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【外科症例報告】
猫の難治性口腔内腫瘤に対する診断的生検(好酸球性肉芽腫)と内科管理
今回は、重度のよだれと採食困難を主訴に来院された猫の患者さんの、口腔内腫瘤に対する生検(組織採取)と、その後の長期内科管理について解説します。
この患者さんは過去に好酸球性肉芽腫症候群の診断を受けており、一度は切除を行いましたが、再び舌根部(舌の根本)に腫脹が生じ、食事が摂れない状態に陥っていました。良性疾患であっても、物理的に食道を塞ぎ、栄養摂取を阻害する場合は命に関わります。正確な診断と治療方針の決定のため、全身麻酔下での生検を実施しました。
術前の血液検査および胸部レントゲン検査を実施しました。血液検査では強い炎症反応が認められましたが、これは腫瘤そのものによる影響と判断し、腎臓や肝臓など主要臓器の数値から全身麻酔の許容範囲内であると評価しました。
舌根部という特殊な部位であり、悪性腫瘍(扁平上皮癌など)の可能性も完全に否定できないため、目視や触診だけでなく、組織を採取して外部病理検査機関へ提出する「外科的生検」が不可欠と判断しました。



この状態を「高齢だから」「麻酔が怖いから」と内科療法のみで手探りで様子を見た場合、以下のような残酷な経過を辿ります。
本症例は体重約4kgの患者さんです。明らかな心疾患等は術前検査で認められませんでしたが、口腔内の手術は気道確保が困難になるリスクを常に伴います。
当院では、手術中の痛みを遮断するために、全身麻酔に加えて局所浸潤麻酔を徹底して併用しています。術創周囲へ直接麻酔薬を浸潤させることで、脳へ伝わる痛みのシグナルを物理的に遮断します。これにより、全身麻酔薬の必要量を減らし、血圧低下などの術中リスクをコントロールして安全域を広げています。
生検の結果、悪性腫瘍ではなく「好酸球性肉芽腫」であることが確定しました。強い炎症反応を示す病変であり、生涯にわたる免疫抑制剤(シクロスポリン)やステロイドの内服が必要となります。経過は良好に保てていますが、投薬を少しでも中断するとすぐに再発するため、減薬も安易にはできません。
また、免疫抑制状態が続くことで、後に肢の末端に細菌感染(ブドウ球菌、肺炎桿菌など)を引き起こし、排膿を伴う合併症も経験しました。これらは抗生剤の感受性試験を行い、適切な薬剤を用いて制圧しています。良性であっても、常に感染症と隣り合わせの綱渡りの管理が続いています。
「良性」という言葉は、決して「簡単」や「安心」を意味しません。好酸球性肉芽腫のような自己免疫性の難治性疾患は、生涯にわたる投薬と、それに伴う副作用(感染症リスクなど)との終わりのない戦いです。
美談で包み隠すことは簡単ですが、現実は毎日の確実な投薬と、異常を早期に察知する飼い主様の冷静な観察眼によってのみ維持されます。私たちはそのために必要な確定診断を下し、最も効果的な内科管理の道筋を論理的に提示し続けます。
[English Summary]
This case report details the diagnostic biopsy and medical management of a feline patient with an intractable oral mass (eosinophilic granuloma). We discuss the severe risks of leaving the condition untreated, our specific anesthesia protocols including local infiltration anesthesia, and the realities of postoperative care without overnight staffing. We also explain our surgical indication criteria and referral policy for advanced cases.
[中文摘要]
本病例报告详细介绍了猫难治性口腔肿块(嗜酸性肉芽肿)的诊断性活检和内科管理。我们讨论了不予治疗的严重风险、包含局部浸润麻醉的特定麻醉方案,以及夜间无人值守情况下的术后护理现实。我们还说明了本院的外科适应症标准以及针对复杂病例的转诊政策。