンピシリン+スルバクタム)
βラクタマーゼ産生菌への有効性が期待できますが、
やはり試験結果に基づき判断します。
1.
ファロペネム(経口ペネム系)
ESBL産生菌など、多剤耐性株に対しても効果がある場合があり、
「最終手段」
の扱いをされることが多いです。耐性拡大を防ぐためにも、
感受性試験
で有効性を確認後に使用します。
2.
セフメタゾール(セファマイシン系)
ESBL産生菌の中には、セファマイシン系に感受性を示すものもありますが、
症例ごとに結果が異なるため、培養検査が必須となります。
3.
カルバペネム系
イミペネムやメロペネムなど、ヒト医療で超最終手段に位置づけられる薬で、
動物医療では使用例が限られています。重篤な多剤耐性感染で
検討される場合があります。
膀胱炎の場合、膀胱内に
抗菌薬が高濃度で存在するため、感受性試験で耐性と出ても
臨床的には効果が出る場合があります。
近年の文献では、
ESBL産生大腸菌
や
ニューキノロン耐性大腸菌
が犬猫の症例から徐々に増えていると報告されており、
薬剤耐性対策
をしっかり行う必要性が指摘されています。
大腸菌は犬猫の腸内に常在する
グラム陰性桿菌
ですが、ときに
尿路感染症や腸管感染症
などを引き起こします。お薬選びでは、
アモキシシリン・クラブラン酸
や
第2世代セフェム
などから始め、効果不十分なら
感受性試験
を行ってニューキノロン系へステップアップする方法があります。
それでも難治性の場合は、
ファロペネムやセフメタゾール
など「最終手段」を検討しますが、
耐性拡大
を防ぐための管理が大切です。
腸球菌は、犬や猫の
腸内に常在
する
グラム陽性球菌
です。通常は腸の中でバランスを保っていますが、何らかの
免疫力の低下
や
他の病気
などをきっかけに、腸管外(膀胱や血液など)で増殖することがあり、
感染症
を引き起こす場合があります。腸球菌には多くの種類が存在しますが、
Enterococcus faecalis
と
Enterococcus faecium
がよく問題になる代表種です。
腸球菌の大きな特徴として、
下記の薬がほとんど効かない
という性質があります。
犬や猫の皮膚感染や膀胱炎などでよく使われる
セフェム系
が効かないのは少し驚きかもしれませんが、
腸球菌特有の耐性機構
があるため、これらの薬は通用しにくいのです。
Enterococcus faecalis
(エンテロコッカス・フェカーリス)は比較的に
ペニシリン系
が効きやすいとされています。たとえば、軽症であれば
アンピシリン
や
アモキシシリン
といったペニシリン系抗菌薬で対処できる場合があります。
一方で、
Enterococcus faecium
(エンテロコッカス・フェシウム)は、
特に耐性が多く危険⚠️
といわれています。ペニシリン系はもちろん、
カルバペネム系
も効果が期待できないことがあり、治療が難航しやすいです。
さらに重症の場合、
テトラサイクリン系
が第一選択となるケースも文献には報告されていますが、
やはり感受性試験
次第です。
Enterococcus faecium
は多剤耐性を獲得していることが多く、
カルバペネム系
でも効果が期待できないケースがあります。文献によれば、
ニューキノロン系
(例:レボフロキサシンなど)も耐性を示すことがあり、
選択肢が非常に限られるという報告があります。
結果として、
バンコマイシン
や
ホスホマイシン
などが有効な場合がありますが、これらも慎重に使われる薬であり、
状況によっては動物用には流通が限られるものもあります。
最近の研究や文献では、
多剤耐性Enterococcus
が犬猫からも徐々に報告されており、
Enterococcus faecium
への耐性上昇は大きな問題です。
犬や猫における
腸球菌感染症
は、他の細菌と比べて使える薬が限られる点が特徴です。特に
セフェム系やST合剤、クリンダマイシン
が効かない点は要注意です。
クレブシエラは
グラム陰性桿菌
の一種で、
肺炎や尿路感染症、創傷感染症
などを引き起こすことがあります。特に犬猫の
呼吸器感染症
(例:肺炎)や、
尿路感染
(膀胱炎など)で検出され、感染が重篤化する場合もあります。
猫では
耐性菌
が多いともいわれており、
治療が難航
するケースが報告されています。
一般的に、クレブシエラは
ペニシリン
に対して
自然耐性
を持つため、ペニシリン系はほぼ効果がありません。また、
セフェム系抗生物質
(セファロスポリンなど)に対しても
耐性
を示す株が多いことが分かっています。
その他にも
アモキシシン
(βラクタム系)や
マクロライド、
クリンダマイシン
などにも耐性が見られる場合があり、
選べる薬がかなり限られる
ことがあります。
クレブシエラ感染
の場合、症例によって耐性パターンが異なるため、
薬剤感受性試験
(培養検査)を行い、どの抗菌薬が効きそうかを調べることが
