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【症例報告】犬の去勢手術(血管シーリングシステム使用)と周術期の疼痛・安全管理

今日お話ししたいこと


本日は、若齢の小型犬(ペキニーズとチワワのミックス犬、オス)における去勢手術の症例について解説します。外科手術は、単に生殖能力を絶つことだけが目的ではありません。事前の綿密な検査と適切な麻酔・鎮痛管理、そして生涯を通じた予防医療の計画を立てる重要な機会です。本稿では、当院の外科的アプローチと周術期管理の論理について、事実に基づきお伝えします。

幼少期からの予防医療とワクチン接種

外科手術を安全に行うためには、ベースとなる健康状態の維持が不可欠です。この患者さんでは、幼少期より以下の予防医療を徹底して実施しています。

  • 混合ワクチン接種:5種混合ワクチン(ノビバックDHPPI)を接種済みです。当院では、無駄な過剰接種を避けつつ確実な免疫を獲得させるため、幼少期に2〜3回の基礎接種を行い、1歳時での追加接種以降は「3年ごと」の接種プロトコルを採用しています。本症例もこの方針に則り、次回の追加接種は3年後で計画しています。なお、生活環境等によりレプトスピラ感染症の予防まで行う場合は、レプトスピラ2種ワクチンについてのみ「1年ごと」の追加接種を行っています。
  • 寄生虫予防:体重3.95kgの時点でパナメクチンを6ヶ月分処方し、フィラリアおよび内部寄生虫の継続的な予防を行っています。ただし、近年マダニが媒介する致死的な人獣共通感染症であるSFTS(重症熱性血小板減少症候群)のリスクが全国的に拡大している観点から、当院では今後の寄生虫予防において、確実なノミ・マダニ駆除効果を持つ「シンパリカ」等への切り替えを強く推奨しています。動物の健康はもちろん、ご家族の命を守るためにも予防医療のアップデートは欠かせません。

検査の結果と「外科的適応」の判断

手術当日の事前検査では、麻酔リスクを評価するための客観的なスクリーニングを行いました。

  • 血液検査:腎数値(BUN 15.8 mg/dL、CRE 0.58 mg/dL)、肝機能(GOT 29 U/L、GPT 35 U/L、ALP 117 U/L)、およびタンパク(TP 5.9 g/dL、ALB 4.4 g/dL)はいずれも正常範囲内でした。血球計算においても貧血や重度炎症の所見はありません。
  • 画像・身体検査:胸部レントゲン検査を実施し、心肺機能に明らかな異常がないことを確認しました。複数回の事前の聴診においても心雑音は認められていません。
  • 併発疾患の評価:術前の段階で包皮炎の症状が認められました。また、軟口蓋過長症(喉の奥の肉が長く呼吸を妨げる疾患)の疑いおよび乳歯遺残のチェックも実施しています。軟口蓋過長症は麻酔時の呼吸器リスクを上昇させるため、事前にそのリスクについてご家族へ十分なご説明と同意の取得を行いました。

もしこのまま様子を見たら(放置した場合のリスク)

オスの犬において、適切な時期に去勢手術を行わず放置した場合、加齢に伴い以下のような具体的かつ残酷な疾患リスクを背負うことになります。

  • 精巣腫瘍・前立腺疾患:ホルモンの影響により、前立腺肥大症や精巣の腫瘍化が高確率で発生します。これらは排尿障害や血便、激しい痛みを伴い、老齢期における生活の質を著しく低下させます。
  • 会陰ヘルニア:筋肉が萎縮し、腸や膀胱がお尻の皮膚の下に脱出する重篤な疾患です。自力での排便が困難になり、最終的にはより侵襲の大きな外科的な整復が必要となります。
  • 包皮炎の悪化:本症例でもすでに認められていますが、未去勢である限り慢性的な炎症と分泌物が継続し、衛生環境の悪化と不快感を招きます。

選択した術式とその根拠(周術期の鎮痛管理)

本症例では、これらの将来リスクを排除するため去勢手術(精巣摘出)を実施しました。当院では、手術による身体的負担と痛みを最小限にするため、以下のプロトコルを採用しています。

  • 血管シーリングシステムの使用と出血の最小化:体内に縫合糸(異物)を残さず、熱エネルギーで血管を圧着・切断する機器を使用し、縫合糸反応性肉芽腫のリスクを排除します。
  • 麻酔・鎮痛プロトコル:プロポフォールによる麻酔導入後、オピオイドであるブプレノルフィンを用いて確実な鎮痛を行います。術前および術中にはアトロピンを適切量投与し、徐脈を防ぎ心拍数を維持しました。
  • 術中の循環・感染管理:乳酸リンゲル液の静脈点滴を確保し、術中の血圧低下に対してはドパミンの持続投与を行い、主要臓器への血流を維持しています。また、術中感染予防として抗生剤を投与しました。
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術後管理と夜間監視について

