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【獣医師監修】治らない猫の膀胱炎。実際の症例から読み解く「本当の原因」と「現実的な治療戦略」

【獣医師解説】治らない猫の膀胱炎。実際の症例から読み解く「本当の原因」と「現実的な治療戦略」

「また何度もトイレに行っている」「血尿が出た」「抗生剤を飲ませても、やめるとすぐに再発してしまう」……。
猫ちゃんの繰り返すおしっこのトラブルは、見ているご家族にとっても本当に辛く、先が見えない不安に駆られることと思います。

「とりあえず、いつものお薬(抗生剤)を出しておきますね」
もし、そんな治療を繰り返しているのなら、少し立ち止まる必要があるかもしれません。

今回は、当院で実際に治療を行っているある猫ちゃんのケースを通じて、治りにくい膀胱炎に対して獣医師がどのような考えに基づいて診断を下し、治療の選択をしているのかを、専門的な知見も交えながら詳しく解説します。

実際の症例:繰り返す排尿トラブルに悩む猫ちゃん

プロフィールとこれまでの経過

  • 品種・年齢:中高齢(避妊メス)
  • 既往歴:数年前から頻尿や血尿を繰り返し、特発性膀胱炎(FIC)の疑いで治療歴がありました。さらに過去には、複数の抗生剤が効かない「多剤耐性菌(大腸菌・緑膿菌)」による重度の細菌感染を起こした厄介な履歴があります。

今回の来院時の状況

「数日前に血尿が出て抗生剤を飲ませたら血尿は止まったが、今日からまたおしっこが少ししか出ず、何度もトイレに行く」という主訴でご来院されました。

獣医師の頭の中:どう考え、どう診断を進めるか?

このように何度も再発する子を診る際、私たちは決して「とりあえず薬を変えてみよう」とは考えません。以下のステップで慎重に推論を進めます。

  • まずは「構造的な異常」がないかを探る(画像診断と血液検査)
    頻尿の原因が「結石が詰まりかけている」「腫瘍がある」といった物理的な問題ではないかを超音波(エコー)検査で確認します。今回のエコー検査では、明らかな結石の閉塞はなかったものの、「片側の腎臓の変形・萎縮」と「膀胱壁の石灰化」が見つかりました。血液検査では腎臓の数値は維持されていましたが、片方の腎臓の機能が落ちている可能性があり、これは後々の「薬の選択」に大きく関わってきます。
  • 「細菌がいるか、いないか」を白黒つける(尿検査と培養検査)
    院内の尿検査を実施したところ、白血球や細菌らしきものが確認されました。ここで「よし、すぐに別の抗生剤を出そう」となりがちですが、この子には「過去に強い耐性菌が出た」という履歴があります。ここで当てずっぽうに抗生剤を使うと、菌がさらに強くなり、本当に使える薬がなくなってしまう危険性があります。そのため、外部の検査機関へ「細菌培養・感受性検査」を依頼しました。結果が出るまでには日数がかかりますが、それまではむやみに抗生剤を変えず、皮下点滴を行って物理的に尿を洗い流す(ウォッシュアウト)処置と、ご自宅での積極的な水分補給に留めました。
  • 衝撃の検査結果と確定診断
    数日後、培養検査の結果が返ってきました。結果は「一般細菌:陰性(マイナス)」。つまり、あれだけ頻尿で苦しんでいたのに、今回の膀胱炎の原因は「細菌感染」ではなかったのです。これにより、今回の症状は「猫特発性膀胱炎(FIC)」の再発であると確定診断しました。

専門書から紐解く「特発性膀胱炎(FIC)」の真実

獣医学の専門書のデータは、多くの飼い主様にとって驚くべき事実を示しています。

  • 細菌感染は意外と少ない:頻尿や血尿などの下部尿路疾患のうち、犬では細菌感染が多いのに対し、猫で細菌感染が原因となるのはわずか「13〜18.9%」に過ぎません。猫の尿は非常に濃く、もともと菌が繁殖しにくいのです。
  • 半数以上がFIC:最も多い原因(約55%)が、この「特発性膀胱炎(FIC)」です。

FICは、膀胱そのものの病気というより、ストレスや生活環境(外要因)と、猫自身の神経系や内分泌系の乱れ(内要因)が複雑に絡み合って起きる「痛みを伴う炎症」です。つまり、細菌がいない以上、抗生剤は全く効きません。ここが、治らない膀胱炎の最大の落とし穴です。

なぜ獣医師は「薬」を出し渋るのか?猫における薬の危険性

FICと診断された子に対する次の一手は、「痛みを和らげること」と「尿を薄めること」です。ご家族からは「痛み止めや他のお薬を出してほしい」とご要望をいただくことも多いのですが、獣医師が投薬に慎重になるのには、「猫ならではの代謝の仕組み(薬への異常な弱さ)」という極めて重要な理由があります。