最も大切
です。
例えば
ニューキノロン系
(レボフロキサシンなど)が有効な場合もあれば、
耐性を示す株も少なくありません。多剤耐性の場合、
ファロペネム系
などの最終手段的な薬を検討するケースもありますが、
乱用するとさらなる耐性を招くため、
慎重な選択
が求められます。
緑膿菌は
グラム陰性桿菌
の一種で、小型の細菌です。
皮膚・耳・尿路・呼吸器
などで感染症を引き起こすことがあります。
緑膿菌が問題視されるのは、
多くの抗生物質に耐性
を示す場合があり、治療が難しくなるケースが多いためです。
緑膿菌は
誘導型のβ-ラクタマーゼ
(クラスC・D)を産生することがあり、下記の薬に対して耐性を
示すことが多いです。
これらは
基本的に緑膿菌に効かない
ため、使用しても期待できない場合が多いです。また、
ピペラシン
や
セフタジジム
(半減期が非常に短い)も推奨されていません。
緑膿菌に対して、
比較的有効性が高い
と考えられる薬は以下のとおりです。
ただし、
ニューキノロン耐性
や
アミノグリコシド耐性
を獲得している株もあり、最終的には
薬剤感受性試験
で確認する必要があります。
連鎖球菌は
グラム陽性球菌
の一種で、顕微鏡下で見ると
球菌が連鎖状(7個以上)
に配列しているのが特徴です。犬や猫で様々な
感染症
(皮膚、呼吸器など)の原因となることが多く、
ペニシリン系
が効きやすいことで知られています。
また、連鎖球菌は
PAE(post antibiotic effect)
を有するため、
少量の抗生物質
でも効果がしばらく持続しやすく、
投与間隔を延ばせる
メリットがあります。
連鎖球菌に対する薬剤感受性には以下の特徴があります。
犬猫の診療では、皮膚や耳、呼吸器などで連鎖球菌が検出されると、
ペニシリン系抗生物質
がまず考えられます。ただし、
耐性株
が疑われる場合や重症例では、
バンコマイシン
を検討するケースもあります。
PAE
とは、ある抗菌薬が微生物に
短時間
接触した後にも、
一定期間
増殖抑制効果が続く現象を指します。
連鎖球菌は
グラム陽性
なので、多くの抗菌薬に対して
PAEを持つ
とされています。
たとえば
ペニシリン系
でも、PAEが期待できるため
投与間隔
をやや長めに設定できる可能性があります。これは動物への負担を減らす
という点でもメリットになります。
ストレプトコッカス(連鎖球菌)の感染では、
アモキシシリン
を用いる場合、
10mg/kg bid(1日2回投与)
程度でも効果が得られるケースが多いといわれています。
これは
PAE効果
によって、少ない量でも増殖抑制を続けられるためと考えられています。
同じアモキシシリンでも、
大腸菌
(グラム陰性)に対しては
20mg/kg TID(1日3回)
と量・回数を増やす必要があります。
クロストリジウム(
Clostridium属
)は、
グラム陽性の桿菌
で、空気を嫌う
嫌気性菌
に分類されます。犬や猫では、
腸管内
をはじめとしたさまざまな部位で発見されることがあり、
芽胞
を形成するのが大きな特徴です。
芽胞
とは、細菌が不利な環境でも生き延びるための「殻」のようなもので、
芽胞を形成しているときは
殺菌が難しく
なる場合があります。ただし、クロストリジウム自体は
ほとんどの抗菌薬
に感受性があるとされ、
実際には多くの薬で対処可能
です。
クロストリジウムは
嫌気性菌
であるため、
院内での培養
(空気がない環境での培養)が
非常に難しい
とされています。そのため、日常的な
感受性試験
でも生えてこない(培養できない)ケースが少なくありません。
つまり、「
感受性試験で確認できない
→薬が選べない」という状況に見えますが、先述のとおり
多くの抗生物質
に対しては基本的に効きやすいため、獣医師は
臨床症状や既存のデータ
に基づいて薬を選択することが多いです。
一般的には
「クロストリジウムは多くの抗菌薬に感受性を持つ」
とされますが、
例外的に耐性を示す株
や、芽胞状態で対処が難しいケースもないわけではありません。
ただし、他のグラム陽性球菌(ブドウ球菌や連鎖球菌など)ほど
多剤耐性例
は報告されていないため、感染が疑われる場合は
ペニシリン系
や
メトロニダゾール
(嫌気性菌対策)などで対応できることが多いと考えられます。
最新の文献
では、特定種のクロストリジウム(例:C. difficile など)が
下痢や腸炎
に関与していると報告される場合もあり、
ヒト医療
では大きな問題となっています。ただし、犬や猫の一般的な診療で
実際にどの程度問題になるかは
症例によって異なる
ため、過剰に心配しすぎる必要はありません。
培養検査
での確定は難しい場合がありますが、
嫌気性菌対策
の薬(メトロニダゾール、あるいはペニシリン系など)で
治療効果
を確認することが多いです。もし症状が改善しない場合や再発する場合は、
別の原因菌
を疑う必要があるかもしれません。