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【症例報告】シニア犬の舌腫瘤(しこり)摘出〜健やかな食生活を守るための早期決断〜

今日お話ししたいこと


愛犬のお口の中を、毎日しっかりとチェックできているでしょうか。お口の中の「小さなしこり」は、見過ごされがちですが、時として生活の質を大きく脅かす原因となります。今回は、徐々に大きくなる舌のしこりを摘出したシニア犬のケースを通じて、早期発見と、舌の外科手術における当院のアプローチについてお話しします。

検査の結果と診断

  • 患者さんデータ:ミニチュアダックスフンド、Aちゃん(仮名)
  • 当時の年齢・体重:10歳、6.9kg
  • 症状と経緯:2年ほど前から舌の右側にポリープのようなしこり(約5mm)があり、少しずつ大きくなってきたとのことでご来院されました。

身体検査および術前検査にて大きなリスクは認められなかったため、確定診断と治療を兼ねて「舌腫瘤の切除生検」および「スケーリング(歯石除去)」を実施しました。

舌腫瘤摘出の手術アプローチ(術式)と注意点

舌は非常に血管が豊富で出血しやすく、食事や呼吸で常に動かす部位であるため、外科手術には特有の技術と配慮が求められます。

  • 局所浸潤麻酔の徹底による痛みの排除
    全身麻酔に加え、当院の基本方針である「局所浸潤麻酔(患部に直接麻酔薬を効かせる処置)」を併用しています。これにより、お口という非常に敏感な部位の手術でも、術後の痛みを劇的に和らげることができます。
  • 術式と縫合の工夫(抜糸のストレスゼロへ)
    今回は舌の右側にできた5mmの腫瘤を、安全なマージン(余白)をとって切除しました。舌は常に唾液に晒され、よく動くため、縫った傷口が開いてしまう「離開(りかい)」のリスクがつきまといます。そのため、体内で自然に溶ける吸収糸(PDS 4-0)を使用して細かく縫合し、動物が極端に嫌がる「後日の抜糸処置」を不要にしています。
  • 術後の注意点とリスク管理
    舌の手術後は、腫れによって気道が狭くなったり、食事がうまく摂れなくなるリスクがあるため、術直後の細やかな観察が不可欠です。また、傷口への負担を考慮し、術後の炎症コントロールにはステロイドを使用せず、適切な抗菌薬のみで安全に管理する方針をとりました。
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もしこのまま様子を見たら(放置した場合のリスク)

「痛がっていないし、ご飯も食べているから」と、お口のしこりを放置した場合はどうなるでしょうか。

犬の口腔内にできる腫瘍は、悪性黒色腫(メラノーマ)や扁平上皮癌など、極めて悪性度が高いものが多く存在します。もしこれらを放置した場合、腫瘍は急速に増大し、舌の筋肉や顎の骨を破壊しながら進行します。

結果として、食事や水を飲むたびに口の中に激痛が走り、常に血や膿が混じったよだれを垂らすようになります。腫瘍がさらに巨大化すれば、気道を塞いで窒息するような息苦しさに襲われ、最終的には水一滴すら飲み込めずに衰弱していくという、極めて残酷な苦痛を強いることになります。

仮に良性であったとしても、大きくなったしこりを自分自身の歯で誤って噛んでしまい、絶え間ない出血と痛みに苦しむリスクが常に伴うのです。

お薬と治療の根拠

術中・術後の感染を防ぐため、体重(6.9kg)に基づき精密に計算した抗菌薬を投与しました。

  • 術中の感染予防:アンピシリンナトリウム(ABPC)210mgを静脈内投与。
  • 術後の内服薬:ご自宅でのケアとして、アモキクリア(抗菌薬)を1回2錠、1日2回、5日間処方し、確実な治癒を目指しました。

また、当院では手術後は原則として早期退院を目指しています。痛みをしっかりコントロールした上で、住み慣れたお家でご家族と過ごすことが、動物の精神的ストレスを最も軽減できると考えているからです。

摘出後の診断結果と、長期的な経過

摘出したしこりを外部の専門機関で病理組織検査に出した結果、「黄色腫(Xanthoma)」という診断でした。これは脂質を取り込んだマクロファージという細胞が集まってできる非腫瘍性(良性)の病変です。悪性の所見は一切なく、手術によって完全に取り切れていることが証明されました。

その後、Aちゃんは現在13歳を迎えていますが、舌のしこりが再発することはなく、シニア期に入った今でも毎日しっかりと自力でご飯を食べ、ご家族と穏やかな時間を過ごしています。あの時、思い切って切除に踏み切ったことが、現在の良好な生活の質(QOL)に直結しています。


当院の検査体制と連携について(ご紹介のポリシー)

当院では、体表の腫瘍摘出や一般的な軟部外科などに幅広く対応しており、顎骨の切除に関しては下顎の3/4までであれば当院にて手術が可能です。しかし、医療設備の面においてCTやMRIといった高度画像診断装置は保有しておらず、腹腔鏡や内視鏡を用いた処置も行っておりません。

そのため、診察の段階で「上顎の切除や、下顎の3/4を超える広範囲な顎骨切除が必要な悪性腫瘍が疑われる場合」や、「高度な精密検査が不可欠である」と判断した場合には、当院で無理に抱え込むことはいたしません。命を救うことを最優先とし、ためらうことなく速やかに設備の整った二次診療施設(専門病院や大学病院)へご紹介いたします。それが、動物たちと飼い主様に対する一番の誠意だと考えているからです。

院長からのメッセージ

お口の中の異常は、飼い主様が「見て、気づいてあげること」が一番の予防線です。

「小さなしこりだから大丈夫」と自己判断せず、少しでも違和感があれば、まずはご相談ください。早期に正体を突き止め、適切なルート(当院での治療、または専門病院へのご紹介)を選択することが、愛犬の痛みと苦しみを未然に防ぎ、健やかなシニアライフを守る唯一の方法です。

Summary

[English]
Case Report: Tongue Mass Excision in a Senior Dog. A miniature dachshund presented with a gradually enlarging mass on the tongue. We performed a surgical excision using local infiltration anesthesia to minimize pain and employed specific suturing techniques to avoid the stress of stitch removal later. Pathology confirmed a benign Xanthoma. Leaving oral masses untreated can lead to severe pain, bleeding, and life-threatening difficulties in eating or breathing. Early detection and appropriate surgical intervention—or referral to a specialized facility when advanced imaging or extensive surgery (such as maxillectomy or excisions exceeding 3/4 of the mandible) is required—are crucial for preserving a good quality of life in senior dogs.

[中文]
病例报告:老年犬舌部肿块切除术。一只迷你腊肠犬因舌部肿块逐渐增大而就诊。我们采用局部浸润麻醉进行了手术切除,以最大程度地减轻疼痛,并使用了特殊的缝合技术,免去了日后拆线的压力。病理结果证实为良性黄色瘤。如果对口腔肿块置之不理,可能会导致剧烈疼痛、出血以及危及生命的进食或呼吸困难。早期发现并进行适当的手术治疗,或在需要高级影像学检查及大范围手术(如上颌骨切除或超过四分之三的下颌骨切除)时转诊至专科医院,对于维持老年犬良好的生活质量至关重要。