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【症例報告】飼い主様の「匂い」が招いた重篤な誤飲事故。多臓器不全と皮膚壊死を乗り越えて。

猫ちゃんと暮らしていると、脱ぎ捨てた靴下や、外から帰ってきた時のマスクに、異常なほど興味を示すことはありませんか?
スリスリと体を擦りつけたり、時には執拗に舐めたり噛んだり…。

これは、猫ちゃんにとって「大好きな飼い主様の匂い(足の裏や口元の匂い)」が強くついているためで、安心感や所有欲からくる行動だと言われています。

しかし、この「大好きな匂い」への執着が、時に取り返しのつかない事故を招くことがあります。
今回は、靴下とマスクの複合誤飲により、一時は生死の境をさまよった猫ちゃんの、壮絶な闘病の記録をご紹介します。

【 本症例の概要 】


  • 患者:猫(当時10ヶ月齢)
  • 誤飲したもの:靴下、不織布マスク
  • 症状:重度の腸閉塞、腹膜炎、多臓器不全、皮膚壊死
  • 結果:数ヶ月の治療を経て完治・退院

手術前ですでに「満身創痍」だった体

来院された際、猫ちゃんはすでにぐったりとしており、非常に危険な状態でした。
異物を誤飲してから時間が経過してしまっており、繰り返す嘔吐による脱水と体力消耗が著しい状態でした。

検査を進めると、腸閉塞(イレウス)を起こしているだけでなく、お腹の中にはすでに濁った腹水が溜まっており、腹膜炎を併発していることが判明しました。
まさに満身創痍の状態でしたが、詰まっているものを取り除かない限り助かる見込みはありません。私たちは緊急手術に踏み切りました。

異物は「大腸・盲腸」で完全に止まっていた

開腹してみると、事態は想像以上に深刻でした。
飲み込んでしまった「靴下」と「マスク」が腸の中で複雑に絡まり合い、小腸だけでなく、便の通り道である「大腸」や「盲腸」の部分にまで達し、そこでガッチリと詰まって動かなくなっていたのです。

自力での排泄は不可能な状態
ここまで深部に詰まってしまうと、自力で排泄されることはまずありません。このままでは腸が壊死してしまうため、一刻を争う状況でした。

手術では、異物を取り出すために、小腸に加え、細菌が多くリスクの高い大腸と盲腸の一部も切開する必要がありました。
腹腔内を大量の生理食塩水で洗浄し、ドレーン(排液管)を設置してなんとか手術を終えました。

術後の悪夢:多臓器不全の発症

手術は成功しましたが、本当の闘いはここからでした。翌日、猫ちゃんの容態が急変します。

  • 術前の著しい体力消耗
  • 侵襲の大きな手術(3箇所の消化管切開)

これらに体が耐えきれず、「急性腎不全」を発症してしまったのです。
腎臓の機能を示す数値(クレアチニン)は、正常値の上限を遥かに超える「6.06」まで跳ね上がりました。

これは多臓器不全の状態であり、医学的には「予後不良(回復の見込みが非常に薄い)」と判断せざるを得ない状況でした。
「ご自宅で看取ってあげる選択肢もあります」とお伝えしなければならないほど切迫していましたが、ご家族は「できる限りの治療をしてほしい」と、諦めない選択をされました。

その想いが通じたのか、懸命な点滴治療などが功を奏し、奇跡的に腎数値が改善。猫ちゃんは一命を取り留めました。

第二の試練:皮膚壊死とデブリードメント

腎不全の危機を脱し、胸を撫で下ろしたのも束の間でした。
今度は、お腹の手術の傷口に異変が現れました。

  • 便のある「大腸」の手術を行ったことによる、傷口への感染リスク。
  • 術前の衰弱と、腎不全による著しい免疫力・治癒力の低下。

これらが重なり、体が「皮膚を治すエネルギー」を完全に失っていたのです。
縫合したはずの傷口が開き、排膿が始まり、傷口周辺の皮膚が広範囲にわたって壊死(えし:組織が死んでしまうこと)してしまいました。

治療は、壊死した組織を少しずつ取り除く「デブリードメント」と、毎日の洗浄処置です。
感染を広げないようコントロールしながら、下から新しい皮膚(肉芽)が盛り上がってくるのを待つしかありません。
痛みを伴う処置が連日続きましたが、猫ちゃんは小さな体で、本当に我慢強く耐えてくれました。


完治、そして退院へ

長い長い闘病の末、壊死してしまった部分はきれいになり、傷口は塞がりました。
一時は「もう助からないかもしれない」と思われた状態から、ご自身の足で歩いて退院できるまでに回復したのです。
これは、ご家族の深い愛情と、何より猫ちゃん自身の「生きたい」という生命力が起こした奇跡です。

【 獣医師からのメッセージ 】

今回の事故の原因は、猫ちゃんが「飼い主さんの匂いがついたもの」に強く執着してしまったことでした。

脱ぎっぱなしの靴下や、使用済みのマスク。
私たちにとっては日常の品でも、猫ちゃんにとっては「大好きな飼い主さんを感じられるおもちゃ」であり、時に命を奪う凶器にもなり得ます。

誤飲事故は、飲み込んでしまった直後だけでなく、今回のように多臓器不全や感染症など、長期にわたって苦しい思いをさせる可能性があります。
大切な家族を守るため、誤飲の危険があるものは、必ず猫ちゃんの手(口)の届かない場所へ片付ける習慣をつけていただければと思います。


English Summary

Case Report: Severe Foreign Body Ingestion (Sock & Mask) in a Cat

This report details the case of a 10-month-old cat that presented with severe intestinal obstruction due to the ingestion of socks and a mask. The foreign bodies were lodged deeply in the small intestine, cecum, and colon, requiring emergency surgery involving multiple incisions (enterotomy and colostomy) to remove the blockage.

Postoperatively, the patient’s condition deteriorated rapidly, developing acute renal failure with a creatinine level peaking at 6.06 mg/dL, leading to a diagnosis of multiple organ failure. Although the renal function miraculously recovered with intensive care, the patient subsequently suffered from severe surgical site infection and skin necrosis. This was likely due to the high risk of bacterial contamination from the colonic surgery combined with the patient’s immunocompromised state.

Following extensive debridement and daily wound lavage, the skin lesions eventually healed, and the patient made a full recovery. This case highlights the life-threatening risks of cats ingesting items carrying their owner’s scent and the complex complications that can arise.

中文摘要 (Chinese Summary)

病例报告:猫误食异物(袜子与口罩)引发重症

本病例报告详述了一只10个月大的猫因误食袜子和口罩导致严重肠梗阻的经过。异物卡在小肠、盲肠及大肠深处,必须进行紧急手术,多处切开肠管(包括小肠及大肠)以清除阻塞物。

术后,患猫病情急剧恶化,并发急性肾功能衰竭,肌酐值(Cre)一度高达 6.06 mg/dL,被诊断为多器官功能衰竭。尽管经重症监护后肾功能奇迹般恢复,但随后因大肠手术带来的高细菌感染风险及患猫免疫力低下,导致手术部位发生严重感染及皮肤坏死。

经过彻底的清创手术(debridement)和每日伤口清洗,皮肤病变最终愈合,患猫完全康复。本病例旨在提醒饲主,猫咪容易误食带有主人气味的物品,并可能因此引发致命的并发症。