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【外科症例報告】ミニチュア・シュナウザーの乳腺腫瘍摘出術(2度の外科介入と周術期管理)

外科症例報告:乳腺腫瘍摘出術(2度の外科介入と周術期管理)

今日お話ししたいこと


今回お話しするのは、約半年の間に2度の乳腺腫瘍摘出術を行った高齢犬の患者さんの症例です。高齢での複数回の手術はご家族にとっても不安が大きいものですが、なぜその選択が必要だったのか、当院の外科的アプローチを交えて解説します。

検査の結果と「外科的適応」の判断

初回の来院時、乳腺部などに複数の小さな腫瘤が確認されました。この時は患者さんの体への負担を最小限に抑えるため、局所麻酔下での切除生検(しこりを外科的に切り取って病理検査に出すこと)を実施しました。病理検査の結果は良性乳腺腫等であり、悪性所見はありませんでした。

しかし数ヶ月後、別の乳腺に大きく硬いしこりが急速に形成され、熱感と化膿を伴う状態になりました。さらに超音波検査で、卵巣および子宮にも多数の嚢胞(液体が溜まった袋状の病変)が確認されました。

  • 腫瘍の自壊と強い炎症: すでに化膿が始まっており、局所のコントロールが急務でした。
  • ホルモンの影響: 卵巣からのホルモン分泌が乳腺疾患に影響を与えているため、根本的な原因排除が必要でした。
  • 以上の点から、二度目の「外科的適応」であると論理的に判断しました。
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もしこのまま様子を見たら(放置した場合のリスク)

手術をせず「高齢だから」と様子を見る選択をした場合、患者さんは以下のような具体的かつ残酷な苦痛を経験することになります。

  • 腫瘍の自壊と出血: 大きくなった腫瘍は皮膚を突き破り、常に血や膿が滲み出るようになります。
  • 重篤な感染症(敗血症): すでに化膿が始まっていたため、放置すれば細菌が全身に回り、命に関わる敗血症を引き起こすリスクが極めて高くなります。
  • 激しい疼痛: 炎症と組織の壊死は、通常の鎮痛剤だけではコントロールできない持続的な激痛を生み出します。

これらの生活の質(QOL)を著しく損なう苦痛を回避するためには、外科的介入が唯一の選択肢でした。

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選択した術式とその根拠

  • 乳腺腫瘍摘出と卵巣子宮摘出の同時実施: 化膿し腫大した乳腺を物理的に取り除くことで、感染源と痛みの原因を絶ちます。同時に卵巣子宮摘出を行うのは、発見された嚢胞性病変を治療し、将来的な子宮蓄膿症のリスクを排除するためです。
  • 徹底したペインコントロール: 当院では痛みを最小限にするため、術前から鎮痛薬を投与する先制鎮痛を実施します。
  • 痛みのサインをブロック: 術中は持続的な静脈内鎮痛薬の投与に加え、必要に応じて局所神経ブロックを併用し、動物が痛みを感じる前に徹底的にブロックします。

術中の細心の注意と、実際に起こり得る合併症

外科手術は常にリスクと隣り合わせです。当院では術中、以下の点に細心の注意を払っています。

  • 徹底した止血と組織保護: 乳腺周囲や腹腔内には多くの血管が走行しています。術後の出血を防ぐため、確実な止血操作を行います。また、縫合した皮膚が後になって壊死しないよう、血流を温存するための丁寧な組織の取り扱い(ハンドリング)を徹底します。
  • 麻酔と血圧の管理: 痛みの刺激による血圧変動を麻酔医が常に監視し、鎮痛薬の量をリアルタイムで調整します。

しかし、どれほど注意を払っても合併症をゼロにすることはできません。包み隠さずお話しすると、本症例でも術後にいくつかの合併症が発生しました。

  • 術後出血と血腫・皮膚の離開: 術後、切除部位に内出血(血腫)が生じました。出血を抑えるために圧迫包帯による処置を行いましたが、その圧迫の影響により、一部の皮膚に血流障害(壊死)と傷口の離開が生じました。
  • 継続的なケアによる改善: これらの合併症に対しては、抗生剤の投与と専用の薬浴(洗浄処置)を継続的に行い、徐々に傷は改善へと向かいました。最終的な病理検査結果はすべて良性であり、局所の傷さえ治癒すれば長期的な予後は良好に見込める状態でした。
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術後管理と夜間監視について

  • 早期退院の方針: 当院では、外科手術後の入院期間を原則1〜3日としています。動物にとって病院のケージで過ごす精神的ストレスが回復を遅らせる要因になると考えているため、状態が安定し次第、早期にご自宅でのリハビリへ移行します。
  • 無人夜間における遠隔監視: 夜間、病院はスタッフ不在(無人)となります。しかし、入院室にはペットカメラを設置しており、遠隔監視を徹底しています。
  • 深夜の緊急対応: もし画面越しに「痛みで眠れていない」などの異常を検知した場合、院長である私自身が深夜であっても直ちに病院へ赴き、追加の鎮痛剤投与や処置を行います。動物の痛みを絶対に見過ごさないのが当院の覚悟です。

当院の外科体制と高度連携について

  • 軟部・腫瘍外科の適応: 後腹膜より腹側の一般軟部外科、および体表腫瘍(皮弁形成を含む)は広く対応可能です。肝臓腫瘍については、主要血管を巻き込まない辺縁切除までを当院の適応としています。
  • 適応外・完全紹介対象: 副腎摘出などの最深部アプローチが必要な手術、尿管結石摘出、そして輸血準備がないため術前に重度貧血が想定される症例については、動物の命を最優先とし、速やかに設備と専門医の整った二次施設へご紹介します。

院長からのメッセージ

外科手術は「取って終わり」ではありません。術後の合併症も含め、ご家族と一緒に乗り越えていくプロセスです。リスクをごまかさず、痛みを放置せず、当院でできる最善の論理的治療を提供することをお約束します。

English Summary

This case report details the logical surgical intervention and perioperative management for an older dog requiring two mammary tumor excisions. The first excisional biopsy was performed under local anesthesia to minimize the physical burden. We discuss the strict criteria for surgical indication, the severe risks of leaving the tumor untreated, and our thorough pain management protocols. We also outline intraoperative precautions, such as meticulous hemostasis and tissue handling, while transparently addressing actual postoperative complications like hematoma and skin dehiscence, which were managed carefully. Our hospital prioritizes early discharge to minimize patient stress and utilizes a rigorous remote night-monitoring system to ensure no pain is overlooked.

中文摘要 (Chinese Summary)

本病例报告详细介绍了为一只经历两次乳腺肿瘤切除手术的老年犬所采取的合理外科干预及围手术期管理。为了尽量减少身体负担,第一次切除活检是在局部麻醉下进行的。我们探讨了严格的手术适应症标准、放弃治疗的严重风险,以及我们彻底的疼痛管理方案。文中还详细说明了术中严密的止血和组织保护等注意事项,并客观公开了实际发生的术后并发症(如血肿和皮肤裂开)及其精心的治疗过程。本院主张让患犬尽早出院以减少精神压力,并采用严格的夜间远程监控系统,确保绝不忽视任何疼痛。