猫は人間や犬とは異なり、肝臓での薬の解毒機能(グルクロン酸抱合など)が非常に特殊で、一部の薬に対して重篤な副作用や致死的な毒性を示します。専門書に記載されている「猫で禁忌(または要注意)となる代表的な薬剤」をリストアップします。人間の風邪薬などを安易に与えることがいかに危険か、ぜひ知っておいてください。

🚫 【絶対的禁忌】猫に絶対に使用してはいけない薬

これらは命に関わるため、いかなる場合も使用されません。

  • アセトアミノフェン(人間用の一般的な解熱鎮痛剤など):メトヘモグロビン血症という致命的な血液異常を引き起こします。代替薬として、猫用のメロキシカムなどが慎重に使用されます。
  • シスプラチン(抗がん剤):急性で致死的な肺水腫を引き起こします。
  • フルオロウラシル(抗がん剤):重篤な神経障害を引き起こします。
  • ベンゾカイン(局所麻酔薬):メトヘモグロビン血症、喉頭浮腫を引き起こします。リグノカインなどで代用します。

⚠️ 【相対的禁忌・要注意】副作用が強く、慎重な減量や代替が必要な薬

以下の薬も、強い副作用が出るため極力使用を避けるか、投与間隔を延ばしたり減量したりして厳重な管理下で扱われます。

  • アスピリン:過呼吸、過敏反応、高体温のリスク(猫の半減期は犬の約4.5倍の36時間にも及びます)。
  • ジアゼパム(抗不安薬・鎮静薬など):肝障害を引き起こすリスクが高いため、他の薬剤への変更が推奨されます。
  • テトラサイクリン系抗菌薬:肝リピドーシス(脂肪肝)、肝酵素上昇、食欲不振、よだれ(流涎)のリスク。
  • フルオロキノロン系抗菌薬:高用量で使用すると「網膜障害(失明)」を引き起こす危険性があります。
  • ケトコナゾール(抗真菌薬):肝障害。イトラコナゾールなどで代用します。
  • グリセオフルビン(抗真菌薬):白血球減少、血小板減少、不可逆性の運動失調。猫免疫不全ウイルス(FIV)感染猫では特にリスクが高まります。
  • アザチオプリン(免疫抑制剤):骨髄抑制。クロラムブシルなどで代用します。
  • クロラムフェニコール(抗菌薬):貧血。
  • ドキソルビシン(抗がん剤):腎不全のリスク(生涯の総量が一定を超えると発生しやすいとされます)。
  • フロセミド(利尿薬):脱水、低カリウム血症。
  • ホスホマイシン(抗菌薬):腎不全のリスク。
  • メトロニダゾール(抗菌薬・原虫治療薬):見当識失調、運動失調、発作、失明などの神経毒性。
  • モルヒネ(鎮痛薬):興奮のリスク上昇。
  • プロピルチオウラシル(抗甲状腺薬):元気・食欲の消失。チアマゾールで代用します。
  • スコポラミン:行動の変化。
  • アポモルヒネ:中枢神経抑制。
  • メゲストロール酢酸塩:乳腺の過形成と腫瘍、嚢胞性子宮内膜炎、糖尿病。

このように、猫にお薬を使うこと自体が常に綱渡りです。
今回の症例でも、FICの痛み止めとして消炎鎮痛剤(NSAIDs)の処方を検討しましたが、NSAIDsには「腎機能低下や胃炎のリスク」があります。エコー検査で「片側の腎臓の萎縮」が見つかっていたこの子にとって、投薬は通常よりもリスクが高い状態でした。そのため、ご家族にしっかりとリスクをご説明し、納得いただいた上で、どうしても必要な時だけ慎重に使用する方針をとりました。

薬よりも確実な治療「MEMO(多面的な環境改善)」

薬のリスクが高い猫だからこそ、専門書でも推奨されており当院でも最重要視しているのが「MEMO(多面的な環境改善)」です。ご自宅で以下の生活環境を見直すことが、FIC治療の根本となります。

  • とにかくお水を飲ませる(尿を薄めて洗い流す!)
    • 常に清潔な水を用意し、水飲み場を「複数設置」する。
    • 器の素材を変えたり、流れるタイプの給水器を試す。
    • ドライフードから、水分含有量の多いウェットフードへ切り替える。
  • トイレを「猫の理想」に近づける
    • トイレの数は必ず「猫の頭数+1個以上」
    • サイズは「猫の体長の1.5倍」のゆったりしたものを選ぶ。
  • ストレスのない空間づくり
    • 見下ろせる場所や、静かに隠れられる場所を作る。
    • 芳香剤やアロマディフューザーの使用は避ける。

特発性膀胱炎(FIC)は、「いかに再発をコントロールし、上手く付き合っていくか」が目標になります。もし再発のサインが出たら、すぐには来院せず、まずはご自宅で1〜2日間積極的にお水を飲ませてみてください。それでもダメなら来院する、というスタンスが理想的です。


