室内での思わぬ事故:ソファからの転落が引き起こした膝蓋骨脱臼(パテラ)の手術症例
「まさか、いつものソファから落ちただけで…」
動物病院では、ご家族からのそんな悲痛な声を聞くことが決して珍しくありません。今回は、室内での予期せぬ事故をきっかけに、膝蓋骨脱臼(パテラ)の手術を余儀なくされた小型のミックス犬の症例をご紹介します。同じように愛犬のパテラ手術を検討されているご家族の参考になれば幸いです。
異変の始まりと決定的な事故
- 当初、この子は散歩中に時折、右後ろ足をスキップするように歩く様子が見られていました。
- 診察の段階では右膝のパテラは「グレード2(時々外れるが自然に戻る状態)」であり、しばらくは痛み止めを使いながら経過を観察していました。
- しかし、ある日状況が一変します。自宅のソファから誤って落下してしまったのです。
- 落下直後から右後ろ足を着くことができなくなり、強い痛みを伴う状態に陥りました。その後の検診では、常に膝のお皿が外れてしまう「グレード3」という非常に不安定な状態にまで進行していることが確認されました。
困難な決断と手術:パテラの根本治療とは
- 体重わずか4キロ台の小さな体。全身麻酔を伴う整形外科手術を行うことは、ご家族にとっても大変重く、苦しい決断だったはずです。
- 膝蓋骨脱臼(パテラ)は、膝のお皿が本来あるべき太ももの骨の溝から外れてしまう病気です。自然治癒することはなく、グレード3の不安定な状態を放置すれば、軟骨がすり減って慢性的な痛みを引き起こすだけでなく、前十字靭帯の断裂などさらなる重傷を招く危険性が高まります。再び痛みのない生活を送るためには、根本的な治療が必要でした。
- パテラの手術は、単に外れたお皿を指で元の位置に戻すような単純なものではありません。再脱臼を防ぐため、その子の骨の変形度合いに合わせて複数の術式を組み合わせます。
- 今回の手術では、お皿が本来収まるべき太ももの骨の溝(大腿骨滑車溝)が浅くなっていたため、お皿がしっかりとハマるように溝を適切な深さに削る処置(滑車溝深化・造溝術)を行いました。
- 同時に、長年の脱臼や落下によって歪んでしまっていた足の骨の配列(アライメント)を真っ直ぐに整え、関節が正しい軌道で動くように根本的なアプローチを行っています。丁寧な麻酔管理のもと、手術自体は無事に終了し、レントゲンでも綺麗な骨の配列が確認されました。

術後の回復と、偶然重なった別の試練
- 手術を終え、整形外科的な足の回復自体は非常に順調にスタートしました。
- 術後早い段階でしっかりと自分の足をついて歩けるようになり、筋肉の萎縮も見られませんでした。現在に至るまで、手術をした右膝の脱臼は起きていません。
- 一方で、足の順調な回復とは全く別の出来事として、安静に過ごす経過観察の期間中に消化器系の不調(嘔吐など)に見舞われる時期がありました。
- エコー検査やレントゲン検査の結果、胃の拡張や胃壁の腫脹が確認されましたが、これは「足の手術そのものが引き起こした合併症や後遺症」ではありません。
- 安静生活によるストレスや食事の変更など、偶然重なった別の要因による胃腸のトラブルでした。
- 動物の体はとてもデリケートであり、怪我の治療で安静にしている期間に、全く別の不調が表面化することもあります。
- 本症例でも、足の回復を見守りつつ、並行して内服薬を用いた消化器疾患の治療を独立して行うことで、現在では胃腸の状態もすっかり落ち着いています。整形外科だけでなく、全身の健康状態を包括的にケアすることの重要性を物語っています。
日常に潜む危険から愛犬を守るために
- 現在、この子は手術をしていない左膝にも脱臼の素因(グレード2〜3)を抱えており、引き続き注意深い観察が必要です。
- 今回の症例が教えてくれるのは、「日常の些細な段差が、小型犬の関節にとっては大きな脅威になる」という厳しい現実です。ソファやベッドへの昇り降り、フローリングでの滑りなど、室内には関節に負担をかける要因が溢れています。愛犬を守るためにも、ステップの設置や滑り止めマットの活用など、今日からできる環境の見直しをぜひご検討ください。
🇬🇧 English Summary
- The Hidden Dangers at Home: A Case of Patellar Luxation Surgery After a Fall
- A small mixed-breed dog, previously diagnosed with a mild Grade 2 patellar luxation, suffered a severe worsening to Grade 3 after an accidental fall from a sofa. The kneecap became continuously dislocated, causing significant pain. Left untreated, a Grade 3 luxation can lead to severe cartilage wear and cranial cruciate ligament tears. Thus, surgical intervention was required.
- The orthopedic surgery involved not just replacing the kneecap, but structurally deepening the femoral groove (trochleoplasty) and realigning the bone structure to ensure the knee tracks properly.
- While the dog experienced some completely unrelated gastrointestinal issues during the recovery phase, the orthopedic surgery itself was a complete success. The dog has recovered its mobility and is now walking comfortably again without any signs of dislocation in the operated leg. This case serves as a crucial reminder of the unexpected dangers in our everyday homes—such as jumping off furniture or slipping on floors—and highlights the importance of creating a joint-friendly environment for small breeds.
🇨🇳 文章摘要 (Chinese Summary)
隐藏在家中的危险:由跌落引发的髌骨脱位手术病例
一只小型混血犬原本患有轻度的2级髌骨脱位,但在一次从沙发上意外跌落后,病情急剧恶化至3级。由于膝盖骨持续脱出并伴随剧烈疼痛,如果不进行治疗,3级脱位会导致软骨严重磨损和前十字韧带撕裂。因此,这只小狗不得不接受了骨骼复位手术。
髌骨手术不仅仅是将膝盖骨推回原位,还包括加深股骨滑车沟和调整骨骼排列,以确保关节能够正确运动。
虽然在康复期间,狗狗偶然出现了一些与骨科手术完全无关的肠胃不适,但腿部的手术非常成功。目前它的关节已经恢复稳定,术后的右腿没有再出现脱位的情况,并且已经能够再次平稳、舒适地行走了。这个病例深刻地提醒我们,沙发的高低落差、易滑的地板等日常家居环境中,潜伏着对小型犬关节的巨大威胁。为宠物采取防滑措施、设置宠物台阶等,是保护它们免受意外伤害的关键。