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【症例報告】猫の肥大型心筋症(HCM)と重度高脂血症~「無症状」に潜むリスクと、食事から見直す根本的ケア~

【症例報告】猫の肥大型心筋症(HCM)と重度高脂血症~「無症状」に潜むリスクと、食事から見直す根本的ケア~

今日お話ししたいこと


体重・食事管理と心臓の密接な関係について

本日は、当院で定期的に心臓の検診を行っている猫の「Aちゃん(仮名・オス・約4〜5歳・ブルーホワイト)」の症例を通じて、猫に最も多い心臓疾患である「肥大型心筋症(HCM)」と、体重・食事管理の密接な関係についてお話しします。

Aちゃんは現在、心臓の筋肉が厚くなる所見がありますが、普段は全く無症状で元気に過ごしています。しかし、先日の定期検診で「過度な体重増加」と「重度の高脂血症」が発覚しました。一見すると心臓とは無関係に思える「体重」や「血液中の脂肪」が、実は心臓の未来を大きく左右します。お薬を無闇に増やす前に、私たち獣医師と飼い主様が一緒に取り組むべき「本質的な治療」について、最新の知見を交えてお伝えします。

検査の結果と診断

  • 心臓の状態(エコー検査):左室心筋(心臓の筋肉)の厚みは6〜7mmと、正常値より厚くなっています。しかし、血液の逆流やうっ血(血液のよどみ)の兆候はなく、心臓の働き自体は非常に良好にコントロールされています。
  • 体重と血液検査:体重は以前より増加して8.2kgに到達していました。さらに、血液中の中性脂肪(TG)が測定上限の500 mg/dLを振り切る重度の高脂血症でした。
  • 診断と背景:心臓病自体の悪化ではなく、同居している猫ちゃんのご飯を横取りしてしまっていることによる「過体重と高脂血症」が、現在の最大の臨床的課題です。

もしこのまま様子を見たら(放置した場合のリスク)

「今は元気で心臓も悪化していないから、食事はそのままで様子を見よう」と判断した場合、Aちゃんの体には将来的に以下のような恐ろしいリスクが待ち受けています。

  • 急性膵炎の恐怖:中性脂肪が500を超える状態を放置すると、すい臓に激しい炎症が起こるリスクが極めて高くなります。これはのたうち回るほどの激痛と絶え間ない嘔吐を引き起こし、短期間で命を奪うことのある恐ろしい状態です。
  • うっ血性心不全(肺水腫):8.2kgの重い体を動かすために、肥厚して余裕のない心臓は常に過労状態に陥ります。限界を超えると肺に水が溜まり、「陸の上にいながら水に溺れているような、絶望的な息苦しさ」に襲われます。
  • 動脈血栓塞栓症(ATE):心臓に負担がかかり続けると、心房内で血液がよどんで血栓(血の塊)が形成されます。これが足の血管に詰まると、突然の激痛とともに後ろ足が氷のように冷たくなり、全く動かなくなる(麻痺)という、猫にとって最も残酷で恐ろしい合併症を引き起こします。

お薬と治療の根拠

最新の獣医学の知見に基づくと、肥大型心筋症が進行して症状が出た場合、以下のようなお薬が標準的に使用されます。

  • 肺水腫(心不全)を起こした場合:フロセミド(利尿剤)を 1 mg/kg BID(1日2回) 等の用量で使用し、体に溜まった水を強制的に抜きます。
  • 血栓リスクが高い場合:クロピドグレル(抗血小板薬)を 1〜3 mg/kg SID(1日1回)あるいは 18.75 mg/cat 投与し、血液が固まるのを防ぎます。
  • なぜ今回はお薬を追加しなかったのか:今回のAちゃんには、これらのお強いお薬は一切追加しませんでした。なぜなら、Aちゃんは現在「無症状」であり、明確な左心房の重度拡大や血栓の兆候がないため、これらのお薬を予防的に飲むことは、腎臓への負担や副作用のリスクを上回らないと判断したからです(現在服用中の、心臓の負担を和らげるACE阻害薬のみ継続しています)。
  • 最大の治療は「食事」:今回、私がアドバイスした最大の治療は、「繊維質の多いごはんに変え、摂取総カロリーを減らすこと」です。
  • 同居の猫ちゃんも含めて、可溶性繊維が豊富で満腹感が得られる食事へ全面的に変更します。
  • お薬の量を細かく計算して増やすことよりも、毎日の摂取総カロリーを適正化し、3ヶ月で7.9〜8.0kgまで緩やかに減量することこそが、心臓の過労を防ぎ、脂質異常を治す最も科学的で確実な治療法なのです。

当院の検査体制と連携について

  • 当院では、肥大型心筋症の早期発見や定期的な状態把握に不可欠な「血液生化学検査、デジタルレントゲン、そしてカラードプラを用いた精密な心エコー検査」を完備しており、心筋の厚みや血流の異常をミリ単位で評価することが可能です。
  • しかし、もし仮に血栓症を起こしてしまった場合の「バルーン血栓除去術」や、さらに複雑な疾患が疑われ全身麻酔下でのCT・MRIといった高度な画像診断が必要になった場合、当院の設備(CT/MRI非保有)では対応しきれない領域がございます。
  • その際は、動物の命を救い、痛みを一秒でも早く取り除くことを絶対的な最優先とし、迷わず設備の整った二次診療施設や夜間救急病院へ連携・ご紹介いたします。「自院で抱え込まず、その子にとっての最善の選択肢を誠実に提示する」ことが、当院のポリシーです。

院長からのメッセージ

Aちゃんのご家族様へ。いつも定期的に通院していただき、本当にありがとうございます。心臓の状態が長期間にわたりきれいに保たれているのは、日頃から注意深く見守り、お薬の管理をしてくださっているご家族様のおかげに他なりません。

「同居している別の子のご飯を食べてしまう」という多頭飼育ならではのお悩みは、管理が非常に難しく、ご苦労も多いことと思います。しかし、後になってお薬の種類を増やしたり、息苦しくなってから太い針で点滴を打つことは、動物にとって極めて大きなストレスになります。

「繊維質の多いごはんに変え、摂取総カロリーを減らすこと」は、日々の管理において少し根気が必要かもしれませんが、飼い主様にしかできない、最も優しくて、かつ最も力強い治療です。

焦らず、1ヶ月に100gずつの減量ペースで十分です。繊維質の多いご飯に変更することでウンチがパサパサになるなど、ご不安なことがあればいつでもご相談ください。これからも、Aちゃんが苦しい思いをすることなく穏やかな日々を過ごせるよう、論理的かつ誠実にサポートさせていただきます。

Summary (English / 中文)

  • English: In this case report, we discuss a cat with suspected hypertrophic cardiomyopathy (HCM) complicated by severe hyperlipidemia and overweight. Although the cat is asymptomatic with well-controlled cardiac function, the extreme triglyceride level (>500 mg/dL) poses high risks of acute pancreatitis, congestive heart failure, and arterial thromboembolism if left unmanaged. Instead of prescribing aggressive medications like furosemide (1 mg/kg BID) or clopidogrel (1-3 mg/kg SID) which carry potential side effects, our primary scientific intervention is dietary management. By switching to a high-soluble-fiber, low-calorie diet and strictly managing total caloric intake, we aim for a gradual weight reduction. This approach is the gentlest yet most effective way to prevent cardiac overload and correct lipid metabolism. We are fully equipped for early detection via echocardiography and blood tests, but we are committed to referring patients to secondary care facilities for advanced procedures like CT/MRI or thrombectomy when necessary to save lives.
  • 中文: 在本病例报告中,我们探讨了一只疑似患有肥厚型心肌病(HCM)并伴有重度高脂血症和超重的猫。尽管该猫目前无症状且心脏功能控制良好,但极高的甘油三酯水平(>500 mg/dL)若不加以控制,将带来急性胰腺炎、充血性心力衰竭和动脉血栓栓塞的极高风险。我们没有选择开具可能带来副作用的强效药物如呋塞米(1 mg/kg BID)或氯吡格雷(1-3 mg/kg SID),而是将饮食管理作为首要的科学干预手段。通过改用富含可溶性纤维的低卡路里饮食并严格控制总热量摄入,我们旨在实现缓慢减重。这是防止心脏过载和纠正脂质代谢的最温和且最有效的方法。我们配备了通过超声心动图和血液检查进行早期检测的全面设备,但也承诺在需要时将患者转诊至二级医疗机构进行CT/MRI或血栓切除等高级治疗,以挽救生命。