診察時間
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手術時間12:00-15:00
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今日お話ししたいこと
本日は、保護直後に重度の口内炎と鼻炎、くしゃみなどの症状から食欲廃絶に陥った猫の患者さんの外科的介入と、その後の内科治療の経過について解説します。口腔内に多発性の腫瘤(できもの)が確認されたため、痛みの原因を取り除き、悪性腫瘍を鑑別するための手術を実施しました。外科で一時的な痛みを拭い去った後にも続く、臨床現場のシビアな現実を共有します。
初診時の体重は2.12kgと小柄で、極度の恐怖心から保定が困難な患者さんでした。身体検査および画像検査の結果、左鼻腔の閉塞音、ならびに腹部エコー検査で肝臓のシスト(嚢胞)と両腎臓の腫大(約4cm)が認められました。血液検査では、重度の慢性炎症を示す総タンパク(TP)の著しい上昇(11.0 g/dl以上)が確認されています。
口腔内の激しい痛みにより食餌が不可能な状態であり、舌や軟口蓋、扁桃に多発する腫瘤の悪性・良性の鑑別が不可欠であるため、全身麻酔下での生検および抜歯が外科的適応と判断しました。
口腔内の激痛を放置し「様子を見る」ことは、患者さんにゆっくりと餓死を強いる結果となります。猫の場合、食欲不振による絶食状態が数日続くと、肝臓に急激に脂肪が蓄積する「肝リピドーシス(脂肪肝)」という致死的な合併症を引き起こします。また、咽頭部の腫瘤が増大し続けた場合、物理的に気道を塞ぎ、最終的には窒息死に至る残酷なリスクが存在していました。






事前の検査で腎臓の腫大など、将来的な腎機能低下を示唆する所見があったため、全身麻酔による血圧低下が腎臓に与える虚血性ダメージ(致命的な腎不全への進行)を極限まで警戒する必要がありました。
当院では、麻酔薬の全身への投与量を必要最小限に抑えるため、局所浸潤麻酔を徹底して併用しています。痛みの発生源となる神経経路の末端を局所麻酔薬で直接遮断することで、術中の急激な血圧低下や自律神経反射を防ぎ、基礎疾患を持つ動物の麻酔の安全域を論理的に広げています。
悪性腫瘍の除外と、口腔内の疼痛緩和を目的とし、以下の術式を選択しました。





術後の致死的合併症について:
口腔内および咽頭周辺の手術では、術後の出血による誤嚥、あるいは組織の浮腫(腫れ)による気道閉塞(窒息)という数分で命を落とす合併症に細心の注意を払う必要があります。
当院では、動物の精神的ストレス(特に本患者さんのような極度に怖がりの性格)を考慮し、術後は早期退院(原則1〜3日)の方針をとっています。静脈点滴が必須な期間のみ入院管理とし、速やかに住み慣れた家庭内リハビリへ移行させます。
また、夜間の入院管理において、当院はスタッフ不在(無人)となります。ペットカメラを用いた遠隔監視を徹底し、動物が疼痛で眠れていない等の異常を検知した場合は、深夜であっても院長が病院へ赴き、追加の鎮痛薬投与を行います。痛みを放置することは決してありません。しかし、自宅から病院までは約30分の移動時間を要します。術後の気道閉塞など、数分を争う致死的な急変に対しては物理的に即時対応できない限界がある事実を、隠さずにお伝えしています。
切除した組織の病理検査結果は、悪性腫瘍ではなく免疫の過剰反応による「炎症性ポリープ」でした。これを受け、術後はステロイド剤を用いた免疫抑制・抗炎症治療へ移行し、症状の緩和が見られました。
極度の恐怖心を持つ本患者さんに対し、無理やり口をこじ開けての視診は、パニックによる呼吸困難や急性心不全のリスクを伴います。そのため、血液検査の炎症マーカーを客観的な指標とし、無駄な身体的負荷を避けるアプローチをとりました。
しかし、術後約半年が経過した頃、食餌量が低下し、体重が2.08kgまで減少しました。再度の検査により、我々は以下の致死的な現実に直面しました。
病態を正確に把握し根本治療を探るには、麻酔下での肝臓および腎臓の組織生検が論理的には必要です。しかし、腎不全が進行し体力が削られた現在の状態において全身麻酔をかけることは、残存する腎機能を完全に破壊し、即座に死に至らしめる極めて高いリスクを伴います。我々は「致死的な麻酔リスク」を回避し、吐き気止めや肝胆道系の薬、皮下点滴による支持療法(対症療法)を選択しました。外科で一時的に痛みを克服しても、基礎疾患の進行という残酷な現実からは逃れられません。
獣医療において「絶対に助かる」「すべてうまくいく」という美談は存在しません。我々ができるのは、疾患がもたらす残酷なリスクや、病院の設備の限界、麻酔がはらむ致死的な危険性を飼い主様と論理的に共有することだけです。その上で、厳しい現実から目を背けず、現時点で取り得る最善の手段を誠実に提供してまいります。
This case report details the surgical intervention (tooth extractions and excisional biopsy) for a rescue cat suffering from severe stomatitis and multiple oral masses, later diagnosed as inflammatory polyps. Due to suspected underlying renal and hepatic issues, a strict local infiltration anesthesia protocol was utilized to minimize systemic hypotension risks. Post-operatively, our clinic’s early-discharge policy and remote night-monitoring system were employed. Long-term follow-up revealed the progression of renal failure and hepatic lipidosis, highlighting the severe realities and limitations of medical management in highly stressed feline patients.
本病例报告详细记录了一只患有严重口炎和多发性口腔肿块(后确诊为炎性息肉)的获救猫的牙齿拔除和切除活检手术过程。由于怀疑存在潜在的肾脏和肝脏问题,手术采用了严格的局部浸润麻醉方案,以尽量减少全身性低血压的风险。术后实施了本院的早期出院政策和夜间远程监控系统。长期的随访显示患者出现了肾衰竭和脂肪肝的恶化,凸显了在极度紧张的猫科动物中进行内科管理的严峻现实与局限性。