047-700-5118
logo logo

診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-18:00
手術時間12:00-15:00
水曜・日曜午後休診

banner
NEWS&BLOG
【症例報告】複数の慢性疾患と向き合うワンちゃんについて






17歳の軌跡 ― 複数の慢性疾患と向き合うワンちゃんとの、緩和ケアという選択

17歳の軌跡 ― 複数の慢性疾患と向き合うワンちゃん

今回は、動物たちがご長寿になったとき、私たちとご家族がどのように病気と向き合い、支えていくのか、ある17歳のトイプードルさんの物語を通してご紹介します。
彼女の軌跡は、シニア期のどうぶつ医療における「緩和ケア」の重要性と、ご家族との連携がいかに大切かを教えてくれます。

彼女が向き合う、複雑な健康課題

ご高齢の動物は、人間と同じように、一つではなく複数の健康課題を同時に抱えることが少なくありません。この子が向き合っている主な慢性疾患について、少し詳しくご説明します。

  • 慢性腎臓病
    腎臓は、血液中の老廃物を濾過し、尿として排泄する重要な臓器です。慢性腎臓病はこの機能が徐々に失われていく状態で、体内にBUN(尿素窒素)クレアチニンといった毒素が蓄積し、様々な体調不良を引き起こします。また、尿を濃縮できなくなるため、水分が失われやすく、脱水に陥りがちです。
  • 慢性膵炎
    膵臓は、食物の消化を助ける「消化酵素」を分泌する臓器です。膵炎は、この消化酵素が何らかの原因で膵臓内で活性化してしまい、自らの組織を消化し始めてしまう、激しい痛みを伴う病気です。この子は、膵炎の指標となるリパーゼ(LIP)という酵素の数値が、測定上限値を超えるほどの重篤な急性増悪を経験したこともあります。
  • 胆嚢疾患(胆泥症)
    胆嚢は、脂肪の消化を助ける胆汁を蓄える袋です。胆泥症とは、この胆汁が濃縮されてヘドロのように溜まってしまう状態で、胆汁の流れを悪くし、胆嚢炎や、時には膵炎の引き金になることもあります。
  • 変形性脊椎症
    加齢に伴い、背骨の関節が変形していく病気です。レントゲンでは、椎骨同士をつなぐように骨のトゲ(骨棘)が形成される「ブリッジ」が確認されており、これが痛みや動きのぎこちなさの原因となることがあります。

生命の危機を乗り越えて

これほど多くの課題を抱えながらも、彼女はご家族のケアのもと穏やかに暮らしていました。しかし、深刻な事態が発生します。
39.6℃の高熱と、極度の貧血、そして血小板が致命的なレベルまで減少するという、生命の危機的状況に陥りました。

これは「敗血症(細菌感染が全身に波及した状態)」が強く疑われるもので、私たちはただちに提携する動物救急センターでの集中治療を依頼しました。彼女の生命力と、ご家族の迅速なご判断がなければ、乗り越えることは難しかったかもしれません。

生活を支えるための「緩和ケア」というアプローチ

危機を乗り越えた今、私たちの治療目標は「完治」ではなく、彼女が穏やかな毎日を送るための「緩和ケア」と「支持療法」です。その具体的な内容をご紹介します。

  • 週2回の皮下点滴
    慢性腎臓病で失われがちな水分を直接補給し、脱水を防ぎます。これにより体内の血液循環が改善され、腎臓で濾過しきれずに溜まった毒素を希釈し、体外へ排出しやすくする効果が期待できます。
  • 専門的な内服薬による管理

    • 膵炎に対して:「カモスタット」
      「蛋白分解酵素阻害剤」と呼ばれ、膵炎の本体である消化酵素の過剰な働きをブロックし、膵臓の自己消化と炎症を抑制します。
    • 胆泥症に対して:「ウルソデオキシコール酸」と「スパカール」
      ウルソは胆汁の性状を改善して流れを良くし、スパカールは胆汁の分泌そのものを促進します。この二つの相乗効果で、胆泥の排出をサポートします。

私たちが最も大切にしていること

「検査を運ぶ過程では解決は目指さない。価値観の共有と連携」

これは彼女のカルテに記された、私たちのチームが常に立ち返るべき指針です。

血液検査の数値を正常範囲に収めることだけが治療のゴールではありません。彼女が痛みを感じず、食欲を保ち、ご家族と共に安心できる時間を過ごせているか。その「生活の質(QOL)」を最大限に尊重し、ご家族のお気持ちと価値観に寄り添いながら、最善の道筋を一緒に探していくこと。それこそが、シニア期にある動物たちの緩和ケアにおいて、最も重要だと私たちは考えています。


ご高齢のどうぶつとの暮らしは、ご不安も多いことと存じます。しかし、病気を正しく理解し、ご家族と獣医療チームが同じ目標に向かって協力することで、穏やかでかけがえのない時間を紡いでいくことは可能です。

もし同様のお悩みをお持ちでしたら、どうぞ一人で抱え込まず、私たちにご相談ください。