当院では、犬の去勢手術は原則として日帰りで実施します。また、開腹を伴うより大きな外科手術の場合でも、術後の入院は原則1〜3日とし、静脈点滴が必要な期間のみに留めています。これは、見知らぬ環境での入院が動物に与える精神的ストレスを重く見ており、可能な限り早期に家庭内でのリハビリへ移行すべきという論理に基づきます。

また、夜間の病院は「スタッフ不在(無人)」となります。この事実を隠すつもりはありません。しかし、入院室にはペットカメラを設置し、遠隔監視を徹底しています。もし動物が疼痛で眠れていない、あるいは異常な挙動を示していると判断した場合は、院長自らが深夜であっても病院へ赴き、追加の鎮痛剤投与や処置を行う体制をとっています。痛みを絶対に見過ごさないことが、当院の術後管理の絶対的な基準です。

起こり得る合併症と、術後の見通し

どのような手術においても、術部感染や癒合不全といった合併症のリスクはゼロではありません。本症例においては、術後7日目の診察にて、術部に少量の膿が認められました。これに対し、直ちに抗生剤(アモキクリア)を1日2回、3日分処方し、感染の鎮静化を図りました。

その結果、術後10日目の再診時には膿は完全に消失し、術後14日目には無事に抜糸を完了しています。その後の経過でも心雑音等の異常はなく、良好な治癒を確認しました。合併症は起こり得るものとして想定し、誤魔化さずに早期発見・早期介入することが重要です。

当院の外科体制と高度連携について

  • 当院では、後腹膜より腹側の一般軟部外科、および体表腫瘍(皮弁形成を含む)の切除には広く対応しており、肝臓腫瘍についても主要血管を巻き込まない辺縁切除までは当院で完遂可能です。
  • しかし、患者の命を最優先に考える論理から、自院の設備的限界も明確に設定しています。副腎摘出などの最深部アプローチ、尿管結石摘出、および事前の検査で重度貧血が想定され大量の輸血準備が必要な症例については、当院での手術は適応外とし、速やかに高度医療を担う二次施設・専門医への紹介を行っています。

院長からのメッセージ

手術とは、動物の体にメスを入れるという極めて侵襲的な行為を、医学的根拠をもって正当化するプロセスです。だからこそ、我々は「なぜその手技を選ぶのか」「痛みをどう制御するのか」に徹底的にこだわります。手術を終えて終わりではなく、その後に起こり得る合併症のリスクまで含めてご家族と共有し、誠実に対処していくことが我々獣医師の責務であると考えています。


English Summary

This case report details the castration surgery and perioperative pain management of a young small-breed dog. Our clinic prioritizes patient safety and comfort, utilizing a vessel sealing system to minimize bleeding and eliminate the need for foreign suture materials in the body. We emphasize the importance of comprehensive preoperative exams and tailored anesthesia protocols, including the administration of buprenorphine and propofol. Postoperatively, we advocate for early discharge to reduce patient stress, supported by remote 24-hour monitoring via pet cameras and immediate intervention for any signs of pain. We also highlighted the significance of continuous preventive care, including vaccinations and comprehensive parasite control (advocating for tick prevention against SFTS using medications like Simparica). By maintaining strict surgical standards and a clear referral policy for highly complex cases, we ensure the highest level of care and integrity for our patients.

中文摘要 (Chinese Summary)

本病例报告详细记录了一只小型犬的去势手术及围手术期的疼痛管理。我们诊所将患者的安全和舒适放在首位,采用血管闭合系统以最大程度地减少出血,并避免在体内遗留异物缝合线。我们强调全面的术前检查和量身定制的麻醉方案(包括使用丙泊酚和丁丙诺啡)的重要性。在术后管理方面,为了减轻动物的精神压力,我们提倡尽早出院,并通过宠物摄像头进行24小时远程监控,确保在发现任何疼痛迹象时能够立即干预。此外,我们还强调了包括疫苗接种和全面寄生虫预防(提倡使用如Simparica等药物预防蜱虫以防范SFTS)在内的持续性预防医疗的重要性。通过保持严格的外科标准以及针对高难度病例的明确转诊政策,我们致力于为患者提供最高水平的医疗服务和诚信保障。