【参考】FICだけではない。見逃してはいけないその他の「泌尿器疾患」と当院の外科的アプローチ

今回は特発性膀胱炎(FIC)を中心に解説しましたが、猫ちゃんの排尿トラブルには、他にも命に関わる重要な疾患が隠れていることがあります。専門文献や当院の治療方針をもとに、代表的な疾患とそのアプローチをご紹介します。

  • 尿道閉塞(おしっこが全く出ない緊急事態)
    特に男の子(オス猫)に多く、尿道に結石や炎症産物(栓子)が詰まり、おしっこが全く出なくなる状態です。ペニスの先端に向かうほど尿道が細くなるため、非常に閉塞が起こりやすいです。これは数時間で命に関わる緊急事態です。

    • 高カリウム血症の恐怖:尿が出ないと血液中のカリウム濃度が急上昇し、心電図に異常(徐脈や波形の変化)が現れ、最悪の場合は心停止を引き起こします。当院では心電図モニターを取り付け、点滴で数値をコントロールしながら慎重に処置を進めます。
    • 当院の閉塞解除アプローチ:痛みを伴う処置のため、心臓に負担の少ない鎮静薬を使用します。その上で、尿道を傷つけないように非常に細いカテーテル(3.5Frなど)を慎重に通して閉塞の解除を試みます。
    • カテーテルがどうしても通らない場合:無理に押し込んで尿道を傷つけるようなことはしません。男の子(オス猫)で物理的な閉塞がどうしても解除できない重度なケースでは、「会陰尿道瘻造設術(えいいんにょうどうろうぞうせつじゅつ)」という外科手術に踏み切ります。これは、詰まりやすいペニス先端の細い尿道を取り除き、骨盤側の太い尿道を新たに開口させることで、おしっこの通り道を根本的に広げて命を救い、将来の再発も防ぐ手術です。
  • 尿石症(腎結石・膀胱結石)
    尿中にミネラルが結晶化し、石になってしまう病気です。

    • ストルバイト結石:尿のpHなどをコントロールする「療法食」で溶かす(内科的溶解)ことが可能なケースが多いです。
    • シュウ酸カルシウム結石:一度できると食事では溶かせず、尿路に詰まる危険がある場合は外科的な手術で摘出する必要があります。
  • 膀胱アトニー / 神経原性排尿障害
    おしっこを作れているのに、自力で出せなくなってしまう状態です。

    • 膀胱アトニー:尿道閉塞などが長く続いた結果、膀胱が風船のように限界まで伸びきってしまい、収縮する力を失ってしまった状態です。
    • 神経原性排尿障害:椎間板ヘルニアや外傷などで神経がダメージを受け、脳からの「おしっこを出せ」という指令が膀胱に伝わらなくなっている状態です。

    これらの場合、飼い主様による「圧迫排尿」の習得や、尿道カテーテルの管理、膀胱の収縮を助けるお薬による長期的な治療が必要になります。

「治らない膀胱炎」に悩まれている方は、お家の環境に改善の余地はないかを見直しつつ、人間のお薬を絶対に与えないこと、そしてしっかりとした検査とリスク説明をしてくれるかかりつけ医と二人三脚で、愛猫の快適な毎日を守っていきましょう。


Summary / 概略

[English]
Recurrent urinary issues in cats, such as frequent urination or blood in the urine, are often misdiagnosed as bacterial infections. However, research shows that over 50% of these cases are actually Feline Idiopathic Cystitis (FIC), an inflammation primarily triggered by stress and environmental factors, meaning antibiotics are entirely ineffective. Furthermore, veterinarians must be extremely cautious when prescribing medications to cats due to their unique metabolism; common human drugs like acetaminophen are strictly contraindicated and can be fatal. The most effective and safe treatment for FIC is Multimodal Environmental Modification (MEMO), which focuses on increasing water intake, optimizing litter box conditions, and reducing stress. In life-threatening emergencies like urethral obstruction (commonly seen in male cats), immediate veterinary intervention is required. If catheterization fails, life-saving surgical procedures such as perineal urethrostomy may be necessary.

[中文]
猫咪反复出现的排尿问题(如尿频或血尿)往往被误诊为细菌感染。然而,数据显示超过50%的病例实际上是猫自发性膀胱炎(FIC)。这是一种主要由压力和环境因素引发的炎症,这意味着抗生素对此完全无效。此外,由于猫咪独特的代谢系统,兽医在开具药物时必须极其谨慎;常见的绝大部分人类药物(如对乙酰氨基酚)属于绝对禁忌,甚至可能致命。治疗FIC最安全有效的方法是多方面环境改善(MEMO),主要包括增加饮水量、优化猫砂盆环境以及减少压力源。对于尿道阻塞(常见于公猫)等危及生命的紧急情况,必须立即进行兽医干预。如果导尿失败,可能需要进行会阴尿道造口术等挽救生命的外科